みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第6部 俺が『最強』になった理由《ワケ》

エピローグ いつか再会する『その日』まで

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 ギラギラと照りつける太陽の中、ひぃこらっ!? 言いながら山のテッペン目指して石段を登っていく。



「ったく! なんでこんな所に作るかなぁ、もうっ!」



 ブツクサ文句を口にしつつ、ようやっと石段を登り終えた俺は、大きく息を吸い込んだ。

 バクバク高鳴る心臓を落ち着かせながら、前を向くと――そこには絶景が広がっていた。



「おぉ~っ! 相変わらず、ここは見晴らしがイイな」



 思わず感嘆かんたんの声をあげながら、俺は森実の町が一望できる丘の上で、上機嫌に笑った。

 サラサラと通り抜けていく風が、火照った肌に心地いい。

 それだけで、ここまで頑張って来た甲斐かいがあったというモノだ。



「さてっと。それじゃ、先輩に挨拶でもしに行きますかね」



 俺は手桶の中の水をちゃぷちゃぷ♪ 言わせながら、すぐ傍の墓地の方まで移動した。

 石で出来た大小さまざまな墓の横を通り抜けながら、目的の墓の前へと辿りつく。

 そのまま、持って来ていた手桶の中に突っ込んでいた柄杓ひしゃくで水をすくい、バシャッ! と乱暴に目の前の墓めがけてぶっかけた。



「おらっ! 起きろ、寅美先輩! 可愛い後輩が墓参りに来ましたよぉ~っと」



 何するんだべか、このカスッ!? と寅美先輩に怒られたような気がして、思わず笑ってしまう。

 俺はありったけの水を寅美先輩にぶっかけながら、持ってきていた線香に火をけた。



「ほい、これお土産。先輩の好きな『ヨーグル』。せいぜい【あの世】で自慢してくれ」



 線香とヨーグルをおそなえしながら、俺は懐から花丸INポイントノートを取り出した。



「とりあえず『水切り20回』と『二重跳び100回』はクリアしたから、ハンコ押しとくな?」



 そう言って俺は、ポケットの中に忍ばせていた【大変よくできました!】スタンプを、花丸INポイントノートに押していく。



「これで残りのお題は『無事に森実高校を卒業する』だけだな。いやぁ~、長かった。ここまで超長かった!」



 ワザとらしく苦笑を浮かべた、その瞬間。

 ざわっ! と、俺たちの間を突風が走り抜けた。

 風の妖精さんは、俺が持っていた花丸INポイントノートのページをパラパラとめくっていくと、そのままどこかへ消えていった。

 まったく、ここにスカートを穿いた女子校生が居ないのが、悔やまれるところだ。



「おっ? これは……」



 捲れたページに視線を落とすと、そこには寅美先輩の文字が、ビッシリと埋め尽くされていた。

 もう何度読み直したか分からない、俺にてた手紙だった。

 俺は少しだけ気恥ずかしくなりながら、もう1度だけ、先輩の手紙に目をわせた。





『拝啓 大神しろーくんへ

 むぅ……さっきまで一緒に居た人に手紙を書くのは、何だが変な感じです。

 約束どおり、シローくんにも手紙を書いてみました。

 多分、これもお兄ちゃんの手紙と同じでお蔵入りすると思うので、とりあえす好き勝手書こうと思います。

 正直に言って、しろーくんはロクデナシです。

 エッチだし、スケベだし、変態だし、やること為す事メチャクチャ過ぎます。

 フォローするこっちの身にもなってください!

 台風みたいに豪快で、かと思えば、しょーもないコトでメソメソして、ぶっちゃけ意味が分かりません。

 ……何だか、書いていたら腹が立ってきました。

 人の人生に土足で上がり込んで、勝手に心の中にどっかり居座って、何様のつもりですか?

 いいですか、これだけは言っておきますよ?



 ――好きです。



 大好きです。

 オイラは、しろーくんが大好きです。

 ヤンチャをする、しろーくんが好きです。

 悪巧みをする、しろーくんが好きです。

 人の心を幸せいっぱいにする、しろーくんの笑顔が、大好きです。

 オイラの人生を、カラフルにしてくれて、ありがとう。

 ……なんて言うと、しろーくんは絶対に調子に乗るので、口にはしませんよ?

 まぁもし、30歳までにしろーくんに彼女が居なかったら、そのときはオイラが結婚してあげますよ。しょうがないから。

 ……うん、コレは絶対に本人には渡せないな。

 お蔵入りに決定だわ。

 とりあえず、オイラがしろーくんの事が好きだという事を隠しつつ、書き直す方向で作り直そう。

 ただまぁ、しろーくんを調子に乗らせるのはどうかとは思うけど、しろーくんが読んだら幸せになれるような手紙にはしていこうとは思う。

 だってしろーくんは、お兄ちゃんと同じで、オイラの大切な人だから。

 誰よりも優しくて、誰よりも温かい、世界で1番大好きな人だから。

 だから。

 例えオイラが居なくなって、平気なように。

 オイラがいつか居なくなっても、歩けるように。

 想いを込めたラブレターを書こう。

 例えしろーくんの隣を歩くのが、オイラじゃなく、他の女の子になろうとも。

 しろーくんがくれた【この想い】だけは、本物だから』




 寅美先輩の書いた手紙を読み終え、俺は小さく笑みをこぼした。



「まったく、ほんと自分勝手な先輩だなぁ」



 言いたいことだけ言って、さっさと俺の目の前から居なくなるなんて……。

 ほんと先輩はズルい人だ。

 俺はまだ、返事のお手紙すら書いていないのに。



「まぁ、向こうに行ったら返事をすればいいや」



 俺がいつ死ぬかは分からないけど、まぁ手土産の思い出をたくさん作って、そっちに行くよ。

 それまで気長に待っていてくれ。



「……喧嘩狼か?」



 心の中で寅美先輩とお話していると、突如、背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには俺と同じく手桶を持ったガタイのいい20歳ごろの男が、驚いたように俺を見ていた。

 俺はそんな彼に「よっ!」と気安く片手で挨拶しながら、ニカッ! と笑みを深めた。



「久しぶり、龍見の兄貴。1年ぶりくらいかな?」
「去年の新人王決勝戦のとき以来だから、半年ぶりだな」



 そう言って、龍見の兄貴は俺の隣にやってくるなり、静かに花束を墓前ぼぜんに供えた。



「おいおい? プロボクサー様がこんな所で油を売ってても、よろしいので?」
「今日は特別だ。なんせ大事な妹の大切な日だからな」



 龍見の兄貴は、水を汲んだ柄杓ひしゃくで寅美先輩の墓前を濡らしながら。



「よくもまぁ、毎年毎年、忘れずに来るもんだ。他にやることないのか、喧嘩狼?」

「ナニ言ってんだよ兄貴。先輩の面倒を見るのは、後輩の務めだろうが」

「そりゃ、あんがとよ」



 兄貴はどこか嬉しそうに頬を緩ませつつ、線香に火を点けた。

 俺たちはしばし無言のまま、寅美先輩の墓前で手を合わせる。



「……聞いたぜ、喧嘩狼。おまえ、東京卍帝国って奴らに狙われているんだってな?」

「あらやだ、耳がお早いことで」

「ふんっ。これでも一時いっときは西日本を掌握した男だぞ? そういう情報は嫌でも入ってくるんだよ」



 兄貴は少しだけ考える素振りを見せたかと思うと、どこか心配そうな声音でこう言った。



「なぁ、喧嘩狼? もし――」
「大丈夫だよ、兄貴」
「えっ?」



 俺は兄貴の言葉を奪うように、カラっ! とした声音で断言してやった。



「俺のやるべき事は、今も昔も、変わらないから」
「……そっか」



 龍見の兄貴は、どこかほっとしたような表情で、小さく頷いた。

 これでいい。

 せっかく兄貴はの光を浴びる道を歩き始めたんだ。

 弟分の俺が、足を引っ張るワケにはいくめぇよ。



「さてっ! 兄妹水入らずのところを邪魔するワケにはいかねぇし、シロウ・オオカミはクールに去るぜ」

「あっ! ちょっと待て、喧嘩狼」



 寅美先輩たちに背を向け、その場をあとにしようとする俺。

 途端に龍見の兄貴が「あっ!」と声をあげた。



「うん? どったべ兄貴?」
「いや……そういえば、まだお礼を言ってなかったなと思ってさ」
「お礼?」



 兄貴は「あぁ」と大きく頷くと、夏の太陽にも負けないくらい、爽やかな笑顔で。



「ありがとな、喧嘩狼。妹の人生を、カラフルにしてくれて」



 俺は兄貴の言葉に返事をすることなく、ヒラヒラと手を振りながら「うっはっはっはっはっ!」と豪快に笑った。

 天国までとどろくように笑った。

 寅美先輩が『好きだ』と言ってくれた笑顔で笑った。

 そして俺は、今日も今日とて、彼女の好きだった笑顔で笑い続けるのだ。

 いつかまた彼女と再会する、その日まで。


【第6部 おわり】
おまけイラスト
古羊洋子 水着バカンス
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