29 / 45
29.何かを始めるに場所も時間も関係ない。今、ここで始めるのが最良かつ最速!
しおりを挟む
ダチョウ……否、ポックルの乗り心地は良かった。
バイクも乗馬も乗ったことがない私でも、十分に乗りこなすことができた。
現在、ライナスさんと共に妹が囚われている塔に向けて爆走中である。
右肩には通信用の小鳥(名称不明)を乗せ、
左手にはライナスさんから渡された謎の硬い棒(名称不明)を持っている。
見た感じはただの金属製の棒だ。それなり重い。ファザさんの筋力のお陰で、もちつづけても疲労感を感じないが。
中国の武将になったような気分。
慣れない乗り物に、知らない道、加えて片手運転というのは安全上どうなのかと突っ込みたくなのるが、今から監獄襲撃という十二分に危険な行為を実行するため、その手の細かい不安は無視した。
いつもなら、それでも気になっていただろうがファザさんから借り受けた『力』の効果で私も舞い上がっているのかもしれない。
健全な精神は健全な肉体に宿る。
それは強固な肉体を得れば、強固な精神を手に入れる、ということも示唆している。
これが終わったら、筋トレでも始めてみようか。
異世界にきて、新たに始めることが筋トレとか、なんとも笑えない冗談だが。
けど、妹がいたら『何かを始めるに場所も時間も関係ない。今、ここで始めるのが最良かつ最速なんだよ』とか言いそうだ。
そんな姿を思い描き、私は一人笑う。
だが、先のライナスさんのようにうっかりミスをしないよう気は引き締める。
これは遊びではないのだ。
命がけの救出劇なのだ。
「タクミさん、移動しながらで申し訳ありませんが、作戦の確認をします」
私に並走するライナスさんは言う。
「このまま、二人で塔までポックルで駆け抜けます。塔までのルートは把握していますし、妹さんがどの辺に囚われているかは、分かり次第その右肩のパナップが教えてくれます」
この子の名前はパナップと言うのか。
どことなく、美味しそうな名前だ。
……食べないけど。
パナップは、睨むように私を見た。だが、ベースが可愛い小鳥なので迫力はまるでない。
食べないから安心してくれ。
「塔が見えたら、僕が先行します。派手に囮になりますが、タクミさんはその場に待機してください。十分に敵兵を塔から引き離したら、パナップ経由で伝えます」
便利な小鳥、パナップ。
見て癒され、
言葉を伝え、
偵察でもできる。
だが、『派手』という言葉が引っかかった。
映画でも漫画でも、『派手』という単語がつくとろくなことにならない。
本人がいいなら、仕方がないけれど。
「また、ポックルは頭を三回撫でると数秒で消えます。僕が囮になっている間に、それで消して走って塔内に侵入してください。妹さんの所に辿り着いたら、部屋で渡した『アレ』で扉を破壊してください」
アレ、とはポケットに入っているアレのことだ。
爆発物。
ピンを抜いて、コックを外す。
するとあら不思議、爆発が起こって扉が開くーー予定だ。
現代では化学の、ここでは魔術の産物。
「手錠を破壊する手段はないので、そのまま脱出です。塔内を全力で駆け抜けて、外に出てください。ポックルは三回手を叩けば、タクミさんの前に再度出現します。帰りはそれで妹さんと逃げてください。二人分の重量なら、ポックルは今のスピードは維持できるはずです。僕はタクミさんたちが逃げ切ったら、その後を追います。パナップで大まかな位置は確認できるので、街の外へ好きに脱出してください」
彼とは別々に逃げるのか。
相手取る数に差がある分、不安がある。
彼に申し訳無さを感じてしまう。
ここまでしてもらっておいて、そんな感情を思う資格は、本来はないのだろうが。
「やっぱり、ライナスさんの負担が大きすぎないか」
「大きいとか小さいの問題ではないです。できるか、できないか。大事なところはそこです。今のタクミさんはファザさんの力で近接戦は最強です。けど、僕は肉弾戦になったらアリシアちゃん相手でも勝てないくらい貧弱です。塔内には何人か兵士が残っているはずです。その相手は、今のタクミさんにしかできません。だから、お願いします。僕は逃げる事は得意なんです。こうやって、魔術生命体を出したりすることもできますしね。適材適所、です。」
それに、とライナスさんは続ける。
「妹を助ける、というのはいつの時代、どんな世界でもお兄さんの役割です。僕がその役目を横取りしたら、彼女もがっかりするでしょう」
と笑いかけた。
