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第五章
73:机上の空論なら、誰でも名将だ
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でも、それって情けないな。
「手は貸してやってもいい。ただし、古代の魔女への進軍までだ。僕は王都には帰らない」
「よっぽど、昔の一件が堪えているらしいな」
「あとルルは、精霊とともにゴート城を守らせる」
「ええ?何でですか?」
「戦だからだ」
「戦って、交渉しに……」
「彼女の逆鱗に触れれば、軍はその場で全滅する恐れがある。一端の剣士にもなっていないルルを軍に帯同させることはできない」
すると、ウォルトがくすっと笑う。
「俺はミレイを連れて行くぜ。進軍は二週間で終わらせる予定だが、戦は往々にして伸びるもんだ。月狂いの夜がやってきたらどうする?俺は、他の男に任せるつもりはないぞ?ましてや、最後となる月狂いの夜を他の男に慰めさせるなんて」
「王都を出て、十日も過ぎていないはずだ。その間にやっていた月狂いの夜は一回。旅先で出会ってのぼせ上がったか?」
冷徹な言葉をアスランはウォルトに向かって投げつけたはずなのに、ルルの心がザクッと傷んだ。
だが、ウォルトはアスランの質問には答えず、別のことを語りだす。
「俺の筋書きはこうだ。お前の長兄は、王位を狙うウォルトが、ゴート城に行ったまま遊び呆けていると油断する。間者を放って、俺がミレイに入れあげていると報告してくれたらなおよしだ」
「確実にもう報告されているだろうよ。お前らは派手だから。で、どういう手はずで行く予定なんだ?お前が軍を動かしたら、それこそ疑われるぞ?」
「まず、この近辺で大規模な古代の魔女の呪いが起ったことにする。礼の剣士が集団で具合を悪くしたっていうあれな。それが一般市民にも飛び火しているようだとか、なんとか」
「でっちあげるんですか?」
とルルが聞くと、「そうだ」とウォルトは涼しげな顔で頷く。
「長兄は、剣士が集団で具合を悪くする事象に、多大なる拒否感を感じていらっしゃる。そうなれば、美貌の剣士と遊び呆けている俺になんとかしろと言ってくるだろう。だが、俺は腑抜けだ。だから、第一陣の魔法使いだけではなりません、時期王様!なので、第二陣をご用意下さい。ああ、第二陣もダメでした。第三陣には剣士もたっぷりとうにゅうしてください。数で勝負です!」
ルルはよどみなく喋るウォルトにポカンとしてしまった。
対する、アスランは慣れっこのようだ。
はいはいというように、呆れ顔で聞いている。
ウォルトの話はまだ止まらない。
「そして、王都に古代の魔女が登場!長兄軍が頑張りますが、即全滅です。エルバート王国の崩壊が見え始めた矢先に、ウォルト軍は華々しく登場し、古代の魔女を打つという流れ」
「机上の空論なら、誰でも名将だ」
「隣で見ておけ。実現するさまを」
ウォルトの分まで平らげたミレイを確認して、ゆらりと彼が立ち上がる。
その後ろに、弾むような足取りでミレイが続いた。
彼らの足音が遠ざかっていく。
完全にその音が聞こえなくなってから、アスランが両肘をテーブルに付いて、そこに額を乗せた。
「はあ」と長い溜息が聞こえる。
ルルは黙っていた。
アスランはとてもピリピリしていて、声をかけられる心境ではなかったのだ。
ひとしきりため息をついたアスランは、「あいつは嵐を運んでくる。いや、嵐そのものだ」と文句を言いながら、指をパチパチ鳴らした。
精霊が雑記帳を一冊とペンを一緒に持ってやってきて、白紙にさらさらと文字を書いていく。
「ルル。王都からロンドを呼ぶ。情報集めをし、僕に真実を流してくれる信頼できる奴だ。古代の魔女へ進軍となれば、ここが旗城となるため、多くの魔法使いや剣士が王都からやってくる。それに人が動くなら食料や武器も必要になる。ロンドに陣頭指揮を取らせるから、ルルはそれの補佐に当たってくれ。今後のために、いい勉強にもなるだろう」
