みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!

第29話 VS『最狂』

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「――満を持して、ワシ、参上! 言っておくが、今日のワシは最初から最後までクライマックスぜよ!」



 バシッ! とキメポーズを取りながら、今にも時間の壁を飛び越えんばかりの台詞を口にするガチホモタロス、もとい鷹野。

 鷹野は自分の倍以上はあるであろう、筋肉ノッポを見上げながら、唇を嬉しそうに、ニィ~♪ と歪めた。



「ほほぅ? 今宵のワシの相手は、お前さんかいな? こりゃ久々に楽しめそうぜよ!」

「そりゃよかった。……それにしても、おまえが本当にあの九頭竜高校の鷹野か? 予想の倍くらいチビなんだが……ニセモノとかじゃないよな?」

「むっ? 失敬なヤツやのぅ、おまえ。確かにワシはチビやが、ワシの股間に搭載とうさいされとるビック☆マグナム(自称)は、アンさんの2倍、いや3倍はある自信があるぜよ?」



 ふふんっ! と、勝気な笑みを浮かべて挑発(?)仕返す鷹野。

 だが、残念ながら言葉の節々から溢れ出るバカさが、それを帳消しにしてしまう。

 筋肉ノッポは不安そうにキジマーライオンの方に振り返り、



會長かいちょう。ほんとにコレが、あの『鷹野』なんですかい?」



 と確認を取り始める始末だ。

 うん、気持ちは分かる。

 けど、残念ながらホンモノなんだよなぁ、コレが。

 ホンモノのホモなんだよなぁ……。

 キジマーライオンは『間違いない!』とばかりに、大きく頷き、



「そのバカ丸出しの言動、間違いなか。ホンモノの鷹野翼ぜよ」

「そ、そうですか。……でも會長? いいんですか? 本当におれと鷹野がヤッても? 壊れても知りませんよ?」

「大丈夫や。そのときは、鷹野の器は『そこまで』やったって事ばい。ワテかて自分より弱い奴に興味なんか無かとよ」



 だから存分にやっちまえ! と、筋肉ノッポに激励を飛ばす、キジマーライオン。

 そんな2人のやりとりを聞きながら、鷹野が珍しく不満そうに頬を膨らませる。



「まったく、低く見られたモノやのぅ、ワシも。……このツケは大きいで?」
「そりゃ、楽しみ――だっ!」



 筋肉ノッポが大きく振りかぶり、鷹野の脳天めがけて拳を振りおろす。

 が、もちろんそんな大振りなんぞ、あの鷹野に当たるワケもなく、簡単に避けられてしまう。

 そのまま鷹野は、ガラ空きになった右わき腹のボディへと、強烈なスマッシュを叩きこんだ。

 うぉぉっ!?

 アレは痛いぞぉ~?

 ガードの上からだったけど、俺も1度喰らった事のある技だけに、その威力はお墨付きだ。

 こりゃ1発ノックアウト・ルートだな。

 俺が感心したように2人の動向を見守っていると、筋肉ノッポが俺の予想通り、グラッ! と体勢を崩した。

 ……のだが、予想外にも再び大きく腕を振り上げ、鷹野の身体へと拳を叩きつけようとして――って、なにぃ!?



「フンッ!」



 気合一閃とばかりに、再び鷹野へと迫る巨大な拳。

 鷹野はソレを顔面スレスレで躱しつつ、ババッ! とバックステップでノッポから距離を取った。

 その顔からは、驚きと歓喜が溢れ出ていた。



「おぉ~っ! 完璧に入ったと思ったんやが……。アンさん、想像以上にタフやのぅ。動きはトロいけどなぁ」

「それだけが取り柄だからな。それにしても、そのっこい身体のどこに『そんな力』があるんだが……やけに1撃が重いな。これがハードパンチャーってヤツか? 流石は九頭竜高校をたばねている男なだけある」



 2人とも間合いからしばし離れた場所で、お互いの現状を探り合う。

 ピリッ! とした緊張感がこの場を支配する中、大和田の兄上が『信じられない!?』とばかりに、目を大きく見開いていた。



「ま、まさか大神様以外で、タカさんのスマッシュを防ぐ人間が居たなんて……」

「いや俺はガードの上からだったから耐えられただけで、アイツはボディに直接喰らってるんだぜ? 耐久力でいえば、俺以上だよ」

「し、シロパイ以上って……お、お兄ちゃん! つ、翼さんは大丈夫なワケ!? か、勝てるよね? ねっ!?」



 大和田ちゃんが心配そうに声をあげた瞬間、それを合図とばかりに、鷹野とノッポが再び急接近。

 そのままお互いの制空権へと足を踏み入れ――筋肉ノッポの嵐のようなラッシュが、鷹野を襲った。



「つ、翼さんっ!?」



 悲鳴をあげる大和田ちゃんとは対照的に、兄者は「大丈夫ですよ」と、映画でも観ているかのように余裕を持って相方を見守っていた。

 そんな兄者の期待に応えるように、鷹野はノッポからの攻撃を紙一重で躱しつつ、スマッシュを右のわき腹へと深々に突き刺す。

 が、まるでダメージを喰らっていないかのように、ノッポの猛追は止まらないっ!