私もそれに同意し、笑った。
バイクも乗馬も乗ったことがない私でも、十分に乗りこなすことができた。
現在、ライナスさんと共に妹が囚われている塔に向けて爆走中である。
右肩には通信用の小鳥(名称不明)を乗せ、
左手にはライナスさんから渡された謎の硬い棒(名称不明)を持っている。
見た感じはただの金属製の棒だ。それなり重い。ファザさんの筋力のお陰で、もちつづけても疲労感を感じないが。
中国の武将になったような気分。
慣れない乗り物に、知らない道、加えて片手運転というのは安全上どうなのかと突っ込みたくなのるが、今から監獄襲撃という十二分に危険な行為を実行するため、その手の細かい不安は無視した。
いつもなら、それでも気になっていただろうがファザさんから借り受けた『力』の効果で私も舞い上がっているのかもしれない。
健全な精神は健全な肉体に宿る。
それは強固な肉体を得れば、強固な精神を手に入れる、ということも示唆している。
これが終わったら、筋トレでも始めてみようか。
異世界にきて、新たに始めることが筋トレとか、なんとも笑えない冗談だが。
けど、妹がいたら『何かを始めるに場所も時間も関係ない。今、ここで始めるのが最良かつ最速なんだよ』とか言いそうだ。
そんな姿を思い描き、私は一人笑う。
だが、先のライナスさんのようにうっかりミスをしないよう気は引き締める。
これは遊びではないのだ。
命がけの救出劇なのだ。
「タクミさん、移動しながらで申し訳ありませんが、作戦の確認をします」
私に並走するライナスさんは言う。
「このまま、二人で塔までポックルで駆け抜けます。塔までのルートは把握していますし、妹さんがどの辺に囚われているかは、分かり次第その右肩のパナップが教えてくれます」
この子の名前はパナップと言うのか。
どことなく、美味しそうな名前だ。
……食べないけど。
パナップは、睨むように私を見た。だが、ベースが可愛い小鳥なので迫力はまるでない。
食べないから安心してくれ。
「塔が見えたら、僕が先行します。派手に囮になりますが、タクミさんはその場に待機してください。十分に敵兵を塔から引き離したら、パナップ経由で伝えます」
便利な小鳥、パナップ。
見て癒され、
言葉を伝え、
偵察でもできる。
だが、『派手』という言葉が引っかかった。
映画でも漫画でも、『派手』という単語がつくとろくなことにならない。
本人がいいなら、仕方がないけれど。
「また、ポックルは頭を三回撫でると数秒で消えます。僕が囮になっている間に、それで消して走って塔内に侵入してください。妹さんの所に辿り着いたら、部屋で渡した『アレ』で扉を破壊してください」
アレ、とはポケットに入っているアレのことだ。
爆発物。
ピンを抜いて、コックを外す。
するとあら不思議、爆発が起こって扉が開くーー予定だ。
現代では化学の、ここでは魔術の産物。
「手錠を破壊する手段はないので、そのまま脱出です。塔内を全力で駆け抜けて、外に出てください。ポックルは三回手を叩けば、タクミさんの前に再度出現します。帰りはそれで妹さんと逃げてください。二人分の重量なら、ポックルは今のスピードは維持できるはずです。僕はタクミさんたちが逃げ切ったら、その後を追います。パナップで大まかな位置は確認できるので、街の外へ好きに脱出してください」
彼とは別々に逃げるのか。
相手取る数に差がある分、不安がある。
彼に申し訳無さを感じてしまう。
ここまでしてもらっておいて、そんな感情を思う資格は、本来はないのだろうが。
「やっぱり、ライナスさんの負担が大きすぎないか」
「大きいとか小さいの問題ではないです。できるか、できないか。大事なところはそこです。今のタクミさんはファザさんの力で近接戦は最強です。けど、僕は肉弾戦になったらアリシアちゃん相手でも勝てないくらい貧弱です。塔内には何人か兵士が残っているはずです。その相手は、今のタクミさんにしかできません。だから、お願いします。僕は逃げる事は得意なんです。こうやって、魔術生命体を出したりすることもできますしね。適材適所、です。」
それに、とライナスさんは続ける。
「妹を助ける、というのはいつの時代、どんな世界でもお兄さんの役割です。僕がその役目を横取りしたら、彼女もがっかりするでしょう」
と笑いかけた。
私もそれに同意し、笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる