3 / 51
一章
2.契約
しおりを挟む
アンドレア・エーテルザット。
それが悪役令嬢の物語の主役であったパトリシア・マーテルロの旦那の名前である。
嬉々として肉を頬張り、時間・場所・状況を問わずお腹が空けば食事をする男。
怠惰の塊のような男。
肉の塊のような男。
丸みを帯びた体、野太い声。
「あの……アンドレア様?今日はお茶会だったと記憶していますが?」
「お茶会だよ、もちろんお茶会さ。全くもって間違いない。ーー視線の先は、これかな?これは茶菓子だよ、少しジューシーな」
もしゃもしゃと肉塊を頬張っていく。
共食いにしか見えない、悲しい光景を唖然と見つてめていた。
これなら、悲壮漂う湿地を眺めている方が、随分と精神衛生に良いことだろう。
「アンドレア様、私言いましたよね?」
「え、何だっけ?」
「婚約時の条件、お忘れですか?」
「あー、あれか。そうだね、あったね」
しゅんと大きな体を少し縮めるアンドレア。
言葉にするほどは縮んでいない。
「民が認める理想の領主となるまでは、接吻含め体の関係は持たない。結婚の事実と、それに付随する行為の一切を禁ずる、と」
「はい。その通りでございます」
「ーーだったらどうして、逆行するようなことをするんですか?貴方の私への愛はその程度なんですか!」
パトリシアは叫んだ。
過去の自分を思い出しながら。
財力、権力、貞操、良心、自身の全てをかなぐり賭けて、私はあの恋に挑んだ。
そして、敗れた。
満足のいく結果ではないが、それでも最善は尽くした。
何度生まれ変わろうと、何度やり直そうとも、あれが自分ができる最善だったと胸を張ってい言える。
だが、目の前のこの男はなんだ?
契約により決められた婚約。
確かに私は罪人で、その贖罪として結婚を余儀なくされた。
だが、一握に残ったプライドが叫けばした言葉に、この男は頷いた。
そして言った。
『分かりました』
『これまでの僕とはお別れだ』
『民が望む、君が望む理想の領主になろう』
そう誓ったはずだ。
なのに、
なのに。
何故、この男は恥ずかしげもなく肉を頬張っている?
何故、挨拶のように肉を勧めてくる?
おかしい、
可笑しい。
私か、それとも世界か、あるいはこの男か。
とにかく、この状況はおかしい。
完全に間違っている。
故に、パトリシアの口は止まらない。
彼の心を抉り、削る言葉を紡ぐ。
「アンドレア様、貴方は1日に何度ご飯を食べているか数えたことはありますか?朝起きて食べ、身支度を整えて食べ、昼食を食べ、おやつを食べ、夕食を食べ、小腹が空いたと食べ、眠る前に一口と食べーー食べて、食べて、食べて。1日の何割を食事の時間に費やしているのですか?そんな体たらくで、私に、民の畏敬される領主になれるとお考えですか?」
アンドレアは黙って彼女の言葉を聞いていた。
口内に残った肉片を味わいつつ、酷いことを言うな、傷つくなと思いながら聞いていた。
言葉は心に届かず、記憶にも残らない。
肉の旨味とともに消えていく。
「ごめん」
彼が返せる言葉は、それ一つだけだった。
それが悪役令嬢の物語の主役であったパトリシア・マーテルロの旦那の名前である。
嬉々として肉を頬張り、時間・場所・状況を問わずお腹が空けば食事をする男。
怠惰の塊のような男。
肉の塊のような男。
丸みを帯びた体、野太い声。
「あの……アンドレア様?今日はお茶会だったと記憶していますが?」
「お茶会だよ、もちろんお茶会さ。全くもって間違いない。ーー視線の先は、これかな?これは茶菓子だよ、少しジューシーな」
もしゃもしゃと肉塊を頬張っていく。
共食いにしか見えない、悲しい光景を唖然と見つてめていた。
これなら、悲壮漂う湿地を眺めている方が、随分と精神衛生に良いことだろう。
「アンドレア様、私言いましたよね?」
「え、何だっけ?」
「婚約時の条件、お忘れですか?」
「あー、あれか。そうだね、あったね」
しゅんと大きな体を少し縮めるアンドレア。
言葉にするほどは縮んでいない。
「民が認める理想の領主となるまでは、接吻含め体の関係は持たない。結婚の事実と、それに付随する行為の一切を禁ずる、と」
「はい。その通りでございます」
「ーーだったらどうして、逆行するようなことをするんですか?貴方の私への愛はその程度なんですか!」
パトリシアは叫んだ。
過去の自分を思い出しながら。
財力、権力、貞操、良心、自身の全てをかなぐり賭けて、私はあの恋に挑んだ。
そして、敗れた。
満足のいく結果ではないが、それでも最善は尽くした。
何度生まれ変わろうと、何度やり直そうとも、あれが自分ができる最善だったと胸を張ってい言える。
だが、目の前のこの男はなんだ?
契約により決められた婚約。
確かに私は罪人で、その贖罪として結婚を余儀なくされた。
だが、一握に残ったプライドが叫けばした言葉に、この男は頷いた。
そして言った。
『分かりました』
『これまでの僕とはお別れだ』
『民が望む、君が望む理想の領主になろう』
そう誓ったはずだ。
なのに、
なのに。
何故、この男は恥ずかしげもなく肉を頬張っている?
何故、挨拶のように肉を勧めてくる?
おかしい、
可笑しい。
私か、それとも世界か、あるいはこの男か。
とにかく、この状況はおかしい。
完全に間違っている。
故に、パトリシアの口は止まらない。
彼の心を抉り、削る言葉を紡ぐ。
「アンドレア様、貴方は1日に何度ご飯を食べているか数えたことはありますか?朝起きて食べ、身支度を整えて食べ、昼食を食べ、おやつを食べ、夕食を食べ、小腹が空いたと食べ、眠る前に一口と食べーー食べて、食べて、食べて。1日の何割を食事の時間に費やしているのですか?そんな体たらくで、私に、民の畏敬される領主になれるとお考えですか?」
アンドレアは黙って彼女の言葉を聞いていた。
口内に残った肉片を味わいつつ、酷いことを言うな、傷つくなと思いながら聞いていた。
言葉は心に届かず、記憶にも残らない。
肉の旨味とともに消えていく。
「ごめん」
彼が返せる言葉は、それ一つだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる