世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

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Main story

リセット

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 腰に掛かる負荷によって覚醒。しかし目は開けない。
 あれだ、どうせ羽那子はなこだ。分かってる。
 目の前で二度死んだ女。俺にその記憶はないが俺の幼馴染らしい。
 また時間が巻き戻ったのだ。そうに決まっている。
 一度目は伊千香いちかに包丁で刺されて。
 先ほどの二度目は伊千香の友達のみっちゃんとも揉み合いになって車に轢かれて。
 この女が死ねば、この時間に戻る。何故だかは知らないがそうなんだ。
 で、今回は美紀みきはいるのか?
 俺と里奈りなは付き合っているのか?
 それとも全く別な展開が待っているのか?
 正直もう、俺を取り巻く人間関係に対して真剣に向き合う気がなくなっている。
 何かの拍子にまた羽那子が死んで、この時間に戻って来るんだろ?
 もういいよ、何でも。好きにしてくれ。

「…………」

 俺が起きている事に気付いているのかいないのか。羽那子は何を言わずただ俺の上に跨っているだけ。
 ……パンツは履いているんだろうな?

「前回は不慮の事故死エンド。その前は妹の好感度マイナスによる刺殺エンド。
 はぁ……、なかなか上手く進められないものね」

 やはり羽那子は時間を越えて記憶が連続しているようだ。

「羽那子、お前も覚えているのか」

「……伊千郎いちろう、おはよ♪」

「おはようじゃないよ、お前が車に撥ねられたのを見てたんだぞ。心配させやがって」

「……何言ってんの?」

 誤魔化す気か? 誤魔化して何になる。
 俺にとっては目の前で起きた現実だ。あの衝撃的な光景を目の当たりにしてなかった事になど出来ん。

「伊千香に刺されて、車に轢かれて。お前も覚えてんだろ?」

 俺を見下ろす羽那子の目が、すっと細くなった。

「んー、バグ? 不具合? それともそういう系のストーリー?
 何て言うんだっけ、メタフィクション的発言?」

 メタ、フィクション?

「おーい、大丈夫かーいっくん」

 俺の頬を両手で掴んで左右に揺さぶる羽那子。俺は壊れている訳ではない、と思う。

「名付けが一緒だと前のプレイの記憶が引き継がれるって裏設定?
 そんなの聞いた事ないな……」

 一人で考え込むのは構わないが揺らすのを止めろ!

「今回は羽那子が町村まちむら民人たみとに振られて、それを伊千郎が幼馴染として慰める事で男女のお付き合いが始まるっていう回のはずなんだよ。
 ちゃんと羽那子の部屋に置いてある日記にそう書いてあるんだから。
 あれがないと自分がどういうキャラを演じればいいのか分からないからね、無数にストーリーが展開するVRSLGとはいえ恋が発展しないプレイはやる意味ないからさ。時間の無駄じゃん」

 ほーれ戻れ戻れと俺の頭を前後左右にぐわんぐわんと回す。
 頭が揺さぶられて気持ち悪い。羽那子が何を言っているのか理解出来ない。

「治った?」

「治ったのはお前だろうが、刺されても轢かれても元通りじゃないか!」

「んー、やっぱりおかしいな。記憶を引き継いでる。
 セーブデータの問題かな、一回リセットした方がいいのかも」

「ちょっと待て!」

「待たないよー、次は違う名前にしてプレイしてみるね。
 伊千郎って名前、気に入ってるんだけどなー」

 その声のすぐあと、目の前が真っ暗になり、俺の意識は下へ下へと吸い込まれるように沈み込んでいった。
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