上 下
23 / 97
第二章

23.オレも行きたい

しおりを挟む
「肌、痛みませんか?そろそろ薬を塗りましょうか?」
 耳元で優しく言われる。
 出会ったときのツンケンさはどこへやら。森羅が目覚めて以来、スエンは常時、こんな感じだ。
 あの一件で、確かに傷付いたけれどそこまで深くはない。 
 それは、先生が心まで手当してくれているから。
 だから、オレ、平気だよ。
と面と向かって、まだ言えていない。
 憂いがあるからだ。
 スエンは元々、森羅をクルヌギアに連れてくるつもりが無かった。だから、怪我が治ればキ国に戻れと言うかもしれない。昼しか無いあの国で、一生外に出ることが無ければ生きていけるのだから。
 でも、心の傷は見えないから、深く傷ついたままのフリをする。
 そんな自分がとてもずるいと身体の自由が効くようになるごとに思う。
 例えば、流動食から固形食に変わったとき。
 例えば、一人で用が足せるようになったとき。
 これまでできなかったことができるようになる度に、罪悪感が胸に湧き出る。
 スエンが森羅の頭の下から腕を外して起き出す。
 そろそろ、裏庭にある野草園に行く時間のようだ。
「オレも行きたい」
 いつも断られているのだが、今日は「少しだけなら」と許可された。
 毛布で包まれ抱き上げられ、寝室を出て居間へ。
 どこもスエンの身長に合わせて作られているが、居間はことさら広い。
 例えるなら、病院の待合室ぐらい。
 動物の皮を剥いだらしい白黒模様の絨毯が敷かれ、足の無い長いソファーが置かれている。
 たぶん、ソファーの原型だ。
 真ん中にゴロゴロと寝転がっているのは猫数匹。
 ただし、どれもでかい。
 森羅より大きいスエンのさらに三倍以上の大きさがある。
 最初、見たときは相当驚いた。
 スエンの寝室で火傷の後遺症でうんうん唸っていたら、集団でやってきて物珍しそうに眺めていたのだ。
(あの時は、マジで食われるかと思った)
 スエンに聞いたところによるとニャーゴという品種だそうで、神々が改良を繰り返し、乗り物にしたり家を守らせたり運搬業務をさせたりしているらしい。
 茶トラの巨猫がスエンに寄ってきて腰のあたりにまとわりつく。でかくても、仕草は普通サイズの猫と変わらない。
「餌は上げたでしょう?」
 食い意地も結構張っている。
 たまに、もう何日も食べていませんという演技めいた鳴き声を出すらしい。
 スエンが森羅を抱きかかえたまま玄関に向かおうとすると、茶トラは駆け出し扉にタックルするようにして両手が塞がったスエンの手助けをする。
 ただでかい猫という訳じゃなく、四、五才の子供ぐらいの知能はある。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最後の恋人。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:73

時代小説の愉しみ

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:553pt お気に入り:3

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:31,300pt お気に入り:322

婚約者は私より友情が大事なようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:3,029

【完結】真実の愛はおいしいですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,925pt お気に入り:206

滑稽な飛脚物語〜音速で駆け抜けろ〜

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:15,470pt お気に入り:7,992

混血の守護神

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

処理中です...