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一章
8.暴食のアンドレア
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物語は動く。
当然、このままかの悪役令嬢が何もしないことはない。
何も起こらない、ということはあり得ない。
甘い時間は続かない。
いや、それは正しくない。
甘い時間は甘いままではいられない、というべきだろう。
「パトリシア、今日はこのくらいで大丈夫だよ」
「何を仰っているのですか?アンドレア様は普通の方とは違うのです。1日5食程度ではまだ足りないくらいですよ」
「そう、だけどさ。こう決まった時間に準備されていると、僕としても、そのーー食べるのがしんどいというか」
目の前に並んだ豪勢な料理を、恨めしそうに見つめる。
あの日以来、アンドレアの口に入るものは全てパトリシアが作るようになった。
食材の選択、メニューの立案、調理の実施、提供時間の決定も彼女が全て行なっている。
滞りなく、つつがなく。
それは、アンドレアにとっても良いことだった。
愛しい女性の手料理を、たくさん食べられるということは、幸せというほかなかった。
そのせいか、彼は今まで以上に食事を平らげた。
彼女の料理の腕の成せる技か、あるいは彼女への愛故か。
理由は明確には分からないが、結果ははっきりしていた。
アンドレアの体は、この短期間でさらに成長した。大きくなった。巨大になった。
ーー端的に言えば太った。
残念な体が、より残念になった。
腹は子供が3人くらい詰まっているかのように膨れ、顔はほっぺたが自重で落ちそうなくらい垂れている。
最早、自身の力だけでは、満足に立つことができないくらい、肥え太ってしまった。
食べる量は増えても、動く量は変わらない。
ならば当然の帰結である。
消費と供給。
余剰が出れば、蓄積される。
「駄目です。アンドレア様がアンドレア様らしくいられるように、しっかり食べないと」
「君の気持ちは嬉しいけどーー」
「なら、しっかりと食べてください。私も、頑張って作りますので」
その言葉に、アンドレアは黙るしかなかった。
そうだ、彼女は僕のためを想い、良かれと想いこのような行動をしている。
食べること、食べ続けること。
何もうまくできない、何も続けられなかった僕が、唯一できること。
僕が食べることで、彼女が笑ってくれるならば、食べるべきだ。
それだけが彼女の気持ちに、行動に報いることだから。
アンドレアは心中で呟き、自身を鼓舞する。
そして、目の前の料理と対峙する。
かつて、あれ程求めた料理が、こうも恨めしく見えるとは。
人生とは分からないものである。
「そう、だね。ごめん、せっかく作ってもらったのに、変なことを言って」
「いえ、大丈夫です。アンドレア様が私の料理を食べてくれるなら、それだけで」
彼女は笑顔を絶やさない。
爛漫な笑顔のまま、アンドレアに料理を運ぶ。
少し苦しげに食べるアンドレアを見て、ほんの少し複雑そうな、不思議そうな表情をつくって。
「美味しいですか?」
「美味しいよ、パトリシア」
「ありがとうございます」
彼女は、嘘偽りの言葉を繋ぐ。
繋ぎ続ける。
夢の時間の、終わりまで。
そして、彼はその笑顔を守るために食べる。
意識が堕ちる、その時まで。
当然、このままかの悪役令嬢が何もしないことはない。
何も起こらない、ということはあり得ない。
甘い時間は続かない。
いや、それは正しくない。
甘い時間は甘いままではいられない、というべきだろう。
「パトリシア、今日はこのくらいで大丈夫だよ」
「何を仰っているのですか?アンドレア様は普通の方とは違うのです。1日5食程度ではまだ足りないくらいですよ」
「そう、だけどさ。こう決まった時間に準備されていると、僕としても、そのーー食べるのがしんどいというか」
目の前に並んだ豪勢な料理を、恨めしそうに見つめる。
あの日以来、アンドレアの口に入るものは全てパトリシアが作るようになった。
食材の選択、メニューの立案、調理の実施、提供時間の決定も彼女が全て行なっている。
滞りなく、つつがなく。
それは、アンドレアにとっても良いことだった。
愛しい女性の手料理を、たくさん食べられるということは、幸せというほかなかった。
そのせいか、彼は今まで以上に食事を平らげた。
彼女の料理の腕の成せる技か、あるいは彼女への愛故か。
理由は明確には分からないが、結果ははっきりしていた。
アンドレアの体は、この短期間でさらに成長した。大きくなった。巨大になった。
ーー端的に言えば太った。
残念な体が、より残念になった。
腹は子供が3人くらい詰まっているかのように膨れ、顔はほっぺたが自重で落ちそうなくらい垂れている。
最早、自身の力だけでは、満足に立つことができないくらい、肥え太ってしまった。
食べる量は増えても、動く量は変わらない。
ならば当然の帰結である。
消費と供給。
余剰が出れば、蓄積される。
「駄目です。アンドレア様がアンドレア様らしくいられるように、しっかり食べないと」
「君の気持ちは嬉しいけどーー」
「なら、しっかりと食べてください。私も、頑張って作りますので」
その言葉に、アンドレアは黙るしかなかった。
そうだ、彼女は僕のためを想い、良かれと想いこのような行動をしている。
食べること、食べ続けること。
何もうまくできない、何も続けられなかった僕が、唯一できること。
僕が食べることで、彼女が笑ってくれるならば、食べるべきだ。
それだけが彼女の気持ちに、行動に報いることだから。
アンドレアは心中で呟き、自身を鼓舞する。
そして、目の前の料理と対峙する。
かつて、あれ程求めた料理が、こうも恨めしく見えるとは。
人生とは分からないものである。
「そう、だね。ごめん、せっかく作ってもらったのに、変なことを言って」
「いえ、大丈夫です。アンドレア様が私の料理を食べてくれるなら、それだけで」
彼女は笑顔を絶やさない。
爛漫な笑顔のまま、アンドレアに料理を運ぶ。
少し苦しげに食べるアンドレアを見て、ほんの少し複雑そうな、不思議そうな表情をつくって。
「美味しいですか?」
「美味しいよ、パトリシア」
「ありがとうございます」
彼女は、嘘偽りの言葉を繋ぐ。
繋ぎ続ける。
夢の時間の、終わりまで。
そして、彼はその笑顔を守るために食べる。
意識が堕ちる、その時まで。
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