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拍手お礼SS 4章21話の幕間。ヒビキが寝た後(シリアス)

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4章21話のヒビキが寝た後の話。(シリアス)



「それじゃあ、ヒビキさんをお願いね、ニコロ」

「……やり過ぎないようにしてくださいねー……」

「それは彼ら次第かな。それじゃ、行こうかルード」

「……ああ」



 ヒビキがぐっすりと眠ったことを確認して、サディアスとルードは部屋から出て行く。中々の即効性のある睡眠煙。聖騎士団では睡魔に耐えるために訓練で使われていることもあり、彼らはアレに慣れていた。

 ヒビキだけを眠らせたのは、これから始まることを知られたくないからだ。どれだけの阿鼻叫喚になるのかもわからない。この部屋にニコロを残し、サディアスとルードは当主のいる部屋へと向かう。散々なパーティーになったから、恐らく言い争っているだろうと考えていたサディアスの考え通り、幼い子たちは居ないが大人たちは互いを罵倒し合っていた。



「やぁ、失礼するよ」

「な、なにか用ですかな、アシュリーさま」



 当主であるルードの兄が身体を強張らせる。サディアスの後ろにルードが居たのも原因かもしれない。全員がじっとサディアスを見る。するとサディアスは綺麗に口元に弧を描いた。



「メルクーシン領は、随分と税金が高いね?」

「……そ、それは……」

「平民と貴族の暮らしが違うのはわたしだって知っているさ。でも、随分とここは違うようだね……?」



 ルードは手にしていた書類をサディアスに渡す。サディアスはそれに目を通して、ゆっくりと息を吐く。



「貴族がなんのために領地を治めていると思っているのか。ここの領民は奴隷扱い?」



 ルードが渡したのはルードが離れてからの十年間でのメルクーシン領での死亡率を記したものだ。断トツで高い。確かにメルクーシン領は王都より寒い。だが、凍死するレベルの寒さではないはずだ。きちんと暮らせていれば。



「貴族の責任を果たしていないのに、どうしてこうも贅沢するかなぁ?」



 ふふ、とサディアスは嗤う。ルードはただ黙ってサディアスの言葉を聞いているだけだ。忌々しそうに当主の表情が歪む。サディアスはすっと目元を細くして、元当主であるルードの父を指さした。



「『若造になにがわかる』って、あなたに思われたくないな。これは元当主であるあなたが悪いのだから」

「なっ……!」

「『黙っていればいい気になりやがって』? いい気になっているのはあなたたちだろう。わたしがメルクーシン家と付き合っていたのは、ルードの存在があったからだ。わたしはルードのことを弟のように思っているからね。『化け物を』? まだそれ思っているの? 本当、反省しないよね。そんな人たちのところに、もう援助なんてしなくても良いよね?」



 向けられる考えを読み取って、サディアスが淡々と言葉を紡ぐ。援助の話になればルードがぎょっとしたように目を大きく見開いた。メルクーシン家に援助していたのを知らなかったのだ。



「『化け物ども』? それはわたしたちに対する宣戦布告と思っても良いよね……?」



 にっこりと微笑むサディアスに、メルクーシン家の者たちはついに悟る。この男は、自分たちの考えていることを読んでいるのだと。



「――ああ、このスキルを持つのがわたしで良かった」



 心底嬉しそうに、サディアスはそう言った。ルードが怪訝そうにサディアスを見ると、サディアスはちらりとルードを見てから言葉を発する。



「ルードやヒビキさんが聞いたら、きっと心を痛めるだろうからね」



 恐れられるのも、嫌われるのも慣れていた。だからこそ、言える。――この人たちは本当に人としての矜持まで失ってしまっているのだと。サディアスは自分に向けられる嫌悪と憎悪、そして戸惑いを鼻で笑う。



「大学まで行ったのに、研究職にはなれなかったようだね。それで遊ぶためのお金をもらいに来たの? わたしは、そのためにメルクーシン家を援助したわけじゃないんだけどなぁ?」



 ぐ、と唇を噛む次兄。そして、現当主に視線を向けると、彼は怯えたようにサディアスを見る。



「ああ……、へぇ。女遊びが好きなんだ。可哀想に、奥さん。ああ、その奥さんも使用人にちょっかい出してるんだね。ふふ、本当に――救えない人たちだ」

「……吐き気がしますね……」



 ようやく、ルードが一言だけ言葉を発した。そして、サディアスが面白そうにクスクスと笑う。両腕を組んで、「同じ女を取り合っていたんだね、可哀想に、彼女ボロボロじゃないか」というと、がたっと現当主と次兄が立ち上がる。

 同じ女を取り合っていた、の部分に思い当たることが合ったのだろう。



「――なぜ、そんなことまで……!」

「だって見えるのだもの。あなたたちの醜いところが。とりあえず、今日はわたしからの宣戦布告と思ってくれて良いよ。わたしはもう援助をするつもりはない。ああ、それと、取り合っていた彼女、もういないみたいだよ。――この世から。そうでしょ、奥さん?」

「――!」



 ガタガタと震える現当主の妻。本当に、救いようがない人たちだ。むしろ、こんな家族にルードが愛されなくて本当に良かった。サディアスはそれだけ言うと、部屋から出て行く。ぱたんと扉を閉めたの同時に、誰かが殴るような音が聞こえた。



「……すみません、サディアス。こんなことに巻き込んで」

「え? 別に。言ったでしょ、ルードのことは弟のように思っているって。ところで、ルードはメルクーシン家に未練ある?」

「ありませんね。私にはヒビキが居ますから」

「そ。じゃあ――良いよね」

「……お好きにどうぞ」



 明日からちょっと忙しくなるなぁとサディアスは目元を細めた。その瞳の奥には怒りの炎が燈っていた。

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