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第3章 国際連合は活躍する

12【タカツー領を救え】

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<<タカツー領主ハイツ・タカツー視点>>
タカツー領は、周りを1000メートル級の山脈に囲まれた、天険の地だ。

昔、キンコー王国が、魔族から急襲を受け王都を追われた時に、タカツーの地に立てこもり、再起を果たしたとの逸話もある。

高い山脈のせいで、他領との交流が少ない分、古き良き伝統が息づき、自給自足の文化が根付いている。

ただ飢饉や災害に見舞われた場合、他領から支援が期待できない。

実は、昨年酷い冷害に見舞われ、備蓄の食糧を全て放出した。
幸い、今年は豊作が予想されるので、問題無いと思うが、万が一ということもある。

なんらかの対策が必要であった。


昨日、領主会議で物流事業なるものの提案が出された。
事業自体は奇抜なアイデアだが、良く考えられており、文句の付けようも無かった。

各領地に物流センターというものを設置し、物の流れを活発にしたいという。
それぞれの領地に持ち帰り、設置の是非を決めて欲しいとのことであった。

このタカツーの地も物流網にはいれたら、もっと繁栄することだろうが、この天険を越えて、そんなことができるのだろうか。

皆が悩むこの事案に対し、ターバ伯爵は会議の場で即決だった。
あの慎重ではあるが、民のことを優先し新しい試みをどんどん試してものにしていくターバ伯爵が即決するとは。
議案の発起人がナーラ大公爵であることも含め、現実味のある話なんだろう。

