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レン編 同居人が吸血鬼だった話
大学
しおりを挟む「ひっ、……う、うぅ……お腹痛い」
僕は今大学のキャンパスを歩いていた。
たくさんの注目を浴びながら。
それもそのはずだ。
真横には、メイ・フェレスが歩いているのだから。
緊張できりきりとお腹が痛くなってきた。
こんな月とすっぽんみたいな組み合わせで歩いていたら、誰でも珍しがるだろう。
いや、そもそも僕の方なんか誰も見ていないか。
みんなの視線の先は、自ずとメイに集まる。
太陽の光に当たると、金髪がキラキラと輝いていて、立っているだけでその場を掌握できてしまいそうなカリスマ性とオーラがある。
僕はなるべく影に徹せるように背中を丸めて歩いた。
「なぁ、どっち?」
「た、たぶん、こっち」
なんで目立つ彼と一緒に歩いているかというと、前日オリエンテーションに行ったという話をした時だった。
『あーそういやそんなのあったっけ。よくわかんねえし俺も連れてけ』
『へっ?!』
授業の登録の仕方がわからないというメイに頼まれて、一緒に行くことになった。
だいたい専攻も違うのに、僕だってよくわからないという本音は飲み込み、頷くしかできなかった。
メイが所属するのは、芸術大学でも一番花形のカレッジで、主にファッションや建築デザインなど幅広く学べる。
僕の専攻するアート科とは大違いで、学生も教授もお洒落で洗練された人たちしかいない。
なんて僕は場違いなんだろう。
芋虫みたいのが混じってすみません。
早く家に帰りたい…。
「レン、そんなにお腹抑えて、腹減ってるのか?」
「ひぇ?い、ぃゃっ、むしろ食欲ない…」
「お前はヒョロガリすぎる。食堂行くぞ」
「ぴゃっ」
メイに手首を掴まれて歩く。
僕はなぜか、この綺麗な人に懐かれてしまった。
家族にしか呼ばれたことのないレンというニックネームを呼び、俺に敬語を使うなと無理なことを言う。
今日も正門で解散するのかと思えば、一緒じゃないと行かないと言われ、なくなくついていくことになった。
食堂なんて人気スポット、どれだけの目があるかわからない。
僕はもう心臓が口から飛び出てしまいそうで少しも食べられる気がしないのに。
「ん、まぁまぁうまい」
結果として、食堂で食べることはなかった。
単純にお昼時で混んでいて座る場所がなかったのだ。
僕たちは、キャンパスの少し離れた人気のない場所の芝生に座り、並んでサンドイッチを食べていた。
メイが大きく口を開けてBLTに齧り付く。
トマトが潰れ、口の端に溢れる。
一瞬見えた八重歯にドキッとした。
「見すぎ」
「ぴゃっ!ご、ごめん!」
「お前さ、普段は目合わないくせに、こういう時だけじっと見るよな」
「ご、ごめん…。不快ならもうしないよ」
「いや……、別にいーけど」
気まずくて、正面を向いて牛乳を一気に飲む。
「レンは何専攻してんの?」
「ぼ、僕はアートだよ。絵画をやってる」
「へー、デッサンとかないの?」
「え、?あ、あるけど……あまり人に見せたことないし」
「見たい、見して」
「う……はい」
リュックからクロッキー帳を取り出して渡す。
先生以外にちゃんと見てもらったことないし、ただの練習だし、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
「へー、上手いな。すごいねお前」
「えっ……?う、ううん、僕なんて全然だよ……」
「なんで?すげぇ上手いけど」
メイがパラパラとめくり、一つ一つ絵を見ていく。
先生以外の人に褒められるのなんて初めてだった。
正直、すごく嬉しい。
「レンは人物は描かないんだな」
「あ、うん……どうも目が合うと描けなくて」
「ふーん」
人と目が合うのは苦手だ。たとえデッサンモデルでも。
それにこっちがじっと見るのも恥ずかしくて、昔から人物画が苦手だった。
そこにあるのはほとんど風景画だ。
地元ノーフォークの、のどかな海辺の風景。
メイがページをめくって夢中で絵を見ていた。
長いまつ毛を伏せて、ラベンダー色の目でじっと画面を見つめている。
そこに穏やかな風が吹き、金髪の髪が揺れる。
高い鼻がつんと上を向き、綺麗なラインを描いていた。
本当にどこから見ても綺麗な人だ。
「……描きたいな」
「ん?」
「あっ、う、ううん、なんでもない」
「そう?」
絵に描いてずっと眺めていたいなんてバレたら、気持ち悪いと引かれてしまうだろう。
あぁ、なんでもいいから早く絵が描きたいと思った。
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