風の聖女は護れないっ! ~聖女の力を分けた結果、聖女は“あほの子”になった~

笹色 ゑ

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 アリア様が特別な何かだと言うことは、歌う姿を見れば誰もが理解できることだ。

 王になったヴィクタが、アリア様を求めるなら理解できる。なぜ私なのか。恐らくヴァーナード様との縁をより強固にし、援助してもらうためだろう。

 アリア様を求めれば、ヴァーナード様は容赦しない。王政すら撤廃してしまうかもしれない。だから、義母妹の私を選んだのだ。

「馬鹿らしい」

 仕事の合間に言葉が漏れてしまう。

 王妃になれるなどと夢物語を信じるつもりはない。精々愛人だ。

 愛人は一概に娼婦のような役割が求められているわけではないことはわかっている。

 正妻や正妃は家柄が第一に考えられる。産まれがいいから頭がよくて、社交に向いているわけではない。むしろ、跡継ぎが産めることが最大の仕事だ。

 愛人は知識の乏しい正妻の代わりに色々な役割を務めるためにいることも多い。

 政策のために私に愛人になって欲しいと言われれば、私は受け入れたかもしれない。だが、送られる手紙はまるで恋文だった。

「ユナ、手紙が届いてましたよ」

 仕事に集中しようとしていた矢先、職員が私宛の手紙を持って来た。

 仕事の関連がいくつか。それ以外が三通だ。

「……はぁ」

 私は産まれた時から運がないことはわかっていた。

 一通は王になりながら平民に恋文を送る能無し。

 二通目は種だけ蒔いて雑草だと踏みにじり続けた男。

 三通目は、母親だった。

 どれもこれも、自分勝手なことが書かれていた。不快で仕方ない。

 一番の不快なのは、こんな紙切れに心が傷つき、揺らぐ自分だ。

「少し出てきます」

 机を簡単に片づけて、ヴァーナード様の屋敷を出た。

 今は新規会社へ移転の関係で色々と忙しくて場所がない。

 無視できないのは三通目だった。

 一通目は、諦めるために一度話し合いたいと書かれていた。

 二通目は、正式な娘として手続きをするからハールヒット侯爵家へ来るようにと書かれていた。

 どちらも無視すればいい。ヴァーナード様に報告して、指示を仰ぐ。もし必要なら、ハールヒット侯爵家を私が乗っ取り引き継いでもいい。王を確実に操るために愛人に成れと言われれば受け入れる。

 盲目的に従うのかと言われれば違う。私は自分が成り上がるため、生き残るためにヴァーナード様を利用すると決めたのだ。

 だが、三通目を無視できない自分がいた。

 母からの手紙……近くに来ているから会いたいというものだった。

 本来ならば無視するところだ。だが、母親は私の結婚相手を連れてきたという。

 親が結婚相手を決めることはそれほど珍しくない。ヴァーナード様が阻止はしてくれるだろうが、勝手に婚姻届けなど出されては困る。

 結局一番私の邪魔をするのは、私を産んだ女だった。

 本来なら母親に会わず、ヴァーナード様に報告して適当な相手を探してもらい養子にしてもらうべきだ。

 親という権利をあの人達に持たせたままでいることは私だけでなくヴァーナード様たちにも不利益になる可能性がいよいよ出てきた。

 いや、わかっている。

 もっとも簡単な解決策があることを。

「ああっ、ほらっ、ちゃんと来てくれました」

 滞在しているという宿屋に行くと、着飾った母が出てきた。それにざわりと嫌な予感がした。

 宿屋は母が泊まるには値の張る場所にあった。気づく機会は何度もあったのだ。

「ああ、ようやく娘に会えた」

 部屋から出てきたのはハールヒット侯爵だった。

 私とヴァーナード様の唯一の接点である男。自分がこの世に生まれる元凶になった相手。

「あなたの事、実の娘だと認知してくださるのよ。奥様と話し合ってくださったって……それに、貴族との縁組までしてくださって……。妾の子と違って、ちゃんとあなたを貴族にしてくれるのよ」

 ヴァーナード様に救われるまで、ゴミのように扱われてきた。それなのに、恩のある相手を妾の子と言う。自分は妾にすらなれない女だったのに。

「私は……」

「連れていけ」

 私が口を開く前に、侯爵がいつの間にか後ろにいた従者に命じた。母は、自分がまだ若い娘だとでも思っているのか、男に甘えるように寄り添っていた。

 別に、子供を産んだからその子供のために生きるべきだとは言わない。彼女も望んで私を産んだわけではないのだ。

 だが、いらないならせめてきっぱり捨てて欲しい。ゴミだと言いながら利用ができるとわかった途端に手の平を返す。それを私が受け入れると本気で思っている。

 どこかで、私は母を切り捨てられないでいた。

 遠ざけることで、見えない場所に置くことで、どうにかしようとしていた。

 だけど結局、私も私のゴミを捨てずに、自分に良心があると知りたい時だけのために取っていたのだ。

 ゴミはすぐに燃やして捨てるべきだった。




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