「あの、俺、本当にゴート城に置いてけぼりですか?」
「手は貸してやってもいい。ただし、古代の魔女への進軍までだ。僕は王都には帰らない」
「よっぽど、昔の一件が堪えているらしいな」
「あとルルは、精霊とともにゴート城を守らせる」
「ええ?何でですか?」
「戦だからだ」
「戦って、交渉しに……」
「彼女の逆鱗に触れれば、軍はその場で全滅する恐れがある。一端の剣士にもなっていないルルを軍に帯同させることはできない」
すると、ウォルトがくすっと笑う。
「俺はミレイを連れて行くぜ。進軍は二週間で終わらせる予定だが、戦は往々にして伸びるもんだ。月狂いの夜がやってきたらどうする?俺は、他の男に任せるつもりはないぞ?ましてや、最後となる月狂いの夜を他の男に慰めさせるなんて」
「王都を出て、十日も過ぎていないはずだ。その間にやっていた月狂いの夜は一回。旅先で出会ってのぼせ上がったか?」
冷徹な言葉をアスランはウォルトに向かって投げつけたはずなのに、ルルの心がザクッと傷んだ。
だが、ウォルトはアスランの質問には答えず、別のことを語りだす。
「俺の筋書きはこうだ。お前の長兄は、王位を狙うウォルトが、ゴート城に行ったまま遊び呆けていると油断する。間者を放って、俺がミレイに入れあげていると報告してくれたらなおよしだ」
「確実にもう報告されているだろうよ。お前らは派手だから。で、どういう手はずで行く予定なんだ?お前が軍を動かしたら、それこそ疑われるぞ?」
「まず、この近辺で大規模な古代の魔女の呪いが起ったことにする。礼の剣士が集団で具合を悪くしたっていうあれな。それが一般市民にも飛び火しているようだとか、なんとか」
「でっちあげるんですか?」
とルルが聞くと、「そうだ」とウォルトは涼しげな顔で頷く。
「長兄は、剣士が集団で具合を悪くする事象に、多大なる拒否感を感じていらっしゃる。そうなれば、美貌の剣士と遊び呆けている俺になんとかしろと言ってくるだろう。だが、俺は腑抜けだ。だから、第一陣の魔法使いだけではなりません、時期王様!なので、第二陣をご用意下さい。ああ、第二陣もダメでした。第三陣には剣士もたっぷりとうにゅうしてください。数で勝負です!」
ルルはよどみなく喋るウォルトにポカンとしてしまった。
対する、アスランは慣れっこのようだ。
はいはいというように、呆れ顔で聞いている。
ウォルトの話はまだ止まらない。
「そして、王都に古代の魔女が登場!長兄軍が頑張りますが、即全滅です。エルバート王国の崩壊が見え始めた矢先に、ウォルト軍は華々しく登場し、古代の魔女を打つという流れ」
「机上の空論なら、誰でも名将だ」
「隣で見ておけ。実現するさまを」
ウォルトの分まで平らげたミレイを確認して、ゆらりと彼が立ち上がる。
その後ろに、弾むような足取りでミレイが続いた。
彼らの足音が遠ざかっていく。
完全にその音が聞こえなくなってから、アスランが両肘をテーブルに付いて、そこに額を乗せた。
「はあ」と長い溜息が聞こえる。
ルルは黙っていた。
アスランはとてもピリピリしていて、声をかけられる心境ではなかったのだ。
ひとしきりため息をついたアスランは、「あいつは嵐を運んでくる。いや、嵐そのものだ」と文句を言いながら、指をパチパチ鳴らした。
精霊が雑記帳を一冊とペンを一緒に持ってやってきて、白紙にさらさらと文字を書いていく。
「ルル。王都からロンドを呼ぶ。情報集めをし、僕に真実を流してくれる信頼できる奴だ。古代の魔女へ進軍となれば、ここが旗城となるため、多くの魔法使いや剣士が王都からやってくる。それに人が動くなら食料や武器も必要になる。ロンドに陣頭指揮を取らせるから、ルルはそれの補佐に当たってくれ。今後のために、いい勉強にもなるだろう」
「あの、俺、本当にゴート城に置いてけぼりですか?」
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