虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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「久しぶりだね、リトア」

「お、お久しぶりです。カストリア様……」

秘密を胸に、あのお方と再会した。
あの時と変わらない、整った外見。
何事もないように爽やかな挨拶を告げてくる。
その声に気持ちが昂る。

かつて、早く会いたいと願った相手。
だが今は逆だ。
私は既にカストリア様を裏切っている。
かつてのようなグレーな、曖昧な状況ではなく。
自分の意思で、
それはもう、明確に。
真っ黒に。

この場からすぐに立ち去りたい。
なんで裏切ってしまったのだろう?
他に方法はなかったのだろうか?
罪の意識で気がおかしくなりそうだ。

だけれど、心が飛び跳ねる。
顔を見るだけで、声を聞くだけで。
どうしようもない程に、気持ちが昂る。

「ーーあのっ」

つい、ありのままを話してしまいたい衝動に駆られる。
全て話して、楽になってしまいたい。

もう、負けてしまいたい。
投げ出してしまいたい。
逃げ出してしまいたい。

この方の善性を信じぬいて、助けてもらいたい。

「どうかしたのかい?」

「……いえ、なんでも、ありません」

だけど、言葉が出ない。
喉元で堪える。
ここで挫けてしまっては、それこそ過去の自分に申し訳が立たない。
もちろん、未来の自分にも。

「疲れているみたいだね。無理に会おうとしてくれなくても良いのに。また、日を改めるだけだから」

言いつつ、私の頭を撫でる。
大きくて、優しくて、温かい手。
その手で触れられると、喜びで頭が、体が熱くなる。
頬は紅潮し、汗がじんわりと滲む。
ーーだめだだめだ。
のまれては、いけない。
計画の遂行のために。
決まったことを、決まったままに。
私ならできる。
そつなく、問題なくできる。
うまくいく、
大丈夫、大丈夫。
自然に、いつも通りに。
お父様の指示で動く、人形のように。
ただ今回は、従う相手が違うだけ。

「ーーイデア様は、お元気ですか」

私は言った。
言うべき事を。
第一歩を踏み出す。

「……君から彼女のことを聞くなんて、珍しいね。ーーうん、元気だよ。とは言っても、君ら基準だと、少し体調はわるいかな。あいつは、知っての通り病弱だからね。症状が落ち着いている、という意味では元気かな」

少し驚いた風な顔つき。
たしかにそうだろう。
カストリア様からイデア様の話をすることはあっても、私の方から聞いたことは一度もない。

私の想いを、このお方が察していない訳がない。
察した上での、この対応。
イデア様への愛が勝っているのか、
私の気持ちなどどうでもいいと思っているのか。
どちらだったとしても、状況は変わらない。
過程が違えど、結果は同じなのだから。
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