みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第28話 バカの言葉は時として人を救う

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 ヤマキティーチャーからお借りしたチャリンコ『マジックミラー号』で、森実町内を爆走して1時間半。

 あたりはすっかり夜真っ盛りである。

 月の明かりだけを頼りに、俺はかつて芽衣たちと一緒に清掃活動をした、森実海浜公園へと足を伸ばしていた。

 ここまで来ておいてアレだが、さすがにここには居ないだろうなぁ。

 なんてことを考えていたら、あらビックリ!

 海に沈んでいく大和田ちゃんの身体を発☆見!



「おいおいおいっ!? 何やってんだ、アイツ!?」



 気がついたときには、マジックミラー号をその場に投げ捨て、彼女のもとまで全力疾走!

 そのまま寒空の中、『ドキッ! 男だらけの寒中水泳大会 ~ポロリはないよ?~』スタート。

 どうでもいいけど、ポロリ要員の自発的ポロリほど、むなしいモノはないよね。

 なんてことを考えながら、大和田ちゃんの身体と心をガッツリキャッチ!

 驚き目を見張る後輩をそのままに、彼女を小脇に抱えて、砂浜へと爆走。

 自分の身体をミニ四駆よろしく疾走させ「いっけぇ~! マグナーム!」と叫びながら、海水の中を突っ切る。

 これで大和田ちゃんが「負けるな! ソニーック!」と対抗してくれたら、なお最高だった。

 ケツワープ並みの中々の好タイムを叩き出しながら、砂浜へと無事帰還。

 途端に海水で濡れた体に冷えた風がびゅうびゅう! と、容赦なく叩きつけられる。

 ひぇ~っ!?

 寒いよぉ~っ!?

 その身体の芯まで冷たくするような夜風に、浮気がバレた人妻よろしくガクガク!? と身体を震わせながら、ゆっくり大和田ちゃんを浜辺へと下ろす。



「……パイセン、どうしてここに?」
「バカ野郎! ポロリ要員の自発的ポロリに、何の意味がある!?」
「いやマジで何の話してるし? 知らないし……」



 間違えた。

 言うべき言葉はコレじゃない。絶対にコレじゃない。

 寒すぎて、つい頭の中の妄想と現実が、デジクロスしたことを口走ってしまった。

 そんな俺を見て「あぁ、パイセンはやっぱりパイセンだな……」と、彼女の冷めた視線がさらに俺の心をこごえさせる。

 だ、誰か!?

 誰か俺の心と身体を温めてくれぇ!

 シロウはもう限界だよ!?



「うぅ~っ!? さ、寒いぃぃ~~っ!? この時期の海は、マジで洒落にならねぇよぉ……」

「……ならウチのことなんか、放っておけばよかったのに」

「はぁん? そんなこと出来るワケねぇだろうが! 可愛い後輩が入水自殺寸前だぞ? そりゃ脇目も振らずに助けに行くわ!」



 つぅか誰だって、そんな状況だったら助けに走るだろ、普通。

 なんて考えていると、大和田ちゃんは悲しげに目を伏せ「自殺なんて大げさだし……」と小さくつぶやいた。



「別に死のうと思ってたワケじゃないし。ただ何となく、フラフラしてたら、ココに来ちゃっただけだし……」

こわっ!? ねぇ、気づいてる? その思考回路、マジでヤバいぜ? マジで自殺1歩手前の思考回路じゃん……。別にあんなバカ親父にちょっと言われたくらいで、気にし過ぎだって」

