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「そこは悲しむ必要はない。あれは弟以外、興味がない。名前も覚えない。きっと俺ですら覚えていないだろう」
続けて言う。
「ただの無機質な美術品とでも思ってくれればいい。あれは、見て楽しむぐらいしか用途がない」
まだ彼は続ける。
思うところがあるのだろう。
「それも若い間だけだ。老いて朽ちればどうしようもない。ただの金食い虫だ」
私は黙って聞く。
もしかしたら私は聞き上手なのかもしれない。
「だから、これから行うことはただの経費削減だ。人の命はただじゃない。しかも王族となればその費用は一般のそれとは異なる」
成る程、この人は私を慰めようとしているのかもしれない。
「だから、気にやむことはない」
もしかしたら、ひょっとして。
悪い人ではないのかもしれない。
「それに、君が殺しても、君が殺したことはならない」
これまでの、いやきっとこれからもの軽薄や挑発気味な態度は全て嘘で。
私の気を引くための演技なのかもしれない。
「犯人は愛しの王子様だ。君の罪を被ってくれる。美しいとは思わないか」
ーーそう考えるのは、やはり自意識過剰なのだろうと思って、やめた。
「……ええ、はい」
「ーー適当に答える、なっ!」
こつん、と頭を小突かれる。
いてて、と私は頭をさする。
不敬と言えば、今の私の態度は十二分に不敬なのではないかと思った。
慣れというのは怖い。
カストリア様相手ではこうはならないというのに。
どうでもいい相手ーーいや、王族だから全然大事、あくまで立場的にという意味で、
なのだけどれど。
ここまで砕けて接していられるのは、どうしてだろう。
おかしな状況だからかもしれない。
非日常にいるからかもしれない。
矛盾した行動をしているからかもしれない。
好きな人を手に入れるために、好きな人の好きな人を殺す。
好きな人を手に入れるために、好きな人を罪人におとす。
そんな状況がきっと、私をおかしくしているのだろう。
いつもの私だったら、
これまでの私だったら。
いや、そうでもないか。
あのお方に恋した時点で、とうの昔におかしくなっているのだから。
ーー
回想終了。
思い出せば長かった。
けれど、まだ計画は序盤。
先も十分長い。
手にした小瓶を見る。
濃い紫の、濁った液体。
毒、これを飲めば死ぬ。
試しに領内の野うさぎにほんの少し飲ませてみた。
死んだ、悪いことをした。
けど、これから私はもっと悪いことをする。
慣れなくては。
自分の手を汚すことに、
命を奪うことに。
続けて言う。
「ただの無機質な美術品とでも思ってくれればいい。あれは、見て楽しむぐらいしか用途がない」
まだ彼は続ける。
思うところがあるのだろう。
「それも若い間だけだ。老いて朽ちればどうしようもない。ただの金食い虫だ」
私は黙って聞く。
もしかしたら私は聞き上手なのかもしれない。
「だから、これから行うことはただの経費削減だ。人の命はただじゃない。しかも王族となればその費用は一般のそれとは異なる」
成る程、この人は私を慰めようとしているのかもしれない。
「だから、気にやむことはない」
もしかしたら、ひょっとして。
悪い人ではないのかもしれない。
「それに、君が殺しても、君が殺したことはならない」
これまでの、いやきっとこれからもの軽薄や挑発気味な態度は全て嘘で。
私の気を引くための演技なのかもしれない。
「犯人は愛しの王子様だ。君の罪を被ってくれる。美しいとは思わないか」
ーーそう考えるのは、やはり自意識過剰なのだろうと思って、やめた。
「……ええ、はい」
「ーー適当に答える、なっ!」
こつん、と頭を小突かれる。
いてて、と私は頭をさする。
不敬と言えば、今の私の態度は十二分に不敬なのではないかと思った。
慣れというのは怖い。
カストリア様相手ではこうはならないというのに。
どうでもいい相手ーーいや、王族だから全然大事、あくまで立場的にという意味で、
なのだけどれど。
ここまで砕けて接していられるのは、どうしてだろう。
おかしな状況だからかもしれない。
非日常にいるからかもしれない。
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好きな人を手に入れるために、好きな人の好きな人を殺す。
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そんな状況がきっと、私をおかしくしているのだろう。
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ーー
回想終了。
思い出せば長かった。
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毒、これを飲めば死ぬ。
試しに領内の野うさぎにほんの少し飲ませてみた。
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けど、これから私はもっと悪いことをする。
慣れなくては。
自分の手を汚すことに、
命を奪うことに。
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