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第一章

11.お前、ちゃんと眠れるようになったんだあ

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 出会ったときは神と捧げ物だったけれど、話をするうちに少し分かりあえた。
 せめて「よかったですね」の一言ぐらいは欲しかったなあと思っていると、
「それにしても、変わった名前ですね。キ国では土人形は神々の名前の一部が使われます。やはりシンラは、キ国の支配が及ばない辺境の民のようですね」
 たぶん、それも違う気がする。
 そもそも、この世界に存在していなかった感覚が強いのだ。
 謎は解けないまま本格的に寝入って、次に目を開けると森羅を抱きしめぐっすり眠るスエンの姿があった。
 わあ。すごい。
 まるで息をする彫刻みたいな。
 森羅は、スエンを見つめながら記憶の整理を始める。
 神事の部屋に連れて来られて分かったのは、ここがキ国という昼しか無い国だということ。スエンは夜の国クルヌギアの住人。
「そして、オレの名前は森羅」
 小さく呟くと、スエンが声に反応して「ううん」と唸った。
 この時間を止めたくなくて身動きせずにいると、やがて扉が開いて誰かが入ってきた気配があった。
 スエンより大柄なシルエットだ。身長差で神様と土人形が別れているなら、おそらくこの謎の訪問者も神様。
 ペタペタという皮のサンダル特有の足音。ベールが掻き上げられ、顔を見せたのは見るからに陽気そうな赤毛男だった。
「お?!」
 眠っているスエンと起きていたシンラを見比べて、声を出したあと、「あっ。やべえ」と自分の口を抑える。
 そして、スエンが目覚めないのを確認してから、「よう。土人形」とかなりの小声で森羅に向かって挨拶してきた。
 だから瞬きで返す。
 赤毛男はスエンの寝顔をひとしきり眺めた後、
「ふうん」。
 そして、「お前、ちゃんと眠れるようになったんだあ」と囁きながらスエンの頬を指先で軽く撫でる。
 なんとなくだが、特殊な関係に思えた。
 慈しむようにスエンの寝顔を赤毛男が見つめているから尚更だ。
 ついでみたいに赤毛男は森羅の頭を一撫でして、ベールの外に出ていく。
 足音が遠ざかり、また森羅とスエンだけの空間になった。
 夢でも見ていたのだろうか。
 また、深く眠ったらしい。
 目覚めたときには、上半身を起こされ、なぜか夜着をがばっとはだけられていた。
 スエンが森羅を後ろから抱いていて、胸元に手を滑らせていたのだ。
 金の指輪がされた長い指の間から、森羅の乳首が覗いている。
「う、うええええ?一体、何が??」
 慌てると、スエンが「寝過ごしました。打ち合わせどおりに」と耳元で囁いてくる。
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