「ぜ、全然大丈夫じゃないし! 翼さんの攻撃が一切効いてないっぽいんだよ!? や、ヤバいっしょ、コレ!?」

「だから大丈夫ですよ、信菜さん。タカさんも伊達に九頭竜高校の頭を張っていませんから」
「えっ?」



 困惑した声をあげる大和田ちゃんと同時に、再びノッポの右わき腹へとスマッシュを繰り出す鷹野。

 息継ぎをする瞬間にスマッシュ。

 ラッシュの合間にスマッシュ。

 とにかくスマッシュ。

 スマッシュ、スマッシュ、スマッシュ!

 バカの1つ覚えのようにスマッシュ!



「――タカさんは天然のハードパンチャーですが、彼の長所はそこじゃない。タカさんが他の誰よりも優れているのは……その圧倒的なまでの『精密さ』です」
「せ、精密さ?」



 それってどういう……? と、大和田ちゃんが兄様に尋ねようとした矢先、その答えを提示するかのように、鷹野がもう何度目か分からないスマッシュを、筋肉ノッポの右わき腹へと突き刺した。





 ――その瞬間、ノッポは苦痛にこれでもかと顏を歪め、脇腹を押さえて膝から崩れ落ちた。





「えっ? えっ? な、何が起きたし!? さっきまで、あの筋肉ダルマ、ピンピンしてたのに!? な、なんで倒れてるワケ!?」

「ま、マジかよ、アイツ……っ!? そんなコト、人間が出来るのかよ……!?」
「どうやら大神様は気が付いたようですね」



 俺が驚愕の事実に気がつくと同時に、大和田ちゃんが「な、何が!? どういう事だし!? 説明してシロパイ!」と身体を揺さぶってきた。

 それは大和田ちゃんだけではなく、さっきから無言を貫いていた古羊姉妹からも、同じように「説明して!」という瞳が向けられる。

 いやぁ、ぶっちゃけ俺も、まだ信じられない光景を前に、上手く言葉に出来ないんだけどさ?

 簡単に説明すれば、



「あ、アイツ……1発目に入れたスマッシュと、寸分たがわず同じ場所に、何度もスマッシュを打ちこみやがった……」

「1発目に入れたスマッシュと同じ位置って……ハァッ!? えっ!? あ、あのラッシュの中で!? 寸分の狂いもなく!? マジなの、お兄ちゃん!?」

「えぇっ。コレがタカさんの最大の魅力の1つです」

「寸分の狂いもなく同じ場所に……なるほど。釘を打ちこむ原理と同じってコトですね。……ねぇ士狼? わたしがアレと同じことをヤレっと言ったら、出来ますか?」

「難しいだろうなぁ……。相手、動いてるし? そんな神業、承●郎さんのスター・プ●チナか、ウチの母ちゃんぐらいしか出来ないと思う」

「逆にソレが出来るハスキさんは、一体何者なのさ?」



 戦々恐々とした表情を浮かべる、爆乳わん

 きっと今の俺も、彼女と同じ顔を浮かべていたに違いない。

 目が良すぎるとか、そういう次元の話じゃない。

 な、なんだよ、アイツ?

 バケモノかよ?

 いやまぁ、俺のケツを狙ってくる時点で、ある意味バケモノには違いないんだけどさ。

 俺、よくあんなバケモノに勝つことが出来たなぁ……。

 昔の俺、すげぇ。

 と内心自画自賛していると、キジマーライオンが嬉しそうに両手を叩いた。



「コレばい、コレばい! この鷹野翼が見たかったばい! ふふふっ♪ 去年よりもさらに腕が上がって……あぁっ❤ もうワテのドキドキが止まらんばい!」

「う、うわぁ……。なんじゃ、アイツ? 男色ソッチの趣味でもあるんかいのぅ? 瞳がキモいわい。まったく、他人に自分の性癖を押し付けるんやないで、ほんと」



 トドメとばかりに、ノッポの顔面を蹴飛ばしながら、不愉快そうに顔を歪めるハードゲイ。

 おっとぉ? 今日の『おまえが言うな』スレは、ここかな?