上手くいけば、積年の危惧が解消される。

疑問を残しながらも、その成果に一縷の期待を持って数日後、物流センターの設置を要請した。



1月後、いきなり巨大な建物が建った。
つい3日程前に、場所を明け渡したばかりだ。

サポートさせていた代官に聞いてみると、1時間程でこの状態になったらしい。

マサル殿の魔法だそうだ。

谷底が行く手を遮っていた場所には立派な橋がかかっている。

巌壁で登るのが困難だった岩肌には馬車が対向出来る程の緩やかな街道が出来ている。

全て、マサル殿の魔法だそうだ。

彼には、固い岩盤の位置や地下水の出てくる場所もわかるらしく、それらを上手く避けて工事中の事故も無かったらしい。

あっという間にインフラを完成させたマサル殿は、代官と調整しながら、従業員の募集・採用に掛かっている。

優秀な人間を多くとられると困るのだが、彼は、引退した冒険者やスラムの住人を中心に採用しているようだ。

事務員として、しばらくは代官のところから人を派遣するみたいだが、いずれは従業員に教育を施し、自前に置き換える計画だそうだ。

王国からは公共事業および慈善事業の委託という名目で資金提供されているが、うまく人を使って効率的に陣容を整えている。

それから2週間後には、王都からの第1便となる様々な商品が市場を賑わせた。


全てが順調にいっていた時、悲劇は突然起きた。

初春、麦が実を蓄える重要な時期に突然イナゴの大群がやってきた。
何とか撃退したが、少なからず被害がでた。

しかし、悪いことは重なる。
数日にわたって季節外れの雹が降り、イナゴから残った貴重な麦を根こそぎダメにしてしまったのだ。

全領民が絶望し、全てを諦めかけた時、マサル殿が事前に手配していた大量の食料が物流センターに運び込まれたのだ。

彼はイナゴの発生を予測していたという。
冷害で食べるものが少なかった次の春はイナゴが発生しやすいらしい。

カトウ運輸の奇跡的な働きにより、タカツー領はこの危機を1人の餓死者を出すことなく、乗り切った。

以前ネクター王が酒席で彼のことを「女神マリス様の使徒」と言っていたが、今回の活躍は、それとしか思えないものであった。



<<マサル視点>>
領主会議の数日後、タカツー領から物流センター設置の要請がきた。

早速タカツー領に視察に行ったが、思った以上に険しい場所にある。
マリス様から頂いたタブレットを片手に、空を走りながら物流経路に最適なルートを導き出していく。

このタブレットは、この世界のあらゆることを検索できる。
もちろん、元の世界のことも。
しかも、俺にしか見えず、思っただけで検索できる優れものだ。

いくつか峻険な岩山や奈落のような谷がいくつかあるが、まあ、土魔法で何とかなるだろう。

タブレット上に映し出される航空写真の上にルートの線を引き、工事の目星をつけておいた。

タカツー城は、昔魔族との戦争からキンコー王国を守り切ったと言われる、由緒のある城らしい。
タブレットで検索するとその歴史は500年以上に遡る。

古くから閉ざされた街として独自の文化を持つタカツーの街に入り、街を散策しながらスラム等を見て回る。

他の地域に比べ人の移動が少ないため、スラム自体はそれほど大きくないが、経済もそれほど活発でないため、街で仕事にあぶれている人達を多く見かけた。

雇用面は問題ないなと思いつつ、タカツー城に入った。

城では、城主のハイツ様と代官のライター殿が出迎えてくれた。

ハイツ様から、現状タカツー領が置かれている状況について説明を受け、物流センターの稼働後の配送ルートについて質問を受けた。

俺は、紙とボールペンを取り出し、タブレットを見ながら、隣のナガーカ領との境からの航空地図を大まかに書き出し、そこに来る途中でタブレットに書き込んだルートを紙上の航空地図に書き込んだ。

もちろんタブレットは俺以外には見えない為、ハイツ様達は、俺がフリーハンドで適当に書いているように見えているに違いない。

「マサル様、これはナガーカ領からの地図でしょうか?」

「そうです、ライター殿。よく気付かれましたね。大体こんな感じで物流ルートを引こうと思うのですがいかがでしょうか?」

「マサル殿、ちょっとお待ちくださいね。 おい誰かスミス君を呼んでくれ。」

ライター殿がスミスという壮年の男性を呼んで、俺の書いた航空地図を見せた。

「いや、驚いた。これは、儂が長年かけて測量し書いた地図とそっくりだ。
どうしてこんなものが突然、すらすらと書けるのか?わけがわからん。

それとこのルート。これも儂の考えとほぼ一致している。うん、そうかここは、こっちのルートの方が高低差が少なくて良いか。
ただ、このらの谷を無いものとして考えればだが。」

「この辺の谷には大きな橋を架けようと思っています。吊り橋にしておけば、下からの吹上げにも柔軟に耐えられると思います。」

「なに、そんなことが技術的に可能なのか?」

「ちょっと魔法を使いますが、大丈夫だと思いますよ。」

「領主様、ライター様、彼の言うとおりであれば、これは充分実現可能な計画だと思いますぞ。
是非儂にも手伝わせて欲しい。」

「我領で一番の測量士で、この天険を知り尽くしたスミスがそこまでいうのであれば、何も言うまい。
マサル殿、その計画でお願いします。」

ハイツ様からGOサインをもらったので、俺は取り掛かることにした。

まず、スミス殿と山に入る。ルートの起点までは、俺がスミス殿を抱えて空中を走った。

「あううっ、マサル殿これはいったい。」

「口を開けない方がいいですよ。舌を噛んだら大変です。」

ルートの起点に着くと、俺は土魔法を使って道路を作り始める。

俺の立っている場所から真っ直ぐに幅5メートル程度で土が隆起し、5メートル程持ち上がる。

そこから一気に下に落ちた土は、砕石され綺麗に道路として固まる。

1回の魔法で1キロ程度は舗装可能だ。

もちろん、イメージした形になるので、カーブや坂道でも問題無い。

隣で驚くスミス殿を抱えて移動しながら、予定通りどんどん進めていく。

やがて、深い谷地帯に当たった。

俺はタブレットを使って「高速道路 吊り橋」で検索する。

元の世界の情報が検索され表示される。
その中で、比較的簡単な作りのものを選んだ。

流石にワイヤーはまずいので、付近にある蔓の中で特に耐久性に優れたものを魔法で集めて使用する。

イメージが固まったところで、魔法を使って一気に作り上げる。

ちゃんとメンテナンスできるように、作業通路を確保し、ロープを2重化しておく。

これで俺がいなくても、定期的にメンテナンスできるだろう。

老朽化して落ちたら危ないからね。

スミス殿は唖然としながらも、しっかりと橋の構造を確認していたから、任せても大丈夫だろう。


この調子で、ナガーカ領の街道の終点まで、工事は終了した。

以前、ナガーカ領の運搬ルートを構築した時に、途中まで作っておいて良かったよ。

王都からここまで、馬車で3日。
ここから、タカーツ領まで、おおよそ4日の行程になる。

今開発中のトラック馬車なら全行程を5日くらいに短縮できるだろう。


こうして、王都から、ナガーカ領経由でタカーツ領までの運搬ルートが完成した。

さてと、タカーツの街に戻って、物流センターを建てるかな。
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