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三章
26.終わりの悪役
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仲間の肉の盾の効果か、飛び道具の使用も封じることに成功した。
蛮族と呼ばれているとはいえ、それはあくまでこちら側の評価。
真に野蛮、あるいは身内に対しても蛮行を犯す、という訳でもないらしい。
結果、膠着状態。
沈黙が続く。
風の音、呼吸の音が澄んで聞こえる。
ーーいや、それ以外にも音はあった。
沼に落ち、罠に囚われ、丸太にぶたれた者たち。
彼らの苦痛に悶える声が、絶えず響いている。
だけれど、それも絶えず聞こえていれば、耳に馴染む。
それ以外の音に対しての方が、感覚に届きやすい。
「どうした! これでもう手詰まりか? 跪く用意はできたか?」
威嚇するように、威圧するように叫ぶ。
だが、数人が一歩下がる程度で、その大半は武器を構えたまま動かない。
膠着状態が続く。
だが、それも仕方がないのかもしれないと、パトリシアは思った。
自身の罠により、十数人は犠牲になっている。
傷を負い、自力での脱出は困難な状態。
自分たちが撤退するということは、彼らを見捨てることと同じ。
見殺しにすることと同じ。
串刺しにされるか、
あるいは盾の飾りに使われる。
逃走の行為が、仲間の蹂躙と繋がっている。
自らの意思で選択することは難しいだろう。
だからこその膠着状態。
何かきっかけがなければ、平行線のままだろう。
やり過ぎたか、と内心で後悔する。
だけれども、彼女がそうしていなければ、そのまま彼女の敗北で終わっていたことだろう。
数の論理で圧殺されていたことだろう。
話にもならない。
ただの事実、結果が残ってお終いである。
串刺しの飾り、
沼の落とし穴、
自動式の罠、
打撃の丸太、
人肉つきの盾。
彼女の策はこれまでである。
この膠着状態までがやっとである。
朝まで時間が稼げれば、撤退するかもしれない。
少なくとも日の光が差し込めば、諦めるかもしれない。
恐怖と苦痛はその決断を早めるかもしれない。
だけれどーー
「××、××、×××ーー」
何かの合図のように、一歩下がった足が、二歩前に出た。
一人ではなく、数人。
いや、視界に映るもの全員だ。
だから、
必然、
反射的に。
「そうか、まだ……続ける……ということですか」
パトリシアの足が下がる。
一歩、どころか数歩。
後ろへと動く。
口調を維持することも、震えを隠すことも限界らしい。
「××、×××××××××××、×××!」
一人の男が、何かを言う。
叫ぶように。
それに呼応するように、彼ら全員が走った。
近接系の武器の者以外も、全員。
弓や火器を持つ者も、それらを鈍器のように構えて。
「あーあ……これはもう、お終いっぽいですね」
彼女は言う。
腕をだらりと下げて、
力なくその場に座り込んで。
全力で駆けてくる敵対者たちを眺める。
もう、何もしなくていいのか。
頑張る必要もないか。
なら、ここで終わりでもいいのかもしれない。
これだけの殺意を向けてくるならば、拷問に至る前に殺されることだろう。
勢い余って殺されてしまうだろう。
彼らには手加減する余裕はない。
未練、という程のものはこの世にないし。
別にこれからの人生、かつて程のやる気はないし。
思い返せば、復讐まがいのことをしたところで、私が幸せになる訳ではない。
彼らが不幸になって、相対的に自身が幸福になった気がするだけだ。
踠いてまで、努力してまでやることではなかったかもしれない。
「×××! ×××! ×××!」
ならば、ここで物語を終わらせよう。
少し遅れた処刑のようなものだ。
自身が死ぬ姿は、誰にも見られたくはない。
なので、これで良しとしよう。
醜い姿は、
恐怖に塗れ、
汚い血に穢れた姿は。
