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第一章

16.シンラ。ここでお別れです

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 スエンと施設長が目を丸くして森羅を見ている。
「頬が一瞬で黒く焦げた?スエン様。害をなす者は太陽に当たると焦げて死ぬと言われています。もしかしてこの方、その手の者ではないでしょうな。この教護院が病や死の発祥地になるわけにはまいりません」
 害をなす者?
 森羅は頬を抑えながら考える。
 もしかして悪魔のことだろうか?
 まだ、この時代はその言葉が出来上がっていない?
「まさか。これは元々あった火傷です。彼はただの土人形ですよ。一晩過ごした私が証明します。さあ、早くシンラを部屋へ」
 スエンは指に光っていた宝石付きの指輪を一つ外すと渋る施設長に強引に渡し丸め込む。
 簡素な部屋に通された。
 粗末な寝台一つしかない。
「貴方、日に焼けると焦げるのですか?」
「オレもよくわかりません。でも、今、凄く痛い」
 スエンが森羅の鞄を引っ掻き回し、貝殻のケースを見つけ出す。そして、忙しない手付きで軟膏を頬に塗ってきた。
「無くなる頃に、新しいのを送ります。救護院では奉仕活動がありますが、屋内だけにするよう施設長に言っておきましょう。じゃあ、私はこれで」
 慌ただしく去ろうとするスエンのローブの裾を、森羅は反射的に掴んでいた。
 分かっているのだ。
 こんなことをしても無駄だって。
 スエンは長年続く神事のためにキ国にやってきただけだ。
 それも、鬱陶しいと思いながら。
 加えて、嘘の不幸話で同情を誘った挙げ句、今回も謝礼を渡した途端、逃げていく失礼な土人形なんだろうなと森羅のことを思っていた。
「シンラ。ここでお別れです」
「本当に、本当にクルヌギアに帰っちゃうの?」
「私は十分すぎることを貴方にしたと思いますが?」
「次はいつキ国に?」
「そう何度も来れません」
「じゃあ、下手したら次の『神との添い寝』が行われる百年後ってこと??オレ、絶対に生きていない」
 ―――だから、クルヌギアに連れて言ってよ。
 肝心のセリフが言えなかった。
 喉に小石が詰まって重苦しい感じで。
 胸も不安で高鳴っていた。
 拒絶されるのが怖くて堪らなかったのだ。
 きっと、過去に経験したのだろう。
 少し優しくされただけで、愛情まで与えられたと勘違いして盛大に傷つくようなことが。
 スエンは珍しく笑う。
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