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15.自分には何もないと思うより、失敗してもリスクが何もないと考えよ!ノーリスクでできるギャンブルは人生だけ!
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グラッセの街の中はなんだかがやがやしていた。
人も多ければ店も多い。
服装も違えば、肌の色も違う
移民の街のような印象を受けた。
私たち以外にも、不法侵入者は多数いそうだなと思った。
「さて、侵入まではうまくいったけど、ここからどうする!?」
「この街の雰囲気だと、仮に村から追ってが来ても私たちにたどり着くの難しそうだからね。とりあえず、お金でも稼ぎながらのんびりしようよ」
ファザさんの問いに、妹は事もなげに答えた。
だが、この見知らぬ街でどうやって金銭を稼ぐというのか。
脱村者の我々は売れるものなど持っていないし、
頼れるような相手も知らない。
「まあまあ、なんとかなるから辛気臭い顔、しないの」
と妹は私に笑いかけた。
「なんとかしてあげるから」
ーー
妹は適当に村の中を歩くと、人通りの少ない路地のような所で足を止めた。
「ここらへんでいいかな」と、手近にあったボロ布を纏って顔を隠し、その場にへたりこんだ。
「兄さん、その木箱を私の前に持ってきて」
と言われるままに、持ち主のしれない謎の箱を妹の前に持ってくる。
妹はそこに占い師の如く、神妙に手をのせた。
「おい、何を始めるつもりだ?」
私の問いに、妹はにっこり微笑む。
「占い♪」
これが先の答えと思うと、なんだかがっかりする。
占い、確かに元の世界でもそれを生業にしている人間はいた。
かくゆう私も、一度占ってもらったことがある。
しかし、それはちゃんと『占い』というジャンルを勉強した人だからこそできるものであって、妹のような素人が一朝一夕でできるものではないはずだ。
「とりあえず兄さん、なんか絶望に浸ってそうな人、ここに連れてきてー」
にぱーと妹は笑顔のまま、私に呼び込みを頼んできた。
「物理的に売るものがなくても、人間には売れるものはたくさんある。知識、技術、時間、体ーー今回ご紹介する商品は『希望』!」
フルスロットルである。
こうなった妹は結果が出るまで止まらないのは、兄である私が1番よく知っている。それに、ファザさんやアリシアに呼び込みは難しいだろう。無難に私だ。消去法的に私だ。
ため息をこぼしつつ、見知らぬ街で呼び込みを開始する。
私の基本業務は技術系開発職、過去の経験はそうそう役に立つものではないな、と感じた。
ーー
呼び込みの経験など、私には皆無だ。
そんなコミュニケーション能力があったら、あの職場に早々に見切りをつけて別の職場へ移動したことだろう。
人に話しかける、というのは恐怖でしかない。
それが知っている人だろうと、知らない人だろうと。
嫌われたらどうしよう、
無視されたらどうしよう、
不審がられたらどうしよう、
恫喝されたらどうしよう、
ネガティブな言葉ばかりが体中を、脳内を中心に駆け巡る。
だが、現在異世界ニート中の私に失うものなど何もない。
持たざる者の強さ、とはこういうことなのかもしれないな。
知らない人に、知らない街で嫌われたところで、何を気にしようか。
私の声など、街の喧騒にすぐにのまれて消えるだけ。
成功も失敗も、大差はない。
私はただ機械的に声をかけ、
迷える子羊を妹の前に連れ出し、
いい感じのアドバイスで幸せにしてあげればいい。
それだけの、簡単なお仕事。
もし失敗しても、妹にぶーぶー言われるだけ。いつもの兄妹喧嘩と大差ない。
この仕事には
上司の叱責も、
無意味に感じる残業も、
何もない、簡単なお仕事だ。
私でもできる、簡単なお仕事。
一歩前に踏み出すだけでいい、
一声、すみませんと声を出すだけでいい、
後は流れでうまくいくはずだ。
さあ。
さあ、
さあ!
