68 / 121
三章 領主と領民
66.綺麗な部分
しおりを挟む
「あの方は誰だ?」
「煌びやかだが、芯の通った美しさ!」
「ペントレイア様の隣にいるぞ」
「ということは名家のご令嬢か?」
「あれが噂のオルコット様か?」
「理知的顔つきをしておられる」
「我らを導くに相応しい気品っ!」
ペントレイアさんに連れられ、街の中を散策。
領民は私の姿を捉えると、恭しく頭を下げます。
そして聞こえるか聞こえないか、際どい声量で口々に言いました。
暴言、嘲笑以外の言葉は耳に優しいですね。
見ず知らずの相手に言われても、心が浮き立つのを感じます。
思ったより、期待したよりマーテルロ家の領内は栄えていました。
新しい自室の窓から見えるのと同じように、人々は笑い合い、楽しそうに過ごしています。
現状を嘆くこともなく、
苦しみを糧にすることもなく、
虐げられることもなく、
平和な日常を過ごしているようです。
領民の方々も、動物さんとの関わりは深いようです。
芸を教えて人を楽しませるもの、
可動式の荷物置きにするもの、
愛玩用に売買するもの、
食料にするもの。
様々です。
人間である彼らの表情は明るく楽しそうです。
でも、被支配側の動物さんたちの心情は窺い知ることはできませんでした。
あの子たちは好きで現状に甘んじているのでしょうか?
人間が大好きだから、彼らに尽くすことに喜びを感じ、剰え食べられてもいいと考えているのでしょうか?
人語を介さない動物さんたちに、それを確認するのは難しいです。
「そろそろ満足できましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「では、お屋敷に戻りましょう」
ペントレイアさんは私の手を引きます。
だけれど、私は地面に根を張ったように動きません。
「オルコット様?」
ここで帰る訳にいきません。
まだ私が見たかったもの、期待していた景色を見ていないのですから。
案内された場所は所詮は表層。
真実の一部。
見たいのはそこではありません。
もっと暗くて、
もっと醜くて、
もっと憎悪と怨嗟に満ちた生き物がいる場所。
私はくんくんと、犬さんに真似をして空気の香りを嗅ぎます。
あの子たち程嗅覚に自信はありませんが、自身に近い存在を嗅ぎ分ける能力は高いと自負しています。
敗北、
恨み、
被差別、
劣等、
諦観。
そんな、かつての私に染み付いた匂い。
「こちらに行きましょう」
私は、他より少し薄暗い路地を指差しました。
こっちです。
こっちから、その香りが漂ってくるのを感じるのです。
「煌びやかだが、芯の通った美しさ!」
「ペントレイア様の隣にいるぞ」
「ということは名家のご令嬢か?」
「あれが噂のオルコット様か?」
「理知的顔つきをしておられる」
「我らを導くに相応しい気品っ!」
ペントレイアさんに連れられ、街の中を散策。
領民は私の姿を捉えると、恭しく頭を下げます。
そして聞こえるか聞こえないか、際どい声量で口々に言いました。
暴言、嘲笑以外の言葉は耳に優しいですね。
見ず知らずの相手に言われても、心が浮き立つのを感じます。
思ったより、期待したよりマーテルロ家の領内は栄えていました。
新しい自室の窓から見えるのと同じように、人々は笑い合い、楽しそうに過ごしています。
現状を嘆くこともなく、
苦しみを糧にすることもなく、
虐げられることもなく、
平和な日常を過ごしているようです。
領民の方々も、動物さんとの関わりは深いようです。
芸を教えて人を楽しませるもの、
可動式の荷物置きにするもの、
愛玩用に売買するもの、
食料にするもの。
様々です。
人間である彼らの表情は明るく楽しそうです。
でも、被支配側の動物さんたちの心情は窺い知ることはできませんでした。
あの子たちは好きで現状に甘んじているのでしょうか?
人間が大好きだから、彼らに尽くすことに喜びを感じ、剰え食べられてもいいと考えているのでしょうか?
人語を介さない動物さんたちに、それを確認するのは難しいです。
「そろそろ満足できましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「では、お屋敷に戻りましょう」
ペントレイアさんは私の手を引きます。
だけれど、私は地面に根を張ったように動きません。
「オルコット様?」
ここで帰る訳にいきません。
まだ私が見たかったもの、期待していた景色を見ていないのですから。
案内された場所は所詮は表層。
真実の一部。
見たいのはそこではありません。
もっと暗くて、
もっと醜くて、
もっと憎悪と怨嗟に満ちた生き物がいる場所。
私はくんくんと、犬さんに真似をして空気の香りを嗅ぎます。
あの子たち程嗅覚に自信はありませんが、自身に近い存在を嗅ぎ分ける能力は高いと自負しています。
敗北、
恨み、
被差別、
劣等、
諦観。
そんな、かつての私に染み付いた匂い。
「こちらに行きましょう」
私は、他より少し薄暗い路地を指差しました。
こっちです。
こっちから、その香りが漂ってくるのを感じるのです。
0
あなたにおすすめの小説
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる