奴隷に落ちた貴族令嬢 ~最強魔法戦士は戦わない スピンオフ② ~

まーくん

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山賊の襲撃

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マクベスさんが戻ってきたのは、配膳が全て終わって、傭兵の皆さんの大半が自分の席についた頃でした。

「おっ準備が出来ているな。
ハンナ、いつも悪いな。
助かってるよ。」

「お頭、お帰り。
今日はこの子に手伝ってもらったからねぇ。
早く終わったよ。」

「ミルク、手伝いご苦労さん。
これからもハンナを手伝ってやってくれ。」

「承知しました、お頭。」

それからマクベスさんは焚き火に向かって行き、少し高くなった上座に立って話し始めました。

「皆んな、今日はご苦労だった。
幾人かの犠牲は出たが、無事任務を果たすことが出来た。

ナーカの司令官からも褒美がたんまり出たぜ!

今日は戦勝会だ。存分に呑んで食ってくれ!

それと紹介しておく。
ミルクだ。
今日の戦利品だが、俺の身の回りの世話とハンナの手伝いをさせる。

間違っても手を出すんじゃねぇぞ!」

「お頭、他の女達はいつも通りでいいかい?」

「ユウリか。
おう、いつも通りお前に任せる。
しっかりと仕事をやらせるんだぞ。

お前ら、気にいった子がいても強引に手を出すんじゃねぇぞ。

ちゃんと口説いて了解をもらうんだぞ。

わかったな!」

「「「へい!!」」」

「よし、宴会の始まりだー。」

「「「おー!!」」」

この傭兵達はマクベスさんを頂点として、しっかり規律が取れているようです。

ここなら安心して暮らしていけそうです。

こんな環境でも楽観している自分に少し驚きながらも、なるようにしかならないと思うことにしました。



しばらく平和な日が続きました。

毎日お頭と寝屋を共にし、朝からハンナさんの手伝いをします。

最近はユウリさんから頼まれて、一緒に拐われてきた女の子達の教育係みたいなこともやっています。

始めは怖がっていた女の子達も、わたしがハンナさんと一緒に働いている姿を見て、少しずつ安心してきたようです。

ユウリさんからの仕事を精力的にこなしている子もちらほら出てきました。

口説かれて傭兵の方達と所帯を持った子も数人います。

掠奪され無理矢理始まったマクベスさんとの交わりは、やがて甘く甘美なものとなっていました。

幸せな日々でした。………






それは突然の出来事でした。

わたし達が暮らす旧砦を山賊が襲ってきたのです。

時はまだ夜半で、見張りの数人以外は夢の中にいる頃です。

砦に火をつけた山賊達は、混乱する傭兵達に次々と斬り付け殺していきます。

「ミルク、裏から逃げろ。
その扉を抜ければ裏に抜けられる。

地下道を抜けるとナーカ教国との国境に出るから、指揮官を頼れ!」

「マクベスさん、一緒に行きましょう!」

「バカなことを言うな。
俺が逃げてどうする!

皆んなを助けたら俺達も後を追うから、お前は先に行ってろ!!」

わたしは後ろ髪を引かれる思いで扉を開けて無我夢中で、地下道を走りました。

長く暗い通路を一生懸命走ります。

湿ったカビ臭いの中で胸に嫌なものが入ってきているような気持ち悪さがあります。
胸の奥が重くて立ち止まってしまいたくなりますが、頑張って走らないと、見えない何かに追い付かれそうで、それが怖かったのです。

どのくらい走ったでしょうか。

前方に仄かな灯りが見えます。

やっと辿り着いたそこには扉がありました。

灯りは扉の隙間から漏れていたものでした。

あの扉の向こうには何があるのか?
怖さと安堵が入り混じった複雑な気持ちが襲ってきます。

それでもあの人は言いました。
『この道はナーカに続いている。
俺もすぐに追いかける。』と。

だからわたしは勇気を絞って扉に手を掛け、そして押しました。


明るい光が差し込み視界を遮ります。

3呼吸ほどで目が慣れて、わたしはその光景に驚愕するのでした。

目の前には、わたし達を襲ったと思われる山賊達と一緒にラムスさんがいたのです。

「おや、これはこれはミルクさんじゃありませんか。

あなたが1人でここに来たと言うことは、マクベスは死んでしまったということですかね。

まぁどちらにしても、あなたにはここで『慰みもの』になってもらうのには変わりないんですけどね。」

えっどういうこと?

「ラムスさん、これはどういうことですか?

マクベスさんの腹心であったあなたがこんなところにいるなんて………」

そこまで言って、わたしは全てを悟ったのです。

「あなたの思っている通りですよ、ミルクさん。

彼等はわたしが手引きしました。

わたしはここでマクベスを討つべく待っていたのですよ。

ふふふふふ、マクベスを自らの手で討てなかったのは残念ですが、まぁしようがないですね。

あなたという戦利品があっただけ良しとしますか。」

わたしは目の前が真っ暗になり、その場で蹲ってしまったのです。


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