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16.変わりたいなら、引きこもってないで外に出ろ!変われないのは変わらない部屋にいるからだ!
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「兄さん、お客さん見つけたなら、ちゃんと連れてきてよ!」
ライナスさんとの沈黙に困っていると、妹が現れた。
変わらずボロ布で顔を少し覆っているが、その口調、その雰囲気、我が妹に相違なかった。
「お客さん?」と彼はきょとんとしていたが、ずずいと妹が間に割り込んだ。
「あなた、悩み事があるようね」
したり顔で妹は言う。
「ええ、まあ」
ライナスさんは困った顔のまま気の無い返事をする。
「その悩み、『青空お悩み相談室』室長であるこの私、山野緋香里がズバッと解決してあげるわ!」
ボロ布を豪快に振り払うと、妹は高らかに宣言した。
私がいない間に占い師から転職したらしい。
ーー
「なるほどなるほど。要するに元気になりたいってことですね」
占い師改め、青空お悩み相談室室長となった我が妹はふんふんと話しを聞いた。
ライナスさんの話しは思ったより重たいものだった。
晴れ渡る空の下で話すような内容ではなかった。
恋人を病気でなくし、そのショックで自身の精神を病んだ。
過去の事だと割り切ろうと奮起するも、気力が湧いてこない。
日用品の買い出しのために外に出るが、それ以外は部屋で外を眺めながら、彼女との日々を思い返す。
変わらない毎日と、
変わることができない自分。
どこかで聞いたことがありそうな問題。
心当たりがありそうな問題。
だが、妹はあっけらかんとしている。
助言をしましょうと、人差し指を立てる。
「毎日、必ず外出してください」
「買い出しで多少は外に出ているつもりですが」
ライナスさんの返答に、妹は呆れたようにため息をつく。
「それは『多少』でしょう。私が提案しているのは、『もっとたくさん』です。家の中にいるときに、暗い気持ちになるのでしょう?代わり映えのない毎日に辟易しているのでしょう?それは当然です。部屋の中にはモノ言わぬ家具と、彼女との思い出しかない」
妹は続ける。
ゆっくり、
優しく、
諭すように。
「変わらないものに囲まれているから、あなた自身も変われない。前に進むことができない。この街をみて、このグラッセの街の喧騒を感じて!」
妹は両手を広げる。
街を讃えるように、
この街を代表するように。
「あなたは運がいいわ。こんな変化に富んだ騒がしい街に生きているんだもの。毎日この街を歩けばきっとあなたも街にのまれて変われる!」
妹はライナスさんににじり寄る。
そして、私と妹自身を指差す。
得意げに、
したり顔で。
「現に、既に変化はあったでしょ。兄さんにーーそして私に会えた。これだけでも十分な変化ですよ」
と伝えた。
「た、たしかに。久しぶりに誰かとちゃんと話せた気がします」
ライナスさんは苦笑いをしつつ答えた。
ーー
「料金は後払いとか、強気だな」
「先にもらったら、詐欺になるかもしれないからね。信用ができるまでは出来高払いがいいの」
ライナスさんにアドバイスを施し終えると、1週間後にまた会う約束をして別れた。
彼は律儀で、何度もお礼の言葉と頭を下げた上に、相談に乗ってくれた感謝の気持ちだけでも受け取ってくれと、持っていた食べ物の一部を強引に置いていった。パンと苺のようなもの果物だったが、なかなかに美味しかった。
「兄さん含め、あの手の人間にありがちなミスだけどさ。絶望の拡大化ーーつまり今日一日、常に24時間最悪で、それが永遠に続くと誤解する。そんなこと、常に幸福でいることと同じくらい、あり得ないことなのにね」
妹は独り言のように続ける。
「1日のなかにはいい時も悪い時もある。羞恥や絶望、後悔や落胆だけで人は死なない。心が病むだけで、物理的な損傷はそれが起因する『行動』が原因。ずっと家にいるから、何もいいことが起こらない、気も晴れない。安全だけど変化しない。安全も慣れるまではそれで幸せかもしれないけど、慣れたら最後、微温い地獄に変わる」
だからさ、と妹は私を見る。
「人は人と関わるべき、外に目を向けるべきなんだよ」
ほら、見てと妹はアリシアを指さした。
野良猫と戯れて笑っている。
無邪気に、
天真爛漫に、
今が最高であるように、
笑っている。
心安らぐ、美しい情景だった。
「少女の笑顔を見るだけでも、幸せは感じられる」
