虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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二章 誘拐と叛逆

52.代替品

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お父様は私を抱き起こしつつ、周囲を確認します。

「成る程、成る程。大した装備だ。一介の誘拐犯如きに準備できる代物ではないな。この者達も中々に鍛えられている」

「マー、テル、ロ……」

継ぎ接ぎの言葉を絞りながら、レオリーゼさんはお父様に相対しようとします。
だけれど、痛みに耐えかねて、また倒れてしまいます。
致命傷ではないけれど、重症であることには変わりません。

苦痛よりも、動きを制限するための損傷。
日頃、私の教育に使われていた暴力とは逆のもの。

「まだ動くか、それはなかなか。多少乱暴に扱っても問題ない、か」

感心した素振りを見せつつ、お父様はレオリーゼさんを蹴りつけます。
短い嗚咽が聞こえます。
併せて、彼女を手近なお馬さんの背に括り付けます。

「先行して連れて行け。屋敷の医務室へ置いてこい。後遺症は残ってもいいが、とにかく死なせるな」

そう伝えると、お馬さんは頷き疾風のように駆けていきます。
動物との言語的意思疎通。
マーテルロ家の秘術の一つ。
私は扱えませんけれど。

「さて、と。戯れはこの程度にしておいて、一族の話をしよう」

「お父様ーー」

「お前には別段期待はしていなかったがな。だが、お前がこうなっていない、ということはそれだけの価値と意味があるということだ」

お父様は、そう言って私に少女の右腕を見せました。
この人の、実の娘である妹様の部品。

「最早2人とも生きてはいない、死体だけでも回収できればと思っていたがな。これは嬉しい誤算だ」

「それは、どういう……」

「お前に『保険』以外の価値が生まれた。そういうことだ」

と、私の頭を撫でました。
短い、
ほんの一瞬の触れ合い。
厳密に言えば、金の被り物をしているので直接的ではありません。
けれど、本で読んだ父と娘のような触れ合いが、そこにあったような気がします。

ーー幻想、なのでしょうけれど。

「だが、存外その姿も悪くないな。オルコットよりも大分と良い。少し弄れば、モノにはなるか」

そうぶつくさと呟いて、お父様は私から離れました。
嬉しいような、
どうでもいいような、
そんな複雑な感情。

妹様の代替品、
保険。
保険の価値は、本命が消えた時にこそ生じます。
傘と同じ。
雨が降らなければ、
雨が降るという不幸に見舞われなければ、傘はただの飾りにしかならないように。
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