……とあれこれ論理武装をじみたものをこねくりまわしてみたり、
自らを鼓舞してみたが効果は低い。
私は声をかけらずにいた。
呆然と人ごみを観察しつつ、立ち竦む。
やはり、自分で自分を奮い立たせるというのは難しい。
「あの……大丈夫ですか?」
声をかけるはずが、逆に声をかけられた。
猫背気味の、大人しそうな青年。
服装は整っていたが、髪はボサボサで肌質も悪い。
心なしか悲壮なオーラをまとっている。
妹の注文通りの
年は妹より、少し上くらいだろうか。
「あ、ああ、大丈夫です。人混みが苦手で、少しぼけっとしてただけです」
私の返答に、青年は少し安心したように微笑む。
「分かります。僕も人混みが苦手で。今日は体調がいいから、少しだけ外に出てたんですが、やっぱりダメですね」
「何か病気か何かですか?」
「いえ、医者からは特に病気ではない、と言われているんですけどね。なんだか気分が晴れなくて、日がな家でぼーっとしてます」
私も彼も人混みが苦手だったので、自然と人がいない所へと足が動いた。
てくてくと、
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前は山野巧」
「僕はライナスと言います。ヤマノタクミさん、変わったお名前ですね」
「タクミ、でいいですよ。長いですから。ここの生まれではないので。ライナスさんはこちらの生まれですか」
「そうです。父と母と僕の3人で暮らしてます。ここは行商の街ですからね。タクミさんのように外から来ている人のほうが多いですよ」
「なるほど」
ははは、と乾いた声で笑う私とライナスさん。
歩みは止めず、てくてくと歩を進める。
「………………」
「………………」
続く沈黙。
「今日は、いい天気ですね」
耐えかねて、私が口火を切る。
外部打ち合わせの定型句。
幸い、本当に天気がいい。
「そうですね。晴れてよかったです」
返答はもらえたが、そこから会話が続かない。
「………………」
「………………」
再び沈黙。
社交スキルがない2人で歩くと、会話というのはうまれないのだな、と感じた。
人も多ければ店も多い。
服装も違えば、肌の色も違う
移民の街のような印象を受けた。
私たち以外にも、不法侵入者は多数いそうだなと思った。
「さて、侵入まではうまくいったけど、ここからどうする!?」
「この街の雰囲気だと、仮に村から追ってが来ても私たちにたどり着くの難しそうだからね。とりあえず、お金でも稼ぎながらのんびりしようよ」
ファザさんの問いに、妹は事もなげに答えた。
だが、この見知らぬ街でどうやって金銭を稼ぐというのか。
脱村者の我々は売れるものなど持っていないし、
頼れるような相手も知らない。
「まあまあ、なんとかなるから辛気臭い顔、しないの」
と妹は私に笑いかけた。
「なんとかしてあげるから」
ーー
妹は適当に村の中を歩くと、人通りの少ない路地のような所で足を止めた。
「ここらへんでいいかな」と、手近にあったボロ布を纏って顔を隠し、その場にへたりこんだ。
「兄さん、その木箱を私の前に持ってきて」
と言われるままに、持ち主のしれない謎の箱を妹の前に持ってくる。
妹はそこに占い師の如く、神妙に手をのせた。
「おい、何を始めるつもりだ?」
私の問いに、妹はにっこり微笑む。
「占い♪」
これが先の答えと思うと、なんだかがっかりする。
占い、確かに元の世界でもそれを生業にしている人間はいた。
かくゆう私も、一度占ってもらったことがある。
しかし、それはちゃんと『占い』というジャンルを勉強した人だからこそできるものであって、妹のような素人が一朝一夕でできるものではないはずだ。
「とりあえず兄さん、なんか絶望に浸ってそうな人、ここに連れてきてー」
にぱーと妹は笑顔のまま、私に呼び込みを頼んできた。
「物理的に売るものがなくても、人間には売れるものはたくさんある。知識、技術、時間、体ーー今回ご紹介する商品は『希望』!」
