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第二章

34.オレ、失踪しようか?

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「そのきっかけを作った私は罰を与えられるでしょうね。雷で砕かれるとかそのような類の」
「駄目だ、そんなのっ!!先生。唾液でなんとかなるならオレに……そのう、してくれない?悪魔を飼っていないという証明ができればいいんだから」
「貴方に最善の治療を施さなかったのは訳があります」
「オレの身体に不具合が出るとか?でも、オレのせいで先生の命が危うくなるなら」
「いいえ。不具合が出るのは、身体ではありません。森羅。貴方の人生にです。正確に言うならもう多少の不具合は生じています」
「え?オレどこにも」
「火傷を負って以来、毎日塗っている軟膏があるでしょう?あれにも私の唾液がほんの少し入っているんです。そのせいで十年ぐらいは、寿命が伸びているはず。神々の身体を、それが唾液であっても土人形が取り込めば大きな変化を生みます」
「手を」と続けてスエンが言った。
 差し出すと「失礼」と言って唇を押し当ててくる。
「あっ」
 火傷を気遣って軽く握られているだけなので、スエンの大きな手の中で森羅の手がビクビクと動いてしまう。
 舌がチロリとうごめいた感触があった。
 スエンが唇を離すと、湿り気があった部分が元の肌の色になっている。
「今ので一週間は伸びたでしょうか」
 スエンが黒くなった舌を拭いながら言う。
「森羅の場合、火傷は全身に及んでいますから唾液で処置をしたら、倍以上寿命は伸びるはずです。あなたが百年も生きられないと言ったことが本当なら、おそらく二百歳を越えて生きるはず」
「それって、オレ的にはいいことなんじゃ?オレ、XPっていう病気でずっと病院暮らしだったんです」
 すると、スエンがとても長く息をついた。
「あなた、まるで分かってないですねえ」
 まさかそんな風に言われるとは思わなくて、「え?」と聞き返す声が甲高くなる。
「寿命が伸びることが全ていい結果に繋がりますか?病気で不自由だった日々を取り戻せたとして、最初の内はいいでしょう。でも、ゆくゆくは同族は死に絶え、気がつけば貴方一人。取り残される悲しさが想像できないのですか?」
 森羅は黙り込む。
 それって、先生の経験談なのかな、と思いながら。
 なんとなく頭の中にモヤがかかった気分だ。
「オレ、失踪しようか?クルヌギアにはいないって調査団の連中に言ってもらえれば」
「悪魔は原種の森に隠れているかもしれない。捜索させろという口実を与えることになるでしょうね」
 森羅はうなだれた。
「そうですね。少し考えれば分かることだ。ウトゥさんに言われた通り、自分のことが絡むとてんで駄目になる」
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