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第一章

15.あ、やっぱり、クルヌギアに連れて行ってくれる訳じゃないんだ

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 少し行くと食べ物を売る屋台だ。葡萄やナツメヤシ、ナッツのようなものが売られている。
 いろんな匂いが漂う中、鈍い下水臭も。
 人通りはかなりある。
 森羅ほどの背丈の者が多く、抜きん出て背が高いのがポツポツ。
 キ国での土人形と神々の比率もこれぐらいなのだろうか。
 賑わうそこを抜けていくのは大変そうだなと思ったが、杞憂だった。
 スエンが歩き出すと、
「スエン様だ」
「夜の守護神だ」
と海が割れるみたいに道が開く。
 同種なのに神々は遠くからスエンを眺めているだけで、声をかけてくる素振りは無い。
 森羅にはそれが不思議だった。
 昨晩、ベールを潜って寝台までやってきたあの赤毛男は、眠るスエンにとても親しげだったからだ。
 メイン通りをひたすら歩く。
 すり鉢状の大きな建物からは地鳴りのような歓声が聞こえてきた。
 思わず飛び上がる。
 スエンは慣れているようだった。
「劇場です。キ国にはあちこちにあるんですよ。神話を元にした話が鉄板ですが、最近では土人形が主役の話も多いみたいですね。さあ、ここです」
 最終的にスエンが案内してくれたのは、劇場の歓声が僅かに届き裏通りだった。
 門があり、そこをくぐる。
 中には小さな庭があり、奥に赤茶けた建物があった。
 先程までどんより曇っていた空は、急激に晴れ間が広まっていた。
 なんだろう。ローブから出ている手や顔がヒリヒリする。
「先生。ここは?」
「行き場のない者を救ってくれる場所です。救護院と言えば分かりますか?」
「あ、やっぱり、クルヌギアに連れて行ってくれる訳じゃないんだ」
 ぼそりと抗議したが、スエンは救護院の扉を叩き続ける。
 暫くして黒いローブを羽織った小男が焦ったように出てきた。
「ややや。スエン様」
と額に汗をにじませる焦りよう。
「彼がこの救護院の施設長です」
とシンラは説明を受けた。
 少しの間、彼らは立ち話をし、森羅の受け入れが決まった。
 建物の中に入る。
 一雨来そうだったのに雨雲は去り、救護院内部には日差しが差し込んでいる。
「シンラ。もうフードはいいですよ」
 スエンに促されてフードを取ると、
「痛っ」
 窓から差し込んでくる太陽光線に当たった頬がビリっと痺れた。
 まるで焼きごてを当てられたような衝撃だ。
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