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メイ編 うっかり人間に恋に落ちた話
初デート
しおりを挟むそれから毎日。
ユエルと、キスとセックスをしまくったかというと、そうでもなかった。
「メイ、今日はとびっきりのデートプランを考えてきたよ!」
「はぁ」
ユエルは、夜、俺の溜まり場である廃教会に会いに来ては、色々なものを用意してくる。
大量の薔薇の花束だったり、俺を描いたという下手くそな絵だったり、俺への愛の歌を作ったと言ってゴミみたいなオリジナルソングを披露しだしたり。
自分の血を練り込んだクッキーを焼いてきた時はかなり引いた。
つまり、ユエルが自信満々にしているということは、このデートプランはろくなものではないということだ。
「絶対にメイを楽しませるよ!」
手を繋ぎながら、ユエルがぴょんぴょんと跳ねるように歩く。
ふわふわと癖のある白髪が舞い、何が嬉しいのかニコニコと笑っている。
「可愛いなお前」
「え…?!ほ、ほんと?!もう一回言って!」
「うるさい、またキスで黙らせるぞ」
「あぅ……」
素直に認めよう。
ユエルは可愛い。
頭のネジが外れていて変なやつだけど、うぶで健気で可愛い。
「メイはとても綺麗だよ」
「あっそ」
ユエルは、1日に数回は俺に綺麗だと言う。
「本当に綺麗なんだけどなー。僕は君をみんなに自慢したくて、メイが僕の恋人になったんだって所属する教会中に言って回ったんだけど」
「は……?」
「誰も信じてくれなかった!!」
何してんだこいつ。
ヴァンパイアハンターが吸血鬼と付き合ってるのがバレたら、普通に破門されるだろう。
でもこいつが頭のおかしいやつだというのは共通認識なんだな。日頃の行いのおかげで、周りにまったく相手にされなかったから、運良くバレなかったようだ。
「これからは俺とお前の秘密だ。わかったか」
「秘密……、なんて良い響きだろう……!
わかったよメイ、約束する!」
本当だろうな?
まあバレたところで俺には何も関係ないんだが。
街からどんどん離れていく。
辺りは暗く、月の明かりだけと、ユエルの持っているランプだけが現在地を示している。
着いたのは、人の気配のしない静かな森だった。
「夜の森なんか来て、何をするんだ?」
「何をするかって?それはもちろん――」
「セッ――」
「狩りです!!…え?」
「いや、何でもない。続けろ」
危ない。
人気のない夜の森ですることなんて、セックス以外ないと思っていた。
「うん。まあ狩りといっても殺さないけどね。
事前に鹿の角に金のリボンを巻いておいたのさ。
ルールは、その鹿を殺さずに先にリボンを取った方の勝ち。
ちなみに鹿を殺したらリボンを取っても負けだ。」
「ふーん。負けたらどうなんの」
「勝った方の言うことをなんでも聞く」
「へー、いいね。最高」
血が騒ぐ。瞳孔が開く。
狩りを前にすると、吸血鬼の本能が昂る。
獲物を恐怖で追い詰めて、追い詰めて、捕まえたその瞬間、牙を――。
ああ、ダメなんだった。
その後の楽しみは後で取っておこう。
「言っておくけれど、僕は鹿狩りが大の得意なのさ!それにどの鹿にリボンを付けたのかもわかってる。今回は僕の方が有利だよ」
「はっ、言ってろ」
ユエルの瞳孔も開いている。
こいつも狩りを前に興奮しているということだ。
その場を離れ、獲物を探す。
吸血鬼の視力は、わずかな月明かりさえあれば、どれほど遠くの場所でも見通すことができ、聴覚は心音ひとつさえ聞き逃さない。
近くに何匹か生き物がいる気配があるが、動物の本能は鋭い。自分よりも強い生き物がいると分かれば、捕食されないよう近づく前に逃げてしまう。
それに片っ端から当たるのは効率的ではないだろう。
であれば居場所を知っているというユエルの足音を辿るかと思ったのだが、隠れるのが上手いのか足音がしない。
「困ったな」
近くで一番背の高そうな木に登った。
遠くまで一気に見渡すためだ。
全ての感覚を研ぎ澄ませる。
東側に何匹か気配がする。しかし心音が早く、鹿よりももっと小さい。うさぎか?
西側は、もっと大きい。この足音は猪か何かだ。
北側は、複数の生き物の気配と水音がする。
小川が流れているのか。
木と木を静かに飛び移って気配を消しながら近づく。
目を澄ますと、小川の水を飲んで休憩している鹿の群れがいた。その中に、角に金のリボンを巻いた鹿もいる。
「いた」
ふ、と口角を上げる。
鹿は警戒心が強い。気付かれないようゆっくり近づいても、弓もないんじゃ足止めできない。
だったら、逃げるよりも早く追いつくだけだ。
木から一気に飛び降り、
木の間をぬって、風を切るように走る。
突然の気配に、鹿が警戒を始めた。
だが遅い。
俺はもう目前に迫っていて、手を伸ばせば金のリボンに届いて――、
――キィィィン
伸ばした手のひらに短剣が飛んできて、引っ込める。
後ろを振り向けば、近くの木からユエルが飛び降りた。
「へー、そういうのありなんだ」
「ふふ、ルールを外れなきゃなんでもありだよ」
上等だ。
ユエルが軽やかな足取りで鹿を追いかけながら、短剣を投げて退路を塞ぐ。
鹿が足止めを食らった刹那、ユエルは地を蹴り、空中へ跳躍する。
そのまま手を伸ばし、金のリボンに触れた、
ところで後ろからユエルを蹴り飛ばした。
「ぐへぇっ!」
するっと金のリボンを解くと、鹿が逃げていく。
「ふ、俺の勝ちだな」
ユエルは木に背中を打ちつけられて、痛みにもがいていた。
「ってー、そんなのありー?!」
「何でもありって言っただろ」
ユエルに手を差し出し、身体を起こさせる。
「今日は本当に自信があったのにぃ!」
ユエルは、たし、たしと地団駄を踏み、悔しがっている。
まだ、狩りのときに味わった高揚が収まっていない。
俺は目の前の獲物のことで頭がいっぱいだった。
「なぁ、今日のデート最高に楽しかった」
「えっ、ほんと?よかった、えへへ」
「で、何でも言うこと聞くんだっけ?」
「ぴゃ……!」
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