虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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終章

109.独白と告白と

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早く、殺さなくてはいけないと思いました。
これ以上、これ以上この人に言葉を紡がせてはいけない、
聞くべきことでないことを、この人は言おうとしている、
そう感じました。
殺意を込めて、
ぎりぎりと、
ぎゅうっと、
首に力を込めている。
込めている、つもりです。

「この状態の、私に……何を怯えている、フォルテシアよ」

でも、駄目です。
お父様の言葉は止まりません。

「怯えてなんかーーいません」

もう一度、力を込めます。
ぐぅと、ぎゅっと。
お父様が苦しそうに呻きます。

「まあいい、このまま聴くと……いい。これが最後の言葉……だ」

「喋らなくていいです」

「私は、お前を……愛して、いた」

淡々と言います。
一欠片の感情も入っていないような、

「黙ってください」

「断る、これが最後の……命令だ。最後まで、聞け」

何かの書物を音読するように、
決められた文章を読み上げるように。

「お前は、マーテルロ家の中でも、その才が豊かであった。兄アデルや妹オルコットとは比較に、ならない……程」

苦しみを顔に浮かべたまま、

「でも、あなたたちは私のことをーー」

「そうだ、虐げた。お前、のため……に、お前、を、愛して、いたから」

私のーーため?
あの全てが、私のため?

あの苦しみが、
あの痛みが、
あの屈辱が。

心を殺し、
感情を消し。
そうしなければ生きていけなかったあの日々が、私にとって必要だったと?
そんな訳、ある訳がありません。
あって言い訳がありません。

「あの行為に、一欠片も自身の欲がなかったと言えるんですか?自身の愉悦や快楽がなかったと言えるんですか?」

私は叫んだ。
むき出しの感情のままに。
大声を痛み以外で出したのは久しぶりな気がする。
いや、初めてかもしれない。
自分の気持ちを、そのままに吐き出すのは。

「それはどうでも、いいこと、だ。あろうとなかろうと、どちだでも、な。逆に言えば、あれら行為に、愛が全くなかったと、否定することのほう、……ができ、ない」

お父様は、ぶつ切れの言葉を紡ぎます。
止める気配は、まるでありません。

「お前は才知が、あった。だが、その髪では……世間から、認められぬ。力を、手にしなくては……、いけない。それも、普通より優れている、程度ではまるで足りない。圧倒的強者、逆らう意思など持てぬほ……どの高み、歯向かう気も起こらぬほどの力を身に、つけさせる、必要があった」

そんなことを言わないでください。

「フォルテシア、お前は私の、望み通りに、育った。痛みに鈍く、感情もとろけた。ついに妹を手にかけ、剰え領民すら、自身の正義のために虐殺した」

やめて、ください。

「これで最期、だ。私を殺すといい。既に……妹を手にかけてい、るお前には、容易なことだろう」

何がしたいのですか?
どうしたいのですか?

「ただ、お前もまだ不完全であるならば、あいつは見逃してやれ」

「あいつ」

不意に出た誰かの登場に、思わず聞き返します。

「お前の兄、アデルだ。あいつは、出来損ない、の落ちこぼれだ。生きていても仕方がないし、殺す価値もない」

「だが、アレは私の息子で、お前の兄だ。どうしようもない、どうでもいい人間だが、生き残ること、くらいは、許してやれ」

お父様は言い終えると、少し安心した風に、深い呼吸をしました。
どこか満足そうに、言いたいことは全て言い終わったように。
私はそれが不満でした。
とても不快でした。
首を絞める手の感触よりも、
腐敗と血の臭いが香る空気よりも。
この男の言葉と表情が不快でした。

だって、
だって、
だってーー

「どうして?どうして、最後にそんな普通のーー」

お父様のようなことを言うのですか?
本に出てくるような、
優しい父親のような顔で。
病に毒されたのですか。

「最後だから、だ。この状況、助かる可能性は、もうない。マーテルロ、家そのもの、も含めて、な。だから、全て話したんだ。これでも、本当、は子供好きなタイプでな。正直、オルコットが死んだ時は堪えた、よ。お前をいたぶっている時も、内心穏やか、ではなかった。お前を殴るのと同じ、あるいは、それ以上、の苦痛を、感じていたさ」

ふっと、皮肉っぽく笑いました。
でも、その表情も許せません。

「最後まで、悪い人でいてください」

私は、言いました。
お父様を見て、
その成れの果ての姿を見て。

「まあ、それもそうだな。すまなかったよ」

お父様は呼吸を整えて、一言……、

「これはただの時間稼ぎだよ、フォルテシア」

お父様は、私を見ていませんでした。

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