こんな時どうする? 異世界兄妹物語

くわっと

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23.人生は小さな習慣の積み重ねと考え方一つで変えられる、それがライフハック!

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「出口が城門一つ、そこからしか出られないというのなら、堂々とそこを通ればいい」

 私は事も無げに言う。
 当たり前のことを、当たり前に言う。

「だから、俺たちが見つかるから問題なんだよ!」

 そう言ったのはヘーゲルさんだった。

「別に見つかっていいじゃない。私と来る選択をした時点で、これまでの生活には戻れない。決別。門番の兵士に止められたところで、この乗り物で正面突破すればいい。護送用のこれが、何も言わずに突っ込んでくる。その非日常に対して冷静に、かつ最適な行動を瞬時に取れる人はそういないと思うけれどな」

 同じ繰り返しの日々。
 たとえ訓練を繰り返しても、
 たとえ緊急時用に配備されている兵士でも、
 その緊急が起きた時に対処できるとは限らない。
 それが、味方の手によって引き起こされるものなら、なおの事。

 私の回答に、ヘーゲルさんは閉口し、ルパインさんはくすりと笑う。

「見つかるのが問題と思っていたが、見つかる前提で進めば問題にすらならない、ということか。嬢ちゃん、若いのに考えが大人びているね」

「お褒めにあずかり恐悦至極」

 と私はルパインさんの賛辞に冗長っぽく返す。
 たしかに、元女子高生としては大人びているのかもしれない。
 卒業式の帰りのあの日から、
 交通事故で命を一度失ったあの日から。
 私は普通の元女子高生ではなくなったから。
 
ーー

 意識があるのは驚きだったけど。
 モノに触れられることができるのはびっくりだったけど。
 私が死んでけっこうな月日が流れていることは衝撃だったけど。
 あの日以降、私は『特別』な幽霊になったのだ。
 兄さんの部屋に住み着く、特別な幽霊。
 急に兄さんの部屋に復活したのは仰天だったけど。

 普通に会話もできて、意思の疎通もできる。
 料理もできるし、掃除もできる。
 読書もできるし、ネットも使える。
 お風呂も入るし、ご飯も食べれる。
 一度死んだ、ということ以外は普通の人間。
 ただ、現実的に死んだことになっている山野緋香里としては『普通』に生きられない。
 表舞台の生活は許されない。
 ばれたら大変なことになる。
 死んだはずの人間が、急に生き返って生活している。
 大事件だ、
 神様の再来だ。
 けれど、私は神様ではない。
 奇跡的な何かで復活したけど、
 奇跡的な何かを起こすことはできない。
 ただの人間だったモノ。
 今は何かよくわからない、人の形、人の機能があるナニカ。

 兄さんも何も言わなかった。
 私との普通の生活という、普通じゃない状況を何も言わず受け止めてくれた。
 まあ、あの人の場合、仕事に疲れすぎて、冷静突っ込みを忘れていただけなのかもしれないけれど。

 なのでとりあえず、私のこの暇を持て余す日常を兄さんのために使おうと思った。
 この不思議な存在である私がいつ消えるかはわからないけれど、
 それまでは兄さんの生活を、人生を良くするために使おうと考えた。
 隣から見れば、ぬるま湯の地獄に浸かって抜け出せない兄さんを救うために何かしようとした。
 そこで丁度いい本が見つかった。
 『ライフハック入門』
 人生は小さな習慣の積み重ねと考え方一つで変えられる、そういった趣旨の本。
 だから私はその手法を使って、兄さんの人生をハッキングしてみようと思った。
 その地獄から救い出すために。
 奇跡を起こせない私でも使える、人間が編み出したの知恵と手段を使って。

 ただ、また奇跡的な何かが起こって、私どころか兄さん含めてこんな世界に飛ばされるとは思っていなかったけど。
 神様、
 もしいるとしたら私に何を期待しているんですか?
 私に、何をさせたいんですか?

 時々暇をみて、気配を感じない空に尋ねた。
 当然、答えが返ってきたことはない。
 
ーー

「いやはや、面白いストーリーだ。そのあと、つまりはこのグラッセから脱出してからどうやって成功していくか、是非とも聞きたいところだが……そろそろお別れのようだ」

 塔の入り口が見えてきた。
 あれが突き落とし処刑用の塔か。そこの近くに連れてこられた、ということはそこに囚人用の部屋があるのかな。
 けど、逮捕翌日処刑の強行日程が普通、というのなら部屋のクオリティは期待できないかな。そもそも、罪人用の部屋に期待すべきことではないか。

「続き、聞かなくていいんですか?」

 私の言葉に、ルパインさんは声をあげて笑う。
 嘲るように。

「そうさな……首を刎ねられる時か串刺しになる時か、塔から飛び降りる時か。自身の最期の言葉として、物語を締めくくってくれ」

「そんな短くまとまるお話じゃないですけど」

「じゃあ、ヒカリ先生の次回作にご期待ください、と俺がまとめといてやるよ」

 打ち切り作品になってしまった。
 だが、とルパインさんは続ける。

「死に方くらいは選ばせてやるよ。ここまでの連載に報いてな」

「じゃあーー」

と私は希望を述べる。
 ルパインさんは「承知した」と短く答えた。

 無駄話も多少の効果はあったのかもしれない。
 ミズーリ村同様、大成功はしなかったけれど。

 私の2回目の死因。
 選べたところで、どうにかなるものではないけれど。
 ただ、助かる可能性が少しでもあるのなら、私はそれに賭けよう。
 第2の生を兄さんと生きるために。
 けど、できることなら期待したい。
 誰かが、私を助けにきてくれることを。
 1人で勝手に、
 全て背負い込んでおいて、
 お別れの挨拶までしておいて、
 身勝手な願いとは、分かっているけどさ。

「兄さん……」

 私は空を眺めて、祈る。
 当然、返答はない。
 
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