1000年前の恋人が忘れられない吸血鬼の話

もちえなが

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メイ編 うっかり人間に恋に落ちた話

悠久

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ユエルを失って、俺は屍のように生きた。

庭にユエルを埋めて、墓を作って、毎晩みっともなく墓に縋り付いて泣いて過ごす。

それ以外は眠って、どうしても腹が減ったら適当に血を飲む。

そうして4、500年経った頃、魔女狩りが横行した。
吸血鬼も狩りの対象で、同族が次々と数を減らすと、余計吸血鬼たちは姿を隠すようになった。

吸血鬼たちは誇りであったはずの牙をしまい、人間に紛れて暮らす。

気づけば、吸血鬼は伝承の中の存在になっていて、ヴァンパイアハンターなんて職業もなくなっていた。

ユエルの好きだった、誇りだった職業は、誰の記憶にも残らず消えた。
 
そうして、世界は変わっていった。
何度も戦争が起き、どんどん文明が開花していく。

いつまでも変わらないのは俺だけだ。

ユエルが生まれ変わって迎えに来てくれるなんていう、夢みがちなお姫様みたいな妄想をして、いつまで経っても前に進めない。

ユエルとの記憶が、出会いから最期まで、少しも色褪せることなく脳裏にとどまり続けた。
目を瞑れば、鮮明にユエルを思い出せた。
本当に、記憶力が良すぎるというのも考えものだった。

『メイ、君は僕を忘れられないよ』
 
そうだよ。
今もユエルが恋しくて、恋しくて、こうやって男を咥え込むことでしか、寂しさを紛らわせられない。

「は、は、まさか君に突っ込むことになるなんて、ね」
「あっ、は、うるせぇ無駄口叩くなディルドが」
「うわー、ムードとかないの?きみ」

いつからだろうか、偶然会ったオリアスと、傷心中の心と体を慰め合うようになった。

この行為に、何の情もない。
お互い半身を失って、一人で立っていられなくて、性に逃げるしか気持ちのやり場がなかったからだ。
 
こんなことをしたって何にもならない。
そんなのとうにわかっていて、それでもこのままじゃ、孤独で死んでしまいそうだった。
 
「君にも、感情があったんだね、メイ」
「は?」
「いや、あったか、1000年前に芽生えた」

そうだ、ユエルと出会って芽生えた。
 
「ほんと、いい気味。君も、俺も」

その通りだ。
感情がないままだったら、悠久の時を過ごすのが、こんなに辛くなかったのに。


「メイ、何見てるんだ?」
「……星」

ベランダに出て、数百年前に覚えたタバコを吸う。

夜空を見上げると、白鳥座が見えた。

ビルがいくつも建ち、夜でもロンドンの街は明るく、星空は前より見えにくくなった。
それでも白鳥座はすぐに見つけられる。
 
白鳥の姿でもいいから、早く迎えに来てくれないかな。とそんなくだらない妄想をもう数えきれないほどした。

「俺にもちょーだい」

オリアスがタバコを咥えて近づけてくる。
そのまま先端を合わせて火を分けた。

死骸のように生きていても、順応はする。
タバコは苦くて、香ばしくて、なんだか癖になるものだって知ったし、スマホもちゃんと使いこなす。

ユエルが異様に白いのは、アルビノだったからだというのもつい最近知った。

吸血鬼である俺は、遺産相続もできなくて、もう主のいないユエルの家は取り壊されて残っていない。

残ってるのは、銀の指輪だけだ。
最近はユエルのと、俺の2つをチェーンにつけてネックレスにしていた。
 
そんなわけで点々と拠点を変えながら、今はオリアスが住んでいる高層マンションに勝手に住みついていた。
 
「次は何すっかなー」

俺たちは歳を取らないので、職業もしょっちゅう変えなければならない。
この前はバーテンダーをやったが、無断欠勤しすぎてクビになった。

別に仕事をしなくても、金には困らないけれど、社会に属さない人間というのは怪しく見えるものである。

「メイ、君は働くとか向いてないし、大学生やったら?」
「えー、もう、何校卒業したかわかんねぇ」

大学生は何回もやった。
高校生も1回やって、さすがに15歳に混じるのはきつくてすぐにやめた。

朝や昼に講義があるのはしんどいが、社会人と違って勝手にサボれるし、別に卒業する必要もない。
それに、新しいことを学ぶというのは、案外楽しいものだった。
 
「じゃあ、これまでと全然違う分野にしてみたら?」
 
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