「バカ親父……? ちょっと……?」



 突然。

 突然である。

 急にキッ! とキツく目を吊り上げた大和田ちゃんが、俺の体操服の襟首を力いっぱい握り締めると、鼓膜が破れそうなくらい、至近距離で怒鳴り散らしてきた。



「凄い人なんだよ!? パイセンなんかじゃ比べモノにならない位、すごい人なんだよ!?」



 そこまで言って「しまった!?」と目を見開く、大和田ちゃん。

 そのまま「ハハッ……」と、乾いた笑い声が砂浜へと転がり落ちるなり、力なく俺の襟首から手を離した。

 まるで今にも消えてしまいそうなくらい弱々しい彼女を、月明かりのみが照らしていく。

 そんな彼女に俺は、



「知るか。バカ親父は、バカ親父だ」



 と言ってやった。



「俺からしたら、何も知らねぇ、ただのバカ親父だ」

「何も知らないワケがない! あの人に知識で勝てる人なんかいない! ううん、知識だけじゃない。富も地位も名声も、なんでも持っているのよ、あの人は!」

「違う、そうじゃねぇ。そうじゃねぇんだよ、大和田ちゃん。大和田ちゃんは、何も分かってねぇよ」

「じゃあ、パイセンには何が分かるって言うし!?」



 今度こそ目を剥きながら、敵意全開で俺に噛みついてくる。

 自分で自分が抑えきれないのか、まるで激しい感情をそのまま嘔吐するかのように、俺に向かって吐き捨てる彼女。



「ウチがどれだけ【あの人たち】に認めて欲しくて、頑張ってきたか。家族の一員として認めて貰いたくて、甘えたいのも我慢して、強く生きてきたか! 何も知らないクセに、分かったようなことを言うんじゃないし!」

「…………」

「もがき続けてきたんだよ! でも、ダメだった。何をやっても、上手くできなかった。出来損ないで、落ちこぼれで、人の3倍努力して、ようやく人並みに届く程度の能力しかない。何も無い、何も無いんだよ、ウチには。何1つ無いんだよ!」



 ハァ、ハァ! と、肩で息をする大和田ちゃん。

 そんな彼女が落ちつくのを待ってから、俺は大和田ちゃんを見据えて言った。



「そんなことねぇよ」
「そんなことあるの! 自分のことは、自分が1番よく分かってるし」
「わかってねぇ。大和田ちゃんは何1つ、わかってねぇよ」
「何が分かってないって言うし!?」
「もっと俺のことを見ろ!」



 彼女の頬に手を添え、逃げることは許さない! とばかりに、まっすぐ射抜いた。



「大和田ちゃんのことを大切に思っている人間が、ここに居るんだよ! そのことに目を向けて、気づけバカ野郎! 何も無いなんて言うんじゃねぇ。大和田ちゃんは俺にはぇ、すげぇ素敵なモノを、たくさん持ってるだろうが!」

「ウチが……持ってるモノ?」



 それって……? と困惑する。

 ほんとうに気づいてなかったのか、この子は?

 内心ため息をこぼしながら、俺は鈍感プチデビル後輩に告げてやった。



「確かに大和田ちゃんは口は悪いし、ぶりっ子だし、先輩のことを下僕か何かとしか思ってないクソ女だけど」

「……このタイミングで喧嘩売る? 普通?」



 ジロリッ! と、めつける彼女を無視して、続ける。



「でも本当は寂しがり屋で、困っている人が居たら見過ごせず、偽悪ぎあくぶりながらも、思わず助けに行っちゃうくらい超お人好しで、誰よりも家族想いのいい子だ!」



 まるでどこかの虚乳生徒会長のように素直じゃないけれども、それでも彼女には、人をいつくしみ、愛そうとする温かい心があることを、俺は知っているんだ。

 だから。



「だから、自分には何も無いなんて、言わないでくれよ? 大和田ちゃんはもう、両手じゃ抱えきれない素敵なモノを、たくさん持ってるんだからさ」

「……大神、先輩」



 その瞬間だった。

 彼女のモノクロだった瞳に、色が芽生えたのは。

 その瞳には俺の何とも言えない顔と、満天の星空が綺麗に映っていて、まるでビー玉のように綺麗だと思った。

 雲一つない満天の星空の川の真ん中で、お月様が優しく俺たちを見守っていた。

 その優しげな光をもって、世界を包み込んでくれていた。

 波の規則正しい音だけが、俺たちの間に流れる。

 やがて、沈黙を貫いていた大和田ちゃんが、消え入りそうな小さな声で。



「ねえパイセン……。少しだけ、昔の話をしてもいい?」
「おっ? もしかして結構長くなる感じで? なんなら飲み物、買ってこようか?」
「ううん、大丈夫。このままの体勢でいいし。……聞いてくれる?」
「おうよ。先輩でよければ、いくらでもな」



 そう言って、大和田ちゃんはポツリ、ポツリと、自分のことを口にし始めた。
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