「久々に楽しかったで? あんがとさん、筋肉ノッポ。さてッ! これで勝負は互角イーブンや! さぁ喧嘩狼、あとは任せ――はぁぁぁん♪」

「ど、どうしましたかタカさん!?」
「い、今、喧嘩狼がメチャクチャカッコいい顔してた……。アカン、カッコ良すぎて……イクッ❤」



 ――ビクビクビクビクンッ❤



 リング内でうつ伏せに倒れながら、お尻を微妙に上げ、小刻みに身体を痙攣させる鷹野。

 キジマーライオンと大和田の兄者以外、この場に居る全員が「うわぁ……」と顏を歪める。

 今、敵も味方も利害も越えて、みなの心が1つになった瞬間だった。



「あぁもう、タカさん? ほら、しっかりしてくだいさい? 立てますか? いや、そっちのつじゃなくて……」



 慌ててリング中央でうずくまる鷹野のもとへと駆け寄った大和田のあにあにが、ズルズルと引きずるように我らがハードゲイを強制ログアウトさせる。

 キジマーライオンは鷹野のビンビン♪ にそそり立っているエッフェル塔(自前)を満足そうに眺めながら、



「お茶目な鷹野も可愛いばい❤ こりゃ、ますます鷹野とヤりたくなってきたばい!」



 すげぇ、全部アッチの方の言葉にしか聞こえねぇ。

 何なの? 野郎どもの頂点に立つ男は、男色ホモ野郎じゃないとダメって決まりでもあるの?

 俺を含め、生徒会女性陣が全力でドン引きしていると、キジマーライオンが「よっしゃ!」と気合を込めて叫ぶなり、ゆっくりとリングの中へと身を滑らせた。



「これでお互い2勝2敗。次の大将戦で決着をつけるばい! さぁ赤毛の兄ちゃん! いや、喧嘩狼と言ったほうがよかね、この場合」




 ――さぁ、喧嘩狼! 今宵の祭りのフィナーレをかざろうやないか!




「来い!」と、暗にリングの中から挑発してくるキジマーライオン。

 その表情はどこか余裕というか、自信に満ち溢れたモノに俺には見えた。

 俺は「頑張ってね!」と声をかけてきたマイ☆エンジェルに頷き返しながら、ポケットの中に忍ばせていた単三電池を彼女に握らせ、そっと爆乳わん娘から離れ――ようとした矢先、



「き、気をつけろ、喧嘩狼……」



 古羊弟の弱々しい声が肌を撫でた。



「おっ! 起きたか、弟よ。ちょうど決闘もクライマックスだぞ。……って、何に気をつけろって?」

「あ、あの鬼島は『鬼神』の2つ名を持っている事でも有名な男だ。その実力はホンモノだ……だから、気をつけろ」

「あぁ、そういう……。大丈夫だぞ、弟。俺さ、実は『神殺し』っていうのに興味があったからさ、ちょうど良かったわ」

「い、いや、そんな能天気な……」



 さらに言葉を言いつのろうとする古羊弟を、実の姉である爆乳わんが「大丈夫だよ、ヨーくん」と柔らかい声でなだめにかかった。



「ししょーはすっごく強いんだから! ねっ? ししょー?」
「ハッハッハッ! その通りだ、我が弟子よ!」



 俺が勝つことを信じて疑わない可愛い天使に向かって、盛大に虚勢を張ってみせる。

 別に『最強』なんて称号には、コレっぽっちも興味はないし、何ならメ●カリで転売してもいいくらいだ。

 ただ、コイツの……コイツらの前だけでは『最強』で居ようと心に決めた。

 コキコキ♪ と首を鳴らしながら、一応簡単に準備体操のようなコトをしていると、「士狼!」と芽衣の鋭い声が、俺の鼓膜を震わせた。

 ん? と、我らが女神さまの方へ振り返ると、芽衣は真剣な面持ちのまま、真っ直ぐ俺だけを見据えて、



「昨日の駅前での借りを返してきなさい。もちろん全力全開で、利子をつけてね」
「へへっ……ガッテン承知の助!」



 シロパイ、きっちりケリをつけてくるっしょ! と、下手くそなシャドーボクシングを披露する大和田ちゃんと芽衣に向かって、グッ! 親指を突き立てて見せる。

 任せてとけ! と心の中で大見得を切りながら、俺はゆったりとした動きで、リングの中へと足を踏み入れた。
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