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第五章

85:私の子供になってくれるなら手厚い治療と看取りを約束する

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 点滴が施され、看護師達は去っていった。
 上原だけが病室に残る。
「騒がしいだろうから、面会謝絶にしておいたよ」
 こっちの読みの通りだ。
 密室状態にして、周りから遮断する。
「すぐに治療を開始しなければならないね」
と上原が言うので、
「緩和的なのじゃなく、延命用の治療でしょ?僕が半年ぐらいは生きてくれないと、先生が怪しまれるものね」
 薬がまだ効くようで、喋ることはできる。
 貴方がやろうとしていることは全て知っていると暗に示した。
「先生。ずっと前に、僕の携帯にアプリを入れたでしょ?たぶん、位置情報特定アプリ。検査の最中ならロッカーの中に荷物を預けていても、医師なら取り出せちゃおうかもしれないしね」  
「零君。悪いようにはしない」
 これには少し笑いたくなった。
 闇組織の駒にされているのなら、権限なんて与えられていないはずだ。
 こっちは全部エイトから聞いているのだ。
 彼は零に分厚い封筒を差し出してきた。
「私の子供になってくれるなら手厚い治療と看取りを約束する。長い付き合いだ。信頼してくれていい。でも、それをもっと強固な関係にしたいんだ」
「これは?」
「分かるだろう?」
 養子縁組届け出書と書かれていた。
 ほとんどの欄は埋められており、零の自署する欄だけが空いていた。
 封筒からはさらに零の戸籍謄本、印鑑、マイナンバーカードまで出てくる。
 零は虚ろな表情で言う。
「残念。これ、もう書いちゃったよ」
「書いた?」
 上原の声が震える。
「二日ほど前かな」
「あ、相手は?」
「新田一。恋人から家族に……。えっと、出しておいたよって言ってたから、多分、家族になっているはずなだけど」
 上原は顔面蒼白になりバタバタと病室を出ていった。
 きっと闇組織の中間役に泣きつくために電話しにいったのだろう。
「情けない」
 子供の頃からの憧れの相手だった。
 知的で、零のことを大人扱いしてくれて。
 あの頃は上原はまともだったのかもしれない。
 ギャンブルに手を出して追い詰められ本性が出てきたようだ。
「いや、僕が男を見る目がないだけかな?」
 だったら、新しい男はどうだろう?
 このピンチにどう出る?
「警察」
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