フルスロットルである。
こうなった妹は結果が出るまで止まらないのは、兄である私が1番よく知っている。それに、ファザさんやアリシアに呼び込みは難しいだろう。無難に私だ。消去法的に私だ。
ため息をこぼしつつ、見知らぬ街で呼び込みを開始する。
私の基本業務は技術系開発職、過去の経験はそうそう役に立つものではないな、と感じた。
ーー
呼び込みの経験など、私には皆無だ。
そんなコミュニケーション能力があったら、あの職場に早々に見切りをつけて別の職場へ移動したことだろう。
人に話しかける、というのは恐怖でしかない。
それが知っている人だろうと、知らない人だろうと。
嫌われたらどうしよう、
無視されたらどうしよう、
不審がられたらどうしよう、
恫喝されたらどうしよう、
ネガティブな言葉ばかりが体中を、脳内を中心に駆け巡る。
だが、現在異世界ニート中の私に失うものなど何もない。
持たざる者の強さ、とはこういうことなのかもしれないな。
知らない人に、知らない街で嫌われたところで、何を気にしようか。
私の声など、街の喧騒にすぐにのまれて消えるだけ。
成功も失敗も、大差はない。
私はただ機械的に声をかけ、
迷える子羊を妹の前に連れ出し、
いい感じのアドバイスで幸せにしてあげればいい。
それだけの、簡単なお仕事。
もし失敗しても、妹にぶーぶー言われるだけ。いつもの兄妹喧嘩と大差ない。
この仕事には
上司の叱責も、
無意味に感じる残業も、
何もない、簡単なお仕事だ。
私でもできる、簡単なお仕事。
一歩前に踏み出すだけでいい、
一声、すみませんと声を出すだけでいい、
後は流れでうまくいくはずだ。
さあ。
さあ、
さあ!
……とあれこれ論理武装をじみたものをこねくりまわしてみたり、
自らを鼓舞してみたが効果は低い。
私は声をかけらずにいた。
呆然と人ごみを観察しつつ、立ち竦む。
やはり、自分で自分を奮い立たせるというのは難しい。
「あの……大丈夫ですか?」
声をかけるはずが、逆に声をかけられた。
猫背気味の、大人しそうな青年。
服装は整っていたが、髪はボサボサで肌質も悪い。
心なしか悲壮なオーラをまとっている。
妹の注文通りの
年は妹より、少し上くらいだろうか。
「あ、ああ、大丈夫です。人混みが苦手で、少しぼけっとしてただけです」
私の返答に、青年は少し安心したように微笑む。
「分かります。僕も人混みが苦手で。今日は体調がいいから、少しだけ外に出てたんですが、やっぱりダメですね」
「何か病気か何かですか?」
「いえ、医者からは特に病気ではない、と言われているんですけどね。なんだか気分が晴れなくて、日がな家でぼーっとしてます」
私も彼も人混みが苦手だったので、自然と人がいない所へと足が動いた。
てくてくと、
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前は山野巧」
「僕はライナスと言います。ヤマノタクミさん、変わったお名前ですね」
「タクミ、でいいですよ。長いですから。ここの生まれではないので。ライナスさんはこちらの生まれですか」
「そうです。父と母と僕の3人で暮らしてます。ここは行商の街ですからね。タクミさんのように外から来ている人のほうが多いですよ」
「なるほど」
ははは、と乾いた声で笑う私とライナスさん。
歩みは止めず、てくてくと歩を進める。
「………………」
「………………」
続く沈黙。
「今日は、いい天気ですね」
耐えかねて、私が口火を切る。
外部打ち合わせの定型句。
幸い、本当に天気がいい。
「そうですね。晴れてよかったです」
返答はもらえたが、そこから会話が続かない。
「………………」
「………………」
再び沈黙。
社交スキルがない2人で歩くと、会話というのはうまれないのだな、と感じた。
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