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エピローグ
99:次は月曜日に来い。子供カフェの日にしたから堂々と。
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零が泣き出すと、骨が壺の内側にぶつかって軽く音を立てた。
数日、骨壷を家に置いた。
大家の遺言は、骨を駅のトイレに流すこと。
でも、零がずっと躊躇している。
「なら、置いちまうか?この家を気に入っていたことだし。マンションの方でもいいが」
真っ赤な目で零が言う。
「呪ってやるて手紙に書かれていたし、大家さんの言う通りにするよ。しかも、その呪ってやるいうセリフ、僕が大家さんに以前言ったんだ。僕が死んだら、財産をエイトに分けてやって欲しい。してくれなかったら呪ってやるって」
「見事にやり返されたな」
「あの人には敵わないよ。無理矢理にでも母さんとくっつけてやればよかったかな。そうしたら死なかかったかな」
「たられば、ってやつだ」
「そうだね。大家さんも笑っていそう。大家さん……、お、お父さん」
突っ伏して泣き始めた零の背中をエイトは擦る。
今の言葉、最大限の供養だろうがと心の中で思いながら。
後日、遺言どおり駅のトイレに遺骨を流した。
零はどうしても無理だと言って、最後には付き合わなかった。
それでいいと思う。
別れ方は人それぞれだ。
言葉少なに臨時休業にしたカフェに戻る。
玄関の鍵を開けようとすると、庭の方でさっと音がし何かが逃げていく音がした。
でも、そっちは行き止まりだ。
「猫とか犬?もしかして泥棒?」
と零が庭に入っていこうとするので、
「葬式帰りにそりゃねえわ、大家」
と零に空になった骨壷を預けて制し、エイトは庭へと入っていく。
犬猫ならまだいい。
Fリストを入手してここまでたどりついた残党だとしたら。
もしくは、パン?
「気をつけて。エイト」
「おう。……おう?」
庭の隅にうずくまっていたのは、五、六才ぐらいの男の子だった。
汚れた服装していて、口に端と手にはチーズケーキの欠片がついている。
初対面なのに、覚えがある。
まるで幼い頃の自分に出くわしたような、そんな感覚。
だから、この子供がどんな生活をしているのか手に取るように分かった。
「庭の窓、空いてらあ」
とエイトは零に向かって言う。
「ごめん。戸締まりしたの僕だ」
と言って庭にやってきた零が子供を見て足を止める。
そして、何も言わず目配せ。
エイトは黙ってうなずいた。
零が怯えている子供を「よく来てくれたね。中に行こう」と誘って店内に連れて行く。
「どこの子?名前は?」
何も名乗らない彼を椅子に座らせ、零はショーケースからケーキを取り出す。
虚ろな表情で黙ってテーブルの端を眺めている子供の真ん前にエイトは立った。
「次は月曜日に来い。子供カフェの日にしたから堂々と。タダだから心配しなくていい」
すると子供がぽかんとした後、泣き出した。
零がその涙を優しく拭ってやっているのを、ふわっと心が暖かくなるのを感じながらエイトは見ていた。
【完】
数日、骨壷を家に置いた。
大家の遺言は、骨を駅のトイレに流すこと。
でも、零がずっと躊躇している。
「なら、置いちまうか?この家を気に入っていたことだし。マンションの方でもいいが」
真っ赤な目で零が言う。
「呪ってやるて手紙に書かれていたし、大家さんの言う通りにするよ。しかも、その呪ってやるいうセリフ、僕が大家さんに以前言ったんだ。僕が死んだら、財産をエイトに分けてやって欲しい。してくれなかったら呪ってやるって」
「見事にやり返されたな」
「あの人には敵わないよ。無理矢理にでも母さんとくっつけてやればよかったかな。そうしたら死なかかったかな」
「たられば、ってやつだ」
「そうだね。大家さんも笑っていそう。大家さん……、お、お父さん」
突っ伏して泣き始めた零の背中をエイトは擦る。
今の言葉、最大限の供養だろうがと心の中で思いながら。
後日、遺言どおり駅のトイレに遺骨を流した。
零はどうしても無理だと言って、最後には付き合わなかった。
それでいいと思う。
別れ方は人それぞれだ。
言葉少なに臨時休業にしたカフェに戻る。
玄関の鍵を開けようとすると、庭の方でさっと音がし何かが逃げていく音がした。
でも、そっちは行き止まりだ。
「猫とか犬?もしかして泥棒?」
と零が庭に入っていこうとするので、
「葬式帰りにそりゃねえわ、大家」
と零に空になった骨壷を預けて制し、エイトは庭へと入っていく。
犬猫ならまだいい。
Fリストを入手してここまでたどりついた残党だとしたら。
もしくは、パン?
「気をつけて。エイト」
「おう。……おう?」
庭の隅にうずくまっていたのは、五、六才ぐらいの男の子だった。
汚れた服装していて、口に端と手にはチーズケーキの欠片がついている。
初対面なのに、覚えがある。
まるで幼い頃の自分に出くわしたような、そんな感覚。
だから、この子供がどんな生活をしているのか手に取るように分かった。
「庭の窓、空いてらあ」
とエイトは零に向かって言う。
「ごめん。戸締まりしたの僕だ」
と言って庭にやってきた零が子供を見て足を止める。
そして、何も言わず目配せ。
エイトは黙ってうなずいた。
零が怯えている子供を「よく来てくれたね。中に行こう」と誘って店内に連れて行く。
「どこの子?名前は?」
何も名乗らない彼を椅子に座らせ、零はショーケースからケーキを取り出す。
虚ろな表情で黙ってテーブルの端を眺めている子供の真ん前にエイトは立った。
「次は月曜日に来い。子供カフェの日にしたから堂々と。タダだから心配しなくていい」
すると子供がぽかんとした後、泣き出した。
零がその涙を優しく拭ってやっているのを、ふわっと心が暖かくなるのを感じながらエイトは見ていた。
【完】
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読み始めたらどんどん惹き込まれて、スクロールする手も涙も止まらなくなってしまい、思わず二周しました。なぜか私まで救われたような、そんな気がしました。こんな素敵な作品と出会えて嬉しかったです。ありがとうございます。
Almond frostさん
感想ありがとうございます。
とても励みになります!
2024年は新作も多く投稿しようと思っていますので
また読んでいただけたら嬉しいです。
なんだか上手く言葉に出来ないのですがとにかく良かったです(இωஇ`。)
ノア吉さん
こちらの作品に初めての感想をありがとうございます。
嬉しかったです!