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第二章

46.きっと、私が貴方をこちらの世界に呼んでしまったんです

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「本当にオレ自身に価値はある?難病治療は莫大なお金がかかるから、看護師に税金泥棒って言われたこともあるんだよ?」
「さっき、言ったでしょう?貴方の存在自体が素晴らしいと」
 スエンは、再度、「貴方の名前の意味は?」と聞いてきた。
「無限の木々。そんな意味です」
と答えると、スエンはまだ雨でけぶっている洞窟の外を眺めた。
「まるでこの森のようですね。分け入っても分け入っても終わりがない」
「母親が付けてくれたそうです。―――顔、知らないけれど」
 気持ちが大波のように揺れた。
 確か、この感覚、前にも何度も。
 今回起こったのは、スエンがそのままの森羅の価値を認めてくれたからだ。
 芋づる式に記憶が蘇ってくる。
「先生。どうしよう。オレ、忘れていた色んなことを思い出した」
「話して。聞いていますから」
「病気が分かって病院に捨てられたみたいなんです。夜しか出歩けなかったから、夜勤の医師らに仲良くしてもらってました。兄みたいに慕っていて、憧れも、邪な気持ちだってありました。でも、オレ、影で、モ、モルモットって言われていた」
 シンラは口元を抑えながらなんとか言葉を発した。
 心の奥底にずっと埋まっていたのはこれだと直感的に分かった。
「実験動物って意味です。オレ、医療費が払えなかったから、いろんな治験に協力するしかなくて」
 何とか息を吐き出す。
「痛かったですねえ。ここが」
 スエンが森羅の胸を擦ってきた。
「ここも、そしてそこも、痛かったですねえ」
 今は黒くて判別が付かない赤黒かった手の甲や腕の関節のあたりも続けて擦ってくれた。
「病院でやれることは限られていたので、自然と本を読むようになりました。その流れで書くように。色んな小説コンクールに応募しました」
「小説?」
「わかりやすく言えば舞台の台本のような」
「戯曲?それは凄い」
「凄くないです。百作応募して百作落ちたから。でも、百一作目でオレの小説を本にしようって言ってくれた人がいて。でも、ボツになっちゃった」
 暖かなその手を掴んですがる。
「書籍化の話が消え、好きだった人には影でモルモット、自称作家大先生って笑われ……あれ、もう一つあったような気がするけれど。とにかくショックなことが立て続けに起きて、オレ、病院の柵を乗り越えて落ちちゃったみたい」
「自死を選んだということですか?」
「神が作りし土人形がそんなことしちゃ駄目だよね」
 すると、スエンが痛む腕を気にすること無く森羅を抱きしめてきた。
「きっと、私が貴方をこちらの世界に呼んでしまったんです。だから、自死ではありません」
「だったらいいなあ」
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