45 / 69
45.
しおりを挟む
「お嬢様」
拘束部屋でのんびりとしているエクレアがお見舞いに来た。
お見舞い、という表現が正しいかは分からないが。
面会、というのが正しいのだろう、この場合は。
「こちらが手を下すまでもなかったな。馬鹿娘が」
お父様も、そこにいた。
いつものような高圧的な態度。
だけど、私如きのためにわざわざ外に出るなんて。
「どうして、お父様がーー」
言いつつ、理由は推測できた。
王族殺し、その容疑者ーーというより、最早犯人。
その家長がなんらかの責任を取らされるのは容易に想像がつく。
「どうしてもこうしても無かろう。この逆賊が。ぼんくら第一王子と仲良くやっているかと思えば、それを殺し、捕まるとは。我が娘とは思えん愚行」
……どうして、私とアンドレアル様のことを。
どこかで情報が漏れたか。
或いは……
「ーーまあ、そもそもお前はエーテルザットの血筋ではないから当然か」
「え?」
私は問い返す。
「お前が従者として重用していた、このエクレアこそ真の我が娘、エクレア=エーテルザットなのだよ。お前はその影に過ぎん、我が家はその性質上、他者の恨みを買いやすい。歳を重ね、知恵を重ね、思慮を束ねられるまでは表舞台には出さんのだよ」
ぽんぽん、と彼女の肩を叩く。
叩かれた側は複雑そうな表情。
「でもーー」
何かを言おうとする私。
だが、何を言えばいいか分からない。
私が実の娘ではない、
なら、私は誰の娘?
お父様は?
お母様は?
そもそも私は何者なの?
何のためにここにいる?
何のためにあそこにいた?
「お前は知らなくて当然だ、寧ろこれを知っているのはごくごく一握り。この場を除けば、あとはぼんくら王子がせいぜい。あれは別件で一度噛んだことがあったので、仕方なくバラした、というところだが」
私はエクレア見る。
知っててこれまで仕えていたのか。
心の中では、見下し馬鹿にしていたのか。
ーーいや、違う。
彼女はそんな女ではない。
そのことは私が一番良く知っている。
ずっとずっと、一緒にいた。
一番良く尽くしてくれた。
自慢の従者。
彼女が私にそんな感情を抱くはずがない。
目を伏せ、唇を噛んでいる。
心苦しそうに。
「だが、対外的にはまだ貴様が我が娘だ。故に、その責任は我が家に及ぶということだ」
お父様は私の前に、コツンと置く。
どす黒い色の液体が入った、小瓶。
「これは貴様が使おうとしていた毒薬ーーの改良版だ。元々のそれより、苦痛が激しい」
続けて言う。
「自害しろ」
短く、告げる。
死に損なった私を、終わらせるために。
拘束部屋でのんびりとしているエクレアがお見舞いに来た。
お見舞い、という表現が正しいかは分からないが。
面会、というのが正しいのだろう、この場合は。
「こちらが手を下すまでもなかったな。馬鹿娘が」
お父様も、そこにいた。
いつものような高圧的な態度。
だけど、私如きのためにわざわざ外に出るなんて。
「どうして、お父様がーー」
言いつつ、理由は推測できた。
王族殺し、その容疑者ーーというより、最早犯人。
その家長がなんらかの責任を取らされるのは容易に想像がつく。
「どうしてもこうしても無かろう。この逆賊が。ぼんくら第一王子と仲良くやっているかと思えば、それを殺し、捕まるとは。我が娘とは思えん愚行」
……どうして、私とアンドレアル様のことを。
どこかで情報が漏れたか。
或いは……
「ーーまあ、そもそもお前はエーテルザットの血筋ではないから当然か」
「え?」
私は問い返す。
「お前が従者として重用していた、このエクレアこそ真の我が娘、エクレア=エーテルザットなのだよ。お前はその影に過ぎん、我が家はその性質上、他者の恨みを買いやすい。歳を重ね、知恵を重ね、思慮を束ねられるまでは表舞台には出さんのだよ」
ぽんぽん、と彼女の肩を叩く。
叩かれた側は複雑そうな表情。
「でもーー」
何かを言おうとする私。
だが、何を言えばいいか分からない。
私が実の娘ではない、
なら、私は誰の娘?
お父様は?
お母様は?
そもそも私は何者なの?
何のためにここにいる?
何のためにあそこにいた?
「お前は知らなくて当然だ、寧ろこれを知っているのはごくごく一握り。この場を除けば、あとはぼんくら王子がせいぜい。あれは別件で一度噛んだことがあったので、仕方なくバラした、というところだが」
私はエクレア見る。
知っててこれまで仕えていたのか。
心の中では、見下し馬鹿にしていたのか。
ーーいや、違う。
彼女はそんな女ではない。
そのことは私が一番良く知っている。
ずっとずっと、一緒にいた。
一番良く尽くしてくれた。
自慢の従者。
彼女が私にそんな感情を抱くはずがない。
目を伏せ、唇を噛んでいる。
心苦しそうに。
「だが、対外的にはまだ貴様が我が娘だ。故に、その責任は我が家に及ぶということだ」
お父様は私の前に、コツンと置く。
どす黒い色の液体が入った、小瓶。
「これは貴様が使おうとしていた毒薬ーーの改良版だ。元々のそれより、苦痛が激しい」
続けて言う。
「自害しろ」
短く、告げる。
死に損なった私を、終わらせるために。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜
六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。
極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた!
コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。
和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」
これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。
辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。
コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。
だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。
それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。
ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。
これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷 むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位)
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。
私のかわいい旦那様
Rj
恋愛
優秀だが変わり者とよばれる王太子ダレンに嫁いだシャーリーは、「またやってしまった……」落ち込む夫に愛おしさを感じる。あなたのためなら国を捨てることもいといません。
一話完結で投稿したものにもう一話加え全二話になりました。(10/2変更)
『次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛』に登場するグレイスの長女と次男の話ですが未読でも問題なくお読み頂けます。
天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く
りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。
私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。
それなのに裏切りやがって絶対許さない!
「シェリーは容姿がアレだから」
は?よく見てごらん、令息達の視線の先を
「シェリーは鈍臭いんだから」
は?最年少騎士団員ですが?
「どうせ、僕なんて見下してたくせに」
ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…
婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました
青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。
しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。
「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」
そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。
実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。
落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。
一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。
※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる