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7.殺戮の道

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「何だ、何なんだ、この女はーー」

叫び声が聞こえる。

「やめてくれ、お願いだ、命だけはーー頼む、頼むからーー」

命乞いの言葉が聞こえる。

「お前を倒せば、名が上がる。俺がこの国の救世主にーーぁああ」

勘違い野郎の声も聞こえる。

だけれど、どの言葉も彼女の心に届かなかった。
レイピアの手にする剣は血で赤く濡れていた。
血で血を洗い、
肉で肉を削ぐように、
彼女は自身に進行方向に立ちはだかる者を容赦なく、区別なく斬り伏せていた。

首を落とす、心臓を貫くといった面倒なことはしなかった。
ただ、行動不能にするだけ。
とは言っても、彼女に加減の概念はない。
打ち所がーー正しくは切りどころが悪ければ、対象は死んでしまう。

生きていようと、死んでいようと彼女には問題にならなかった。
ただ、戦うこと。
他者を傷つけ、生き残ることに必死になること。
それだけが、失意の中にある彼女の目的なのだから。

だけれど、隣国の中でも国境の街の兵士の練度は低かった。
平和な時間が長く続いたためだろう、中央の治安維持に人員が割かれているからだ。
レイピアの剣を止める者は、誰もいなかった。
彼らにできることは、逃げることと隠れることだけだった。
彼女の視界から、彼女の進む道に立たなければ安全、そのルールを把握するために多くの人間が犠牲になった。

一時の愛馬、バルディッシュを失い、徒歩での進軍となった彼女であるが、その歩みは止まらない。
立ちはだかる者がいなくても、ただただ歩く。
もっと苛烈な争いを、
もっと壮絶な戦いを求めて。

この程度では、命を賭けるにはまるで値しないのだ。
これまで通り、余裕で余力のある闘争。
かの者との思い出は、未だに彼女の頭に浮かんだままだ。

足りない、
足りない。
心を空白を埋めるために、
この感情を忘れるために、
もっと、もっともっともっとーー

レイピアは進む。
息一つ乱さずに。
隣国の中枢へと足を進んでいく。
彼女の通った後には、血だまりと愚かにも斬り捨てられた人間だったものが倒れ伏せていた。
故に、追跡するものにとって、足取りを掴むのは容易であった。
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