虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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カストリア様は笑顔になった。
好きな話題だからだろう。
話したい事だからだろう。
ただでさえ輝くお姿が、さらに洗練される。
余計に、素敵に見える。

「食事もいつもより食べるようになったし、庭園を散歩することも増えてきた。いい傾向だと思う。いくら満ち足りた環境とはいえ、動かないと人間は朽ちてしまうから。それはイデアも同じだ」

私への心配はふっと消え、彼女のことを語る喜びに満ちる。
少し早口で、それでいて聞き取りやすい、不思議な感覚。

「もっと元気になって、みんなと同じように外に出られるといいのだけど。一緒に色んなところへ行って、色んなものを見て、色んなものを食べて。そして笑い合いたい。ーー難しいとは、思うけどね。でも、この調子ならきっと、いつかそんな日が来ると思える」

カストリア様はイデア様のことを楽しそうに、嬉しそうに語る。
この方の一番の笑顔は、彼女のことを話す時。

その彼女が、私でないことがとても悲しい。
その彼女が、私であったらいいのにと、どれ程想い焦がれただろう。

「それは、よかった、です」

短く、答える。
無理矢理に笑顔を作る。
うまく笑えてるといいけれど。

「カストリア様はイデア様がお好きですね。イデア様について話してくださる時は、いつも楽しそうです」

「ああ、好きだ。愛している」

清々しいほどに。
迷いなく、
間髪入れずに、
カストリア様は答えた。
私をじっと見つめて。

……私は答えられるだろうか。
同じように。
あなたが好きです、
愛しています、と。

ーー無理だろう。
少なくとも、今の私には。
きっと、躊躇ってしまう。

「婚約者を前にして言う言葉ではないけれど、ね。けど、嘘はつきたくないし、つけない」

カストリア様はそう言って笑う。
嘘つきの私に言う。

「でも、リトア。君のことも好きだよ」

付け加えるように。
何気ない事のように。
明日の天気を尋ねるような気軽さで、
言った。

「え、」

思考が止まる。
時間が止まる。
私だけ。
いきなりの言葉に。
聞きたかった言葉に。

「あいつも話相手がいればいいのだけどね。父上の策略の結果とはいえ、こうして君達と関わりができたのは嬉しいと思う。全てが、ではないけどリトアのような子に会えたのは嬉しいよ」

そんな、
そんな言葉を今、
どうしてーー

「けど、好きというにはあくまで、良き友人として、だけれどね。ただ、イデアがいなかったら正直どうなっていたか分からない。君は聞き上手だし、時々見せるおっちょこちょいな様子も可愛い。どこかほっとけない、という印象かな」

まずい
不味い。
これは、良くない。
だって、だってーー
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