婚約破棄された腹いせに適当な隣国を滅ぼします

くわっと

文字の大きさ
5 / 8

5.使い捨て愛馬

しおりを挟む
レイピア=アントワーズはお嬢様である。
恵まれた豊かな家庭に生まれた。
だが、そこまでだ。
貴族の分類には入るが、王族ではない。
本来、国を攻める資格も権限もない。
動かせる兵士もいない。

とは言っても、彼女が本気になれば、この国はそう動く。
周りが彼女のために献身する。
多くの民が、
多くの兵士が、
多くの貴族が、
彼女のために動く。
それぞれの理由、それぞれの目的で、彼女に尽くす。
その結果として国が動くのだ、彼女の望むように。
基本的には、
ほとんどは、という限定がつくが。

「さて、このまま隣国へと突入しましょう」

しかし、今回レイピアは本気にならなかった。
なぜなら、彼女のこの行動はただの気晴らしだからだ。
完全なるノープラン。
場当たり主義的行動。
剣を持ち、馬で駆けた。
ただそれだけ。

だけれど、
適当ではあるものの、彼女には目的がある。
隣国に攻め込む、
戦でかの者のことを忘れるという目的が。

「行きましょう。バルディッシュ」

先程まではただの名も無き馬が、恵まれし令嬢から名前を賜った。
無名ではあるが、才気に満ちた駿馬はさらに奮起した。
彼女は馬にも尽くされる、そんな存在なのだ。

野を越え、
山を越え、
川を越え。

自国の領地を抜け出し、
中立地帯を駆けていく。

道中、すれ違う者もいた。
声をかけた者もいた。

しかし彼女は止まらない。
ただただ駆けていく。
かの者との思い出に浸りながら、
かの者を忘れよう望みながら。
矛盾を抱えたままに走る。

「そこの者、止まれ!」

武装した兵士が槍を向ける。
流石のレイピアも止まった。
否、理由はそこではなかった。

「お疲れ様、バルディッシュ」

一時の愛馬、バルディッシュが倒れたからだ。
彼女の願いを果たすため、全力を賭した結果。
自分の体よりも、彼女の望みを優先した結果。

恵まれた彼女も、馬を死霊のように際限なく使い続けることはできない。
命あるものは、使い倒すことしかできない。
使い捨てることしか、できない。

「邪魔」

レイピアは一言告げる。
併せて兵士を切り裂いた。
赤い血が吹き出る。

別に、この段階で斬りふせる必要はなかった。
美に恵まれ彼女は、単純にお願いすればそれで良かった。
あるいは、彼女の魅力に堕ちるのを待てば良かった。
けど、そうしなかった。

ただ、面倒だったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何か、勘違いしてません?

シエル
恋愛
エバンス帝国には貴族子女が通う学園がある。 マルティネス伯爵家長女であるエレノアも16歳になったため通うことになった。 それはスミス侯爵家嫡男のジョンも同じだった。 しかし、ジョンは入学後に知り合ったディスト男爵家庶子であるリースと交友を深めていく… ※世界観は中世ヨーロッパですが架空の世界です。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...