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4.馳ける
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忠臣たる執事ミゾノグチをその手にかけても、レイピアの心は痛まなかった。
それは、かの者に捨てられた時に心が壊れたからか、
あるいは元々彼女の心というものが欠陥品だったからか。
彼女は執事を貫いたその剣を片手に、てくてくと自室を後にした。
血が滴り、床を汚すことも気にせず。
レイピアの今の装いは、寝起きのそれである。
つまりは、鎧・兜といった防具の類は一切装備していない。
ただ、血に濡れた剣だけを携えて歩いている。
目的地へと歩を進めている。
何の敵対行動もとっていない隣国へと。
だが、ひたと彼女は足を止める。
屋敷から一歩足を踏み出したその時だ。
少し考えた素ぶりをし一転、敷地内の一角へと走り出す。
そして、彼女は馬に跨り、自身の屋敷の外へと踏み出した。
そこからは、特段止まることはなく、馬に全速を強要した。
「レイピア様?お体は大丈夫なのですか?」
門番の者が話しかけるが、彼女は答えない。
「お嬢様、どこへ外出にーー」
領民の一人が尋ねるが、彼女は答えない。
ただひたすらに馬を走らせる。
軽量級の彼女は、馬にとっては荷物にすらならなかった。
騎乗の主人が命じるがままに、馬は自身の力を示した。
「レイピア様、お父上が心配なさります」
「レイピア様、一度お戻りください」
彼女は答えない。
彼ら彼女らの言葉は、レイピアの鼓膜は揺らすが心に届かない。
当然だ、忠節を尽くした執事の言葉すら、正しく彼女に伝わらなかったのだ。
届くはずがない、
止まるはずがない。
レイピアは進む、疾風の如くに馳ける。
彼女は幸福でなくなったとはいえ、その恵まれた才覚はそのままなのである。
当然、馬を使役する適性も十二分にある。
どころか、その軽さと反応速度から、領内の兵士と比べても、彼女を超えるものはいないのだ。
ただ、その才能を見せていなかっただけで、
見せる場面がなかっただけで。
彼女は一介の兵士であったとしても、恵まれているのだ。
だから、事態に気づいた兵士達が追いかけても間に合うのは不可能であった。
後方に門番から連絡を受けたのだろう騎馬兵が見えたが、彼女と距離が縮まる気配はない。
彼女はそのまま、自身の領地から出立した。
正面突破で、
堂々と。
多くの領民にその姿を晒しながら。
手前勝手な理由で、隣国へと駆けていく。
その時、まだ彼らはどうして彼女が走り去ったのか、その理由を知らなかった。
失恋の深い傷を負った美貌令嬢が、気分転換に無断外出した程度と考えていた。
都合良く、彼らの視界に剣は入っていなかった。
足跡のような血の雫も、ただの赤い何かとしか考えなかった。
だからこそ、後悔することになる。
自分たちの愚かさを。
それは、かの者に捨てられた時に心が壊れたからか、
あるいは元々彼女の心というものが欠陥品だったからか。
彼女は執事を貫いたその剣を片手に、てくてくと自室を後にした。
血が滴り、床を汚すことも気にせず。
レイピアの今の装いは、寝起きのそれである。
つまりは、鎧・兜といった防具の類は一切装備していない。
ただ、血に濡れた剣だけを携えて歩いている。
目的地へと歩を進めている。
何の敵対行動もとっていない隣国へと。
だが、ひたと彼女は足を止める。
屋敷から一歩足を踏み出したその時だ。
少し考えた素ぶりをし一転、敷地内の一角へと走り出す。
そして、彼女は馬に跨り、自身の屋敷の外へと踏み出した。
そこからは、特段止まることはなく、馬に全速を強要した。
「レイピア様?お体は大丈夫なのですか?」
門番の者が話しかけるが、彼女は答えない。
「お嬢様、どこへ外出にーー」
領民の一人が尋ねるが、彼女は答えない。
ただひたすらに馬を走らせる。
軽量級の彼女は、馬にとっては荷物にすらならなかった。
騎乗の主人が命じるがままに、馬は自身の力を示した。
「レイピア様、お父上が心配なさります」
「レイピア様、一度お戻りください」
彼女は答えない。
彼ら彼女らの言葉は、レイピアの鼓膜は揺らすが心に届かない。
当然だ、忠節を尽くした執事の言葉すら、正しく彼女に伝わらなかったのだ。
届くはずがない、
止まるはずがない。
レイピアは進む、疾風の如くに馳ける。
彼女は幸福でなくなったとはいえ、その恵まれた才覚はそのままなのである。
当然、馬を使役する適性も十二分にある。
どころか、その軽さと反応速度から、領内の兵士と比べても、彼女を超えるものはいないのだ。
ただ、その才能を見せていなかっただけで、
見せる場面がなかっただけで。
彼女は一介の兵士であったとしても、恵まれているのだ。
だから、事態に気づいた兵士達が追いかけても間に合うのは不可能であった。
後方に門番から連絡を受けたのだろう騎馬兵が見えたが、彼女と距離が縮まる気配はない。
彼女はそのまま、自身の領地から出立した。
正面突破で、
堂々と。
多くの領民にその姿を晒しながら。
手前勝手な理由で、隣国へと駆けていく。
その時、まだ彼らはどうして彼女が走り去ったのか、その理由を知らなかった。
失恋の深い傷を負った美貌令嬢が、気分転換に無断外出した程度と考えていた。
都合良く、彼らの視界に剣は入っていなかった。
足跡のような血の雫も、ただの赤い何かとしか考えなかった。
だからこそ、後悔することになる。
自分たちの愚かさを。
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