妹は私に近づく。
ぐいと私の顔を掴んで、
自身の顔の前に持ってくる。
「無論、妹の笑顔でもね」
と、妹は笑った。
ライナスさんとの沈黙に困っていると、妹が現れた。
変わらずボロ布で顔を少し覆っているが、その口調、その雰囲気、我が妹に相違なかった。
「お客さん?」と彼はきょとんとしていたが、ずずいと妹が間に割り込んだ。
「あなた、悩み事があるようね」
したり顔で妹は言う。
「ええ、まあ」
ライナスさんは困った顔のまま気の無い返事をする。
「その悩み、『青空お悩み相談室』室長であるこの私、山野緋香里がズバッと解決してあげるわ!」
ボロ布を豪快に振り払うと、妹は高らかに宣言した。
私がいない間に占い師から転職したらしい。
ーー
「なるほどなるほど。要するに元気になりたいってことですね」
占い師改め、青空お悩み相談室室長となった我が妹はふんふんと話しを聞いた。
ライナスさんの話しは思ったより重たいものだった。
晴れ渡る空の下で話すような内容ではなかった。
恋人を病気でなくし、そのショックで自身の精神を病んだ。
過去の事だと割り切ろうと奮起するも、気力が湧いてこない。
日用品の買い出しのために外に出るが、それ以外は部屋で外を眺めながら、彼女との日々を思い返す。
変わらない毎日と、
変わることができない自分。
どこかで聞いたことがありそうな問題。
心当たりがありそうな問題。
だが、妹はあっけらかんとしている。
助言をしましょうと、人差し指を立てる。
「毎日、必ず外出してください」
「買い出しで多少は外に出ているつもりですが」
ライナスさんの返答に、妹は呆れたようにため息をつく。
「それは『多少』でしょう。私が提案しているのは、『もっとたくさん』です。家の中にいるときに、暗い気持ちになるのでしょう?代わり映えのない毎日に辟易しているのでしょう?それは当然です。部屋の中にはモノ言わぬ家具と、彼女との思い出しかない」
妹は続ける。
ゆっくり、
優しく、
諭すように。
「変わらないものに囲まれているから、あなた自身も変われない。前に進むことができない。この街をみて、このグラッセの街の喧騒を感じて!」
妹は両手を広げる。
街を讃えるように、
この街を代表するように。
「あなたは運がいいわ。こんな変化に富んだ騒がしい街に生きているんだもの。毎日この街を歩けばきっとあなたも街にのまれて変われる!」
妹はライナスさんににじり寄る。
そして、私と妹自身を指差す。
得意げに、
したり顔で。
「現に、既に変化はあったでしょ。兄さんにーーそして私に会えた。これだけでも十分な変化ですよ」
と伝えた。
「た、たしかに。久しぶりに誰かとちゃんと話せた気がします」
ライナスさんは苦笑いをしつつ答えた。
ーー
「料金は後払いとか、強気だな」
「先にもらったら、詐欺になるかもしれないからね。信用ができるまでは出来高払いがいいの」
ライナスさんにアドバイスを施し終えると、1週間後にまた会う約束をして別れた。
彼は律儀で、何度もお礼の言葉と頭を下げた上に、相談に乗ってくれた感謝の気持ちだけでも受け取ってくれと、持っていた食べ物の一部を強引に置いていった。パンと苺のようなもの果物だったが、なかなかに美味しかった。
「兄さん含め、あの手の人間にありがちなミスだけどさ。絶望の拡大化ーーつまり今日一日、常に24時間最悪で、それが永遠に続くと誤解する。そんなこと、常に幸福でいることと同じくらい、あり得ないことなのにね」
妹は独り言のように続ける。
「1日のなかにはいい時も悪い時もある。羞恥や絶望、後悔や落胆だけで人は死なない。心が病むだけで、物理的な損傷はそれが起因する『行動』が原因。ずっと家にいるから、何もいいことが起こらない、気も晴れない。安全だけど変化しない。安全も慣れるまではそれで幸せかもしれないけど、慣れたら最後、微温い地獄に変わる」
だからさ、と妹は私を見る。
「人は人と関わるべき、外に目を向けるべきなんだよ」
ほら、見てと妹はアリシアを指さした。
野良猫と戯れて笑っている。
無邪気に、
天真爛漫に、
今が最高であるように、
笑っている。
心安らぐ、美しい情景だった。
「少女の笑顔を見るだけでも、幸せは感じられる」
妹は私に近づく。
ぐいと私の顔を掴んで、
自身の顔の前に持ってくる。
「無論、妹の笑顔でもね」
と、妹は笑った。
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