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第7部 大乱闘スマッシュシスターズ
第1話 みんな、オラに現金を分けてくれ!
しおりを挟む夏休みが終わり、本格的に2学期が始まった9月の上旬。
いまだ窓の外ではカンカンに太陽がアスファルトを照らし続け、残暑などどこ吹く風と言わんばかりに、轟々と熱を上げ続ける。
それは我が森実高校でも同じことで、夏の休みの熱が冷め切らないうちに、俺たちを1番熱くするイベントが、目と鼻の先に迫っていた。
そう、森実高校体育祭だ。
1年生は最初の体育祭とだけあって戸惑った雰囲気が感じられたし、3年生は最後の体育祭なだけに優勝しようと必死に練習している。
みな10月の頭に開催される体育祭にむけて、粛々と準備を進めていた。
そんな中、我らが2年A組男子一同は、
「それじゃ2人3脚の参加枠……1000円からスタート!」
「1100円っ!」
「1500円」
「2000円!」
――女子と組む2人3脚の参加枠獲得のため、必死に競りを行っていた。
事の発端は、帰りのホームルームの時間。
誰がどの競技に出場するか、クラス全体で仲良く決めるよう! と決意した矢先に、アマゾンがポツリと溢した【ある一言】が原因だった。
『そういえば今年の2人3脚って、男女混合でやるんだよな』
瞬間、ほのぼのしていた2年A組の教室が、築地もビックリの競り会場へとトランスフォーム。
結果、今1番学校内で熱い空間へとシフトチェンジした。
「2500!」
「3000!」
「4000円っ!」
「4000円いただきやした! さぁさぁ、もうこれ以上はおらんかぁ?」
檀上に上がっている元気が声を上げると同時に、クラス中のカスどもが『我先に!』とばかりに、金額を吊り上げていく。
それはまさに、モテない不器用な男達による、魂の咆哮。
意地とプライドがぶつかり合う、信念の衝突。
……とでも言えばカッコいいのだろうが、実際は独り身の男達による、必死のアタックであった。
彼らは気づいていないのだ。
金額が吊り上げれば吊り上がるほど、場が盛り上がれば盛り上るほど、クラスの女子たちの視線が氷河期を向かていくことに。
おそらくきっと、コイツらは一生彼女が出来ないんだろうなぁ、と俺は人知れず確信した。
そう余裕がないから、彼女が出来ないだぞ、おまえら?
まったく、少しは俺を見習え。
俺は「ふっ」と口角を緩めながら、ゆっくりと手を挙げ、
「――1万だ、1万だそう」
刹那、ざわっ!? と教室が揺れた。
「くっ!? やはり来たか大神!」
「いきなり金額レートを大幅に引き上げるだなんて……コイツ本気だ! 本気で女の子と2人3脚する気だ!」
「あのマジッぷり……おれが女だったら全力でお断りしているぜ」
クラスメイトの男達が、驚愕の顔を浮かべながら小さく震え上がる。
心なしか蛇塚を筆頭に、女の子たちの視線が5度ほど下がった気がしたが、きっと気のせいだろう。
俺はその尊敬にも似た眼差しを一身に浴びながら、懐から財布を取り出す。
それと同時に元気が「さぁ、もうおらんか?」をクラス中を見渡した。
誰も声をあげないところを見るに、どうやら俺の勝ちのようだな。
内心ほくそ笑みながら、勝利のファンファーレとばかりに、元気の声に耳を傾ける。
「よっしゃ! 2人3脚の参加枠、1万円で相棒が落さ――」
「――1万5000円だ。1万5000円払おう」
「なっ!?」
財布から諭吉が1馬身リードしかけたその瞬間、俺の耳に飛び込んできたのは、信じられない言葉であった。
ば、バカな!?
たかだか2人3脚に参加するためだけに、1万5000円を賭けるバカが、この教室に存在していただと?
い、一体どこのどいつだ!?
親が泣くぞ!?
俺は静寂を切り裂く稲妻が如き声の主に、視線を向けた。
そこにはピシッ! と垂直に片手を挙げる、我が宿命のライバルが、大胆不敵に微笑んでいた。
そう、君の名は。
「あ、アマゾンっ! 貴様ぁ~っ!?」
「さぁ大神、闇のゲームを始めようじゃないか!」
不敵な笑みを浮かべるその男は、言うまでもないが言うまでもない男、三橋倫太郎、通称アマゾンその人であった。
この余裕の笑み……ま、まさか!?
