100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~

まーくん

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エピローグ

やがて……

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中の世界は外の世界の80分の1くらいの時間で動いている。

だから中の世界の1年は外の世界で80年に相当するのだ。

それでも中の世界だって時間は過ぎていく。

ムーン大陸に前の世界を転移させてから早いもので50年の月日が経った。

俺は62歳、イリヤは64歳になった。

既にフランシス王子とオハルさんは他界している。

ハリス王子とセリーヌさんも既に逝ってしまった。

残っているのは俺達3人とクルステさん、シルベスタさん、そしてオシンさん。

シルベスタさんとミーアは長命の魔人だから残っているのは当然だな。

クルステさんも魔人の血が混じっているらしくてまだ容姿は若い。

オシンさんはといえば……まだまだ元気なお婆さんだな。

イリヤも頭は真っ白になっているが、相変わらず可愛い奴だ。

高貴な血は歳を重ねるほどに味わいが出るということか。

今日も一日イリヤとこたつで湯呑みを片手にたわいもない昔話ばかり。

家のことはマリヤが全て仕切ってくれているし、外の世界の観察はレーサの担当。

災害が発生した場合には、デニスとシルベスタさんの出番になる。

女神様役は結構前からミーアの担当になっている。

だってオシンさん歳を取って女神様というよりは、魔法使いのお婆さんみたいになっているからね。

ミーアが昔のオシンさんの姿に変身してお告げを出すようになったんだ。

今日もレーサは観察室で外の世界を観察中。

いつも帰って来てから、その日一日に見たことを話してくれるのが家族の日課となっている。





今日は朝から天気が良い。

冬晴れって言うんだっけ。

最近寒い日が続いていたんだけど、今日は春のように日差しが暖かい。

久しぶりにイリヤと縁側に出てお茶を飲んでいる。

「お父様、お母様、そろそろ冷えてくる時間ですから、中に入られては如何ですか?」

「そうだな、イリヤ中に入ろうか。」

イリヤからの返事が返って来ない。

最近イリヤも耳が遠くなったみたいで、そういうことが増えた。

「イリヤ。」

イリヤの肩を軽く揺する。

するとイリヤの湯呑みが、組んだ手から転げ落ちた。

それと同時にイリヤの身体が大きく傾く。

「お母様!」「イリヤ…」

いつか来るのはわかっていたんだ。

イリヤの傾いた身体を縁側に横たえ、そのまま抱き抱えて寝室に連れて行く。

マリヤの嗚咽が聞こえる中、ベッドに横たえたイリヤは幸せそうな顔をしたまま眠っているようだった。

「イリヤー!イリヤ?イリヤ?」

マリヤから連絡を受けて急いで戻って来たミーアはイリヤの死が受け入れられないようだ。

ミーアは魔人。平均800年生きると言う。

未だ平均寿命の半分くらいのミーアにとって、50年以上一緒に過ごしたイリヤの死は受け入れられなくても仕方ないだろう。

イリヤの傍らで泣き続けるミーア。

マリヤとレーサはイリヤの死を予感していたのだろう。

泣き崩れはしたものの現実として受け入れている。


「そうだヒロシ。ヒロシの時空魔法でイリヤを生き返らせようよ。

また若い姿に戻って、3人でピクニックに行こうよ!ねえヒロシ、ヒロシったら!」

俺は黙って首を横に振る。

確かに時空魔法を使えば俺達の時間だけ戻せるだろう。

でも、安らかに人生を終えたイリヤがそれを望むのだろうか?

いや、俺なら望まないな。

俺に抱きついて両手で胸を叩くミーア。

その顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。

「ミーア、イリヤはそんなこと望まないよ。

笑って送ってあげようね。」

ミーアもわかっているんだろう。

それ以上は何も言わずにイリヤの手を何時間も握り続けていた。

翌日イリヤのお葬式をした。

参列する人も数少ないが、イリヤは満足してあの世へと旅立つことが出来たと思う。


あの日以来、お告げ役はリーサが兼任することとなった。

お告げ自体がほとんどいらないので名目上だけだけど。

ミーアは常に俺の横にいる。

俺がイリヤみたいに居なくなることが怖いのだろう。

俺のお茶飲み友達はミーアになった。

話しの内容に合わせて、若い頃のミーアであったり、猫のタマだったりといろいろな姿になってくれるから退屈することは無い。

ミーアと昔話をする時、イリヤとの思い出が必ずと言っていいほど出てくる。

それほどイリヤとミーアと3人で過ごした時間が長いということだな。

必然的に俺とイリヤが出会った時のことや俺とミーアが迷い込んだマイロで荒廃したムーン大陸のこと、今の世界に来て俺がいなかった3年間のことなど、これまでの時間が蘇ってくるようだ。

こんな時間が永遠に続けばと思うのだが、その時は刻一刻と迫っていることに俺達は気付いていなかった。




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