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「改めまして、初めまして。私、リトア=エーテルザットと申します」
「……はい」
私の言葉を、ぼんやりとイデア様は聞く。
「お元気そうで何よりです。今日は何をなされていたのですか?」
「……えっと」
私は待つ。
「……なんでしょう」
笑顔で待つ。
「……日向」
作り笑顔で。
「……ぼっこ?」
ゆっくりな返答が返って来た。
会話を交わすのは初めて。
だが、このようなスローテンポな方とは思わなかった。
「そ、そうなんですね。今日は天気がいいですからね」
「……、……」
私の言葉に、沈黙。
ぼんやりとどこかを見つめている。
「ーーイデア様?」
「……はい?」
聞き返すと、一応の反応あり。
だけれど、それまでだ。
こちらが黙れば何も話す気配はないし。
結果、私が世間話を無理くりにする羽目になった。
不敬にならないよう、注意しつつ。
それでいて、会話している雰囲気を出せるように。
カストリア様は、いつもこうしているのだろうか。
擬似的とはいえ、あのお方も役割を演じるということに、ほんの少しの高揚感を得た。
ほんの少し、だけだけど。
ーー
耐えることーーどれくらいだっただろう。
体感としては半日くらいなのだけど。
実際はそこまで経ってはいないのだろう。
日は落ちていないし。
疲れる。
疲れた。
何を話せばいいか分からない。
何を話していいか分からない。
私の問いへの反応が、もの凄いゆっくりだ。
テンポが悪過ぎる。
「ーーでは、また機会があれば」
深々と頭を下げて、私は部屋を出る。
イデア様は特に何も言わず、ぼんやりとしたまま。
切り出し方としては、割と強引。
だけれど、こうでもしないと終わりがない。
何も言わなければ、ずっとあの空間にいる羽目になる。
それこそ、誰かが来なければ。
深いため息が漏れる。
足早に階段を駆け降りて、外へ出る。
そして、精一杯呼吸する。
空気が美味しい。
あの部屋が湿気っている、埃っぽいのもあるかも知れない。
だが、一番の原因はあの人だ。
どうしてカストリア様があれ程までに楽しそうに話すのかわからない。
ーーいや、愛しているから、なのだろうか。
愛があれば、あのような人でも楽しく過ごせるのか。
確かに見た目はいい、引くほどいい。
だけど、あれでは人形と変わらない。
一人でいるのと、変わらない。
「お疲れのようだな。だが、あれと仲良くならないことには話は進まないぞ」
外で待機していたアンドレアル様と合流する。
「あまり上手にできる気がしませんね。私のこと、存在すら認知されてませんし」
私はいつものようにため息をついた。
公爵家令嬢、というより溜息令嬢の方が合っているかもしれない。
「……はい」
私の言葉を、ぼんやりとイデア様は聞く。
「お元気そうで何よりです。今日は何をなされていたのですか?」
「……えっと」
私は待つ。
「……なんでしょう」
笑顔で待つ。
「……日向」
作り笑顔で。
「……ぼっこ?」
ゆっくりな返答が返って来た。
会話を交わすのは初めて。
だが、このようなスローテンポな方とは思わなかった。
「そ、そうなんですね。今日は天気がいいですからね」
「……、……」
私の言葉に、沈黙。
ぼんやりとどこかを見つめている。
「ーーイデア様?」
「……はい?」
聞き返すと、一応の反応あり。
だけれど、それまでだ。
こちらが黙れば何も話す気配はないし。
結果、私が世間話を無理くりにする羽目になった。
不敬にならないよう、注意しつつ。
それでいて、会話している雰囲気を出せるように。
カストリア様は、いつもこうしているのだろうか。
擬似的とはいえ、あのお方も役割を演じるということに、ほんの少しの高揚感を得た。
ほんの少し、だけだけど。
ーー
耐えることーーどれくらいだっただろう。
体感としては半日くらいなのだけど。
実際はそこまで経ってはいないのだろう。
日は落ちていないし。
疲れる。
疲れた。
何を話せばいいか分からない。
何を話していいか分からない。
私の問いへの反応が、もの凄いゆっくりだ。
テンポが悪過ぎる。
「ーーでは、また機会があれば」
深々と頭を下げて、私は部屋を出る。
イデア様は特に何も言わず、ぼんやりとしたまま。
切り出し方としては、割と強引。
だけれど、こうでもしないと終わりがない。
何も言わなければ、ずっとあの空間にいる羽目になる。
それこそ、誰かが来なければ。
深いため息が漏れる。
足早に階段を駆け降りて、外へ出る。
そして、精一杯呼吸する。
空気が美味しい。
あの部屋が湿気っている、埃っぽいのもあるかも知れない。
だが、一番の原因はあの人だ。
どうしてカストリア様があれ程までに楽しそうに話すのかわからない。
ーーいや、愛しているから、なのだろうか。
愛があれば、あのような人でも楽しく過ごせるのか。
確かに見た目はいい、引くほどいい。
だけど、あれでは人形と変わらない。
一人でいるのと、変わらない。
「お疲れのようだな。だが、あれと仲良くならないことには話は進まないぞ」
外で待機していたアンドレアル様と合流する。
「あまり上手にできる気がしませんね。私のこと、存在すら認知されてませんし」
私はいつものようにため息をついた。
公爵家令嬢、というより溜息令嬢の方が合っているかもしれない。
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