コイツも俺と同じで、この勝負にお年玉を全額投資する気か!?
正気か、コイツ!?
ど、どうする俺?
風の噂で、アマゾンはこの夏、しこたまバイトに励んでいたと聞いている。
それはつまり、お年玉 + バイト代のダブルコンビネーションで、この勝負に挑んでくるという事っ!
クソッ、抜かった!?
勝てるのか?
俺の散財しまくった、この財布で?
今のアマゾンに?
「いくぞ大神! お年玉の貯蔵は充分か?」
「チッ、思い上がったな雑種……っ! 1万6000円っ!」
「甘いっ! ――2万!」
さらにレートを引き上げるアマゾン。
俺も負けじと3万円にレートを引き上げる。
が、すぐさま間髪入れずに4万に金額を跳ね上げさせるアマゾン。
どんどん高騰する金額に、クラス中のカスたちが慄き声を漏らす。
「す、すげぇ……どんどん金額が上がりやがる」
「あぁ、そこまでして女子と2人3脚がしたいとは……。かなり気持ち悪いな、あいつら」
「同じ男として、『あぁ』はなりたくないモノだな……」
男達の賞賛の声を浴びながら、俺はアマゾンにアイコンタクトを送る。
――ここは退け、アマゾン! 俺に任せろ!
――その言葉、そっくりそのままお返しするぜ大神!
バチバチッ! と、空間が歪みそうな視線と舌戦が交差する中、女の子との2人3脚の権利を獲得したのは、
「というわけで! 相棒が10万で、2人3脚の参加権利を獲得や。おめでとうさん!」
「ありがとう元気。ありがとう、みんな!」
壇上に上がり、我が親友と熱い抱擁を交わしながら、愛すべきクラスメイトたちを見渡す。
みな何故か冷めた眼つきで『ぱちぱち……』と、まばらな拍手で激戦を潜り抜けた俺をたたえた。
おいおい、なんだ?
そのやる気のない拍手は?
ツンデレか?
ならデレも見せてくれよ。
まぁいい。
俺は決意表明とばかりに、クラスメイトたちと向き合いながら、ハッキリした声音で勝利宣言しようと腹に力を入れた矢先、ガララッ! と教室の前のドアが乱暴に開かれた。
「どこの世界に体育祭の参加種目を競りで決めようとするクラスがあるんだ……。バカなのか、おまえらは?」
「ゲッ!? や、ヤマキ先生……」
「『ゲッ!?』とはなんだ。『ゲッ!?』とは?」
ドアの入口で、筋肉をこれでもかと膨張させた我らが生徒指導担当の教諭、ヤマキティーチャーが鋭い視線で俺を睨みながら、ズカズカと教室内へと入室してくる。
と同時に、みな【我関せず】とばかりに、サッ! と顔を伏せてしまう。
結果、自然とマッスルティーチャーヤマキと向き合う形になってしまう俺。
ふ、ふぇぇぇっ!?
こ、怖ぇよぉ!
おしょんしょん漏れそうだよぅ!?
と気持ちの悪い萌えキャラみたいなことを内心つぶやく俺のすぐ傍で、ヤマキ先生は小さくため息をこぼした。
「はぁ、まったく、おまえらは……。古羊が居なければ、まともにホームルームも出来んのか?」
そう言って、俺の隣りの席に視線を向ける筋肉教師。
そこには森実高校が誇る学校一の美人姉妹『双子姫』の姉、古羊芽衣の姿はなかった。
実は芽衣のヤツ、今日1日学校に来ていない。
担任の話だと、体調不良とのことらしい。
まあ季節の変わり目だし、体調を崩すのも仕方がないことなのかもしれないが……どういうわけか今日1日、何か物足りない気分にさせられた。
「いいか、学生が競りなんかするな! もう1度、最初からやり直せ。このバカどもが」
は~い、と生返事を返すクラスメイトたちを尻目に、俺は誰も居なくなった芽衣の机に、ずっと視線を這わすのであった。
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