虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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「ちょろちょろと……動きおってからにっ!」

 ペンタグラは、立ち上がる。
 地面に唾を吐き捨て、剣を突き立て。
 エクレアを睨みつける。

「調子に乗るなよ、餓鬼がっ」

「それは貴方の方では? いつまで現役のつもりなんですか? 過去の栄光、若さへの嫉妬は捨て、引退するのが得策と思いますが」

「黙れっ! 好き放題言いおって!」

 ペンタグラはいいつつ、突き立てた剣を引き抜き、彼女にそのまま投擲する。
 速度は十分、狙いも確実。
 ーーのはずであったが、当たらず。
 彼女の隣を勢い良く通り抜ける。
 溜息を零しつつ、彼女はペンタグラへと足を進める。

「……もう、終わりなんですよ。時間切れです」

 その言葉のタイミングで、立ち上がったはずのペンタグラが、再び地面に倒れる。
 本人も何が起こったか分からないというような、驚愕な表情。
 そして、彼女は彼の眼前にたどり着く。

「成る程、貴方の体は頑丈です。現役ではないとはいえ、一般人のそれとは一線を画しています。かつての、そして日々の鍛錬の賜物でしょう。ーーですが、中身はどうでしょう」

「中身、だと……っ、まさか貴様!」

 言いかけたタイミングで、ペンタグラは吐血する。
 黒く濁った赤い血が垂れる。

「多分正解ですよ。多少傷を負っているとはいえ、最早現役ではないとはいえ、貴方はペンタグラ=エーテルザット。その攻撃に全て対応し切れると思い上がっている訳ではありませんので。小細工をさせていただきました」

「毒……かっーー卑怯者めがっ!」

 倒れたまま、殺意だけは瞳に宿し叫ぶ。
 拳を握るも、それを繰り出すことは出来ずに。
 苦しそうに、悔しそうに、叫ぶ。

「卑怯、卑劣がなんだと言うのですか。勝てばいい、勝たなくは意味がない。それがエーテルザットでしょう。いえ、正しくは『勝って奪って生き残れ。敗者の弁に価値は無し』でしたっけ? なら、貴方の言葉にも最早価値は無いのかもしれませんね」

 倒れ伏すペンタグラを見下ろすエクレア。
 しゃがみ込み、手にした短刀をペンタグラの首元に添える。
 一呼吸あれば殺せる状況。

「使用したのは即効性のある毒です。貴方がお嬢様に渡した毒薬の余りです。まさかご自身に降りかかるとは、思わなかったでしょうが」

 あの時のあれ、か。
 彼女なりの意趣返し。
 私のためでもあるのだろう。
 私を殺そうとした毒で、自らを害する。

「抜かったわ……おのれっ、おのれおのれぃーー」

「命乞いの言葉はありますか? 或いは、言い残した言葉はありますか?」

「好きなだけ、言ってください。それだけは、許してあげます」

 と、冷たい笑顔を向けて。
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