虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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「それで、そこまでしたい話というのはーー」

開け放たれた扉を見つつ、私は言う。
いざという時の逃走方法を思考しながら。
一応は、彼が望んだ通りの2人きり。
密室ではないが、無関係の人間は遥か遠く。
目にはうつるが、手は届かず。
声もしぼれば聞こえない、そんな距離感。

「大事な話、聞かれたら不味い話」

手にした肉料理を運びながら言う。
大事な話の最中にとる行動ではなかった。

「担当直入に言えば、俺は弟を次期国王の座から引きずり落とそうと思っている」
食事の感想を言うような気軽さで、彼は言った。

「ーーはい?」

引きずり落とす?
誰を?
どこから?
状況が飲み込めない。
意味がよく分からない。
何故、そんなことを婚約者のひ
聞き返す言葉に、アンドレア様は嘆息する。
併せて、口元をぬぐい、一呼吸おく。

「君はあいつのことが好きなんだろう。カストリアーー我が優秀な弟のことが好きなのだろう。政略とか、婚約者という肩書き抜きに、男として愛しているんだろう」

「ーー急に……何を…電話それは、まあ、そのーー」

いきなりの方向転換。
言葉が詰まる。
婚約者のことを愛している。
それは普通のことだ。
そして本当のことだ。
だが、だからこそ、いきなり確認されると困る。
分かりきっていることを、改めて言われると。
どうしようもなく、困ってしまう。

「君は王子であるカストリアが好きではなく、カストリアがそのものが好きなのだろう。じゃあ、別に肩書きなんてどうだっていい筈だ。だって、愛ってのはそう言うものなんだろう。計算、計略では測れない、そんな崇高なものなのだろう」

彼は続ける。
私の言葉を待たずに。
話を進める。

「君の恋心、それを叶える機会を与えるーーと言ったら、どうする?」

彼は待たない。

「君は何を差し出せる?」

私の目を見ながら、
くすくすと笑うこともなく。
ただただ、真剣な眼差しで。
嘘だ、と笑い飛ばすこともできた、はずだった。
ご冗談を、と受け流すこともできた、はずだった。

ーーでも、出来なかった。
私は彼の言葉に、一言も返すことができず。

「別にいい、急な話だ。すぐに回答をするのは難しいだろう。だからーー」

彼は続ける。

「君は黙って俺の言葉を聞いて」

彼は続けて。

「このことを、誰も彼もに秘密にして」

彼は続けた。

「自分の中の答えを見つけてくれればいい」

私の回答を待つことなく、
私の反応を気にすることもなく。
アンドレアル様は続けた。

思考は巡る、けれど答えは出ない。
適切な回答は浮かばない。
彼の言葉だけが、頭に流れる。
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