特に、あの方にはーー
「ダリル、様」
短く言って、彼女は目を閉じた。
かつての恋の思い出に、浸りながら。
蛮族と呼ばれているとはいえ、それはあくまでこちら側の評価。
真に野蛮、あるいは身内に対しても蛮行を犯す、という訳でもないらしい。
結果、膠着状態。
沈黙が続く。
風の音、呼吸の音が澄んで聞こえる。
ーーいや、それ以外にも音はあった。
沼に落ち、罠に囚われ、丸太にぶたれた者たち。
彼らの苦痛に悶える声が、絶えず響いている。
だけれど、それも絶えず聞こえていれば、耳に馴染む。
それ以外の音に対しての方が、感覚に届きやすい。
「どうした! これでもう手詰まりか? 跪く用意はできたか?」
威嚇するように、威圧するように叫ぶ。
だが、数人が一歩下がる程度で、その大半は武器を構えたまま動かない。
膠着状態が続く。
だが、それも仕方がないのかもしれないと、パトリシアは思った。
自身の罠により、十数人は犠牲になっている。
傷を負い、自力での脱出は困難な状態。
自分たちが撤退するということは、彼らを見捨てることと同じ。
見殺しにすることと同じ。
串刺しにされるか、
あるいは盾の飾りに使われる。
逃走の行為が、仲間の蹂躙と繋がっている。
自らの意思で選択することは難しいだろう。
だからこその膠着状態。
何かきっかけがなければ、平行線のままだろう。
やり過ぎたか、と内心で後悔する。
だけれども、彼女がそうしていなければ、そのまま彼女の敗北で終わっていたことだろう。
数の論理で圧殺されていたことだろう。
話にもならない。
ただの事実、結果が残ってお終いである。
串刺しの飾り、
沼の落とし穴、
自動式の罠、
打撃の丸太、
人肉つきの盾。
彼女の策はこれまでである。
この膠着状態までがやっとである。
朝まで時間が稼げれば、撤退するかもしれない。
少なくとも日の光が差し込めば、諦めるかもしれない。
恐怖と苦痛はその決断を早めるかもしれない。
だけれどーー
「××、××、×××ーー」
何かの合図のように、一歩下がった足が、二歩前に出た。
一人ではなく、数人。
いや、視界に映るもの全員だ。
だから、
必然、
反射的に。
「そうか、まだ……続ける……ということですか」
パトリシアの足が下がる。
一歩、どころか数歩。
後ろへと動く。
口調を維持することも、震えを隠すことも限界らしい。
「××、×××××××××××、×××!」
一人の男が、何かを言う。
叫ぶように。
それに呼応するように、彼ら全員が走った。
近接系の武器の者以外も、全員。
弓や火器を持つ者も、それらを鈍器のように構えて。
「あーあ……これはもう、お終いっぽいですね」
彼女は言う。
腕をだらりと下げて、
力なくその場に座り込んで。
全力で駆けてくる敵対者たちを眺める。
もう、何もしなくていいのか。
頑張る必要もないか。
なら、ここで終わりでもいいのかもしれない。
これだけの殺意を向けてくるならば、拷問に至る前に殺されることだろう。
勢い余って殺されてしまうだろう。
彼らには手加減する余裕はない。
未練、という程のものはこの世にないし。
別にこれからの人生、かつて程のやる気はないし。
思い返せば、復讐まがいのことをしたところで、私が幸せになる訳ではない。
彼らが不幸になって、相対的に自身が幸福になった気がするだけだ。
踠いてまで、努力してまでやることではなかったかもしれない。
「×××! ×××! ×××!」
ならば、ここで物語を終わらせよう。
少し遅れた処刑のようなものだ。
自身が死ぬ姿は、誰にも見られたくはない。
なので、これで良しとしよう。
醜い姿は、
恐怖に塗れ、
汚い血に穢れた姿は。
特に、あの方にはーー
「ダリル、様」
短く言って、彼女は目を閉じた。
かつての恋の思い出に、浸りながら。
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