こんな時どうする? 異世界兄妹物語

くわっと

文字の大きさ
39 / 45

38.幸せになれる選択肢があるなら、それに手を伸ばせ!

しおりを挟む
 敏捷性を向上した彼女に、私の攻撃は当たらない。
 併せて、連戦の疲労か棒を振り回す体力も徐々に削がれていく。
 
「どうした、これで終わりか?先程までの威勢はどこへ行った?」

 嘲笑するように、ヘーゲルは言う。
 共に繰り出される突きが、私の体を削り取る。
 直撃は回避しているが、切り傷が身体中に増えていく。
 皮膚が裂かれ、
 血が滲む。

「………………」

 私は黙り、思考する。
 彼女の攻撃を避け、受けながら思考する。
 この状況の打開策を。

 そもそも、相手が女性と分かってしまっただけでも大きなダメージだ。
 生まれてこのかた、女性と武器を使った命のやり取りなんて経験したことはないし、殴ったことすらない。
 それ以前に、職場を除けば妹以外と会話を交わすのも久方ぶりだ。
 
 加えて、妹を庇いながらのこの状況。
 深追いはできない。
 けれど、確実に仕留めなければ、後ろから刺されるのは明白。

 私は棒を構え直し、ヘーゲルに相対する。
 相手も私の、この筋力の一撃をもらっているのだ。
 鎧で多少威力は緩衝されたとはいえ、手負いであることは間違いない。
 ゲームでもあるまいし、残り体力と敏捷性が相関しないということはありえない。
 体力が減った分、能力値は下がる。
 確実に、
 全体的に劣化する。
 それをあまり実感できないのは、彼女の覚悟の力と鎧を脱いだことによる重量負荷の解除だろう。

 さて、どうしたものか。
 一番成功確率の高い手段は、先の手練れ相手に行った戦法。
 武器を私の体でうけとめて、筋肉で固定して奪取する。
 武装させ解除してしまえば、目の前にいるのはただの素早い金髪女性。脅威にはなり得ない。
 だが、何度もうまくいくか。
 さっきのは偶然が重なったに過ぎない。
 避けれなくて、思いついたように実行した場当たり的な戦法だ。
 それがたまたま上手くいった、というだけの話。

 次は、急所に刺さるかもしれない。
 頭に、
 心臓に、
 首筋に。
 相手の選択一つで、簡単に私という命は吹き飛ぶ。
 私の戦法一つ間違えば、容易に私の存在は消える。

「待って、ヘーゲルさん」

 両手を拘束されたままの妹が、私の前に出る。
 戦闘力ゼロで、隙だらけの姿で私の前に出る。
 槍を構えるヘーゲルさんの前に、自身の身を差し出した。

「もう終わりにしない? このまま戦っても、どっちも痛いだけだよ」

 妹は言う。
 この戦いの無意味さを。

「ヘーゲルさん、みんなの弔いのため、なんて立派な考え方だよ。だけど、それを倒れた彼らは望んでいるのかな? いや、望んでいないね。彼らはあなたにそんなことを頼んだかな? いや、頼んでないね。あなたは理由が欲しいだけ。ここで戦って死ねる理由が、自分の仕事を完遂するための理由が。けれど、それは自己満足だよ。思考放棄した、生きることを放棄した、さ」

 妹は続ける。
 言葉を、彼女の心を。
 
「ここで私たちを倒して、ヘーゲルさんの未来が変わるのかな? いや、変わらないよ。みんなの無念を晴らしたという偽りの達成感で一時的に満たされるかもしれない。でも、それは本当に一時的だ。せいぜい、今の傷の痛みが癒えるまでだ。怪我が治り、兵士として復帰したら、そこから先の未来はこれまでと同じ。今まで一緒だった同僚がいない分、より味気ない日々かもしれない」

 妹は語り続ける。
 ヘーゲルは動かない。

「今までと同じ道を生きる、というのは楽だ。そこが地獄のような環境でもね。予測できる。今日は昨日と同じような地獄だし、明日はきっと今日と同じような地獄だ。ぬるま湯な地獄。予想できる未来、というのは安心感があるからね。それ故に抜け出しにくい。けれど、それは生きていて楽しいのかな? そんな人生ってあなたが望んでいることかな?」

 妹は嘲笑う。
 ヘーゲルは口を開かない。 

「明るい未来が手近にあるなら、それに手を伸ばすべきだ。幸せになれる選択肢があるなら、それを選ぶべきだ。自ら不幸を選ぶなんて、愚かすぎる」

 妹は、得意げに言う。

「ここにいる全員が幸せになる方法が一つ、ある」

 妹はてくてくとヘーゲルの前まで歩く。
 ヘーゲルは動かず、槍を向けたまま、立ち尽くしている。

 そして、妹は彼女に背を向けた。
 自身の拘束された両手を差し出して。

「私たちと一緒に逃げよう。そしたら、兄さんもあなたも傷つかない。今を生きられる。みんな幸せ!」

 満面の笑みで、妹は言った。

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...