虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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「愚か、なんと愚かな。死を前にしてとうとう狂ったか」
 額を押さえ、嘲笑するペンタグラ。

「いや、そうでもないか。貴様はとっくのとうに狂っていた。カストリアに惚れた辺りからは随分と顕著にな。いい、いいぞ、許そう。貴様は狂ったまま、常軌を逸したまま死ね。常人でもなく、ただ人でもなく、貴族でもなくーーただの狂人として死ね」

 続ける。
 冷酷ま口調で。

「誰の記憶に残ることもなきーー死ね」

 ペンタグラは言い切ると、右手を上げた。
 その手を一瞬の躊躇いもなく、振り下ろしーー

「な、なっーー」

 その手は、苦痛とともに静止した。
 隣で控えていた、
 動かず、話さず、ただそこにいた彼女の手によって止められていた。

「エクレアーー貴様っ、ーー何故っ!」

 ペンタグラの脇腹に、深々と短刀が突き刺さる。
 致命傷、とまではいかないだろうが動きを止めるには十分過ぎる不意打ち。

「何故も何もありません。私にとって従うべきはリトア様。血の繋がりがどうであろうと、関係あろうと、関係ありません」

「ーー揃いも揃って、愚か者どもがっ!」

 言いつつ、ペンタグラはエクレアを振り払う。
 その拳は空を捉え、彼女に触れることはなかった。

「叛逆のつもりか? 遅ればせの反抗期か? どちらにせよ、覚悟は出来ているのだろうな?」

 ペンタグラは彼女に凄む。
 だけれど、エクレアは気にする風もなく。

「覚悟? それは貴方の方でしょう? リトア様ーーいえ、お嬢様はもちろん、私も覚悟はとっくに出来ています」

「抜かせっ!」

 ペンタグラは吼える。
 併せて、近場にいた兵士から剣を取り上げる。
 構えもなく、すぐ様に斬りかかる。
 躊躇いもない。
 迷いもない。
 ただ、感情のままに、怒りのままに相手を害する。

「この程度の擦り傷で優位を取ったつもりか? 不意打ちで傷をつけられたことが誇らしいか? 自分に酔うのも大概にしろっ!」

 あの人はそうして生きてきた。
 そうやって、今の地域を手に入れた。
 成功を重ねてきた。
 だから、それを間違いだと。
 誤りだと気づくこともなかった。

「死なない程度に殺してやる! 何、手が千切れようと足がもげようと大した問題ではない。今から得る教訓はそれ以上の価値がある!」

「貴方から教わることなんて、もう何もありませんよ」

 切先を見切り、ギリギリのところで彼女は避ける。
 ペンタグラの殺意を、交わし、流し。
 獣のような激しい連撃、木の葉のように交わしていく。
 取り囲む兵士も、私たちと同じく見守ることしか出来ず、ただの背景と化していた。

「もう、十分ーー見ていますから」

 そう告げて、男の顔に一撃を見舞う。
 男の巨体が地面に倒れ伏す。
 
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