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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!
第30話 VS『最強』
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鬼島真人は高揚していた。
今夜、長年の悲願である鷹野との再戦を叶えることが出来ることに。
彼の細胞という細胞が、自分でもハッキリ分かるくらい興奮していることに。
これから大神士狼とバチバチに戦り合うというのに、彼の意識はもう次の、鷹野との再戦にのみ向いていた。
ソレを肌で感じ取ったのだろう。
リングの中へ足を踏み入れた士狼は、不愉快そうな顔を隠すことなく、
「ん~? 意識されたらされたでメンドくせーけど、されないならされないで凄ぇムカつくな。なんだよ? さっきから鷹野の方ばかりに気を向けて? もう俺に勝ったつもりかよ、キジマーライオンさんよぉ?」
「おっとぉ。スマン、スマン」
いつもの剽軽な笑みを浮かべながら、謝罪の言葉を口にする鬼島。
だが心はすでココにはなく、その向こう側……鷹野との再戦に意識が割かれていた。
確かに喧嘩狼と駅前で手合せしたときは「強い」と感じた。
が、それだけだ。
大和田信愛のように不気味な『何か』を感じる事もなければ、鷹野翼のように『圧倒的』に強いと感じる事もない。
ぶっちゃけ、今の自分の脅威ではない。
(まぁ蹴り技には警戒せにゃならんが、ソレだけばい)
噂に聞いた『悪魔の右足』は、確かに人並み以上の威力はあった。
だが『人外』という程ではない。
所詮は噂、誇張されて伝わったに過ぎない。
これなら【猫脚】の方が、はるかに実力が上だろう。
おそらく【猫脚】と【悪童】が負けたのも、何か不運が重なったせいに違いない。
鬼島は1人そう納得しながら、再び喧嘩狼に視線を這わせる。
喧嘩狼、西日本最強の男……それもきっと誇張された表現に違いない。
鬼島には、どうも目の前の男が、あの鷹野翼より強いとは到底思えないのだ。
それは再びこうして相対したことで、さらに確信した。
なんせ目の前の男からは、強者の覇気のようなモノがまったく感じられない。
今も『気合さえあれば【領域】くらい展開できる!』と本気で信じていそうな純朴そうな顔つきを前に、なんだかコチラの戦闘意欲が削がれていく気さえしてくる。
とにもかくにも、さっさと終わらせて、次の鷹野との決闘のために体力を温存させておこう。
鬼島は拳をゆっくりと握りしめながら、脳内で簡単にシミュレーションしてみる。
まずは開始と同時に脚力を爆発させ、喧嘩狼に急接近。
その突進力のエネルギーと共に、最大火力のアッパー気味の拳を奴の腹部に叩きこむ。
そして膝が折れた所で顔面に蹴り抜いてやれば、全てが終わる。
(……よし、問題なか)
鬼島は脳内で、何度も開幕速攻の右アッパーを士狼の腹部へと叩きつけるイメージを確立させる。
その度に、鬼島の脳内で士狼が苦悶の表情を浮かべて、膝をつく。
喧嘩狼の底は、もう把握している。
把握したうえで、今の自分が奴に負ける可能性は、ほぼ無いと確信する。
「ほな、第5回戦を始めよか。喧嘩狼ぃ~? 準備は大丈夫だべ?」
「おう、問題ねぇよ。いつでもいいぞぉ」
「ほぉか、ほぉか! それは良かったっ! ……さて喧嘩狼よ、キサンは『正しい狼の倒し方』を知っとるばい?」
「正しい狼の倒し方? いや知らねぇけど、猟銃とかで1発みたいな?」
「いやいや、まさかぁ~っ!」
鬼島はケラケラ笑いながら、ニンマリと笑みを深めて、こう言った。
「正しい狼の倒し方……それはのぅ――ッ!」
鬼島は自分の言葉が言い終わる前に、身体を加速させる。
全身の筋肉を躍動させ、目にも止まらぬ速さで、あっさりと士狼の制空権を侵略する。
「し、シロパイッ!?」と、どこかの誰かが驚きに声を上げているのが聞こえたが、鬼島の身体は、拳はもう止まらない。
「お腹を裂いて、石を詰めるんや! そしたら、その重さで井戸にボッチャーンばい!」
完全に不意をついたその一撃は、まっすぐ士狼の腹部へと綺麗に伸びていき、
――瞬間、鬼島の世界が暗転した。
次に目を覚ました時には、天と地が入れ替わり、背後には何故かリングを囲っているロープがギシギシと音を立てていた。
「……はっ?」
自分の身に何が起きたのか分からず、間の抜けた声を上げてしまう鬼島。
な、なんだ?
何が起きた?
なんでワテは、こんな所でロープを背負っとるんや?
なんで喧嘩狼があんな遠くで佇んでいるんや?
なんで? なんで? なんで?
鬼島の頭に一杯の疑問符が浮かぶ。
そんなとき、リングの脇で観戦していた鬼人會の1人が、困惑したように小さく呟いた。
「な、なんだよ、今の蹴り……。全然見えなかったぞ?」
蹴り?
つまりワテは蹴り飛ばされたんか?
いつ?
ついさっきか?
自分が蹴り飛ばされたと認識した瞬間、
――ズキンッ!
「~~~ッ!? 痛ぅっ!?」
遅れて鬼島の顔面に鈍痛が走った。
「ブハッ!? い、イテェ……っ!? な、何が起きたんや一体!?」
とにかく立たなければ!
鬼島は残っていた闘争本能を刺激し、なんとか気合で立ち上がってみせる。
が、誰もがソレが虚勢であることに気がついた。
鬼島の足は、見ているコチラが心配になってくるほど、小刻みに痙攣しており、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「おぉ~っ! あの蹴りを喰らって、まだ立っていられるとは! 伊達に【鬼人會】とやらの頭は張ってないようやのぅ」
感心したように鷹野が呟くが、今の鬼島はそれどころではない。
鷹野との再戦?
バカか!?
鬼島はつい数秒前まで浮かれていた自分を、ぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。
全身の細胞が粟立つ。
本能が理解する。
――目の前に居る男は、紛れもなく『最強』の生き物だ、と。
出し惜しみしていたら、こちらが喰われる!?
ヤラれる前にヤラなきゃ……殺される!?
そう理解した瞬間、鬼島は雄叫びを上げながら、再び士狼の方へと駆けだしていた。
「~~~~~~っ!」
もはや声にはならない声を上げながら、再び拳を士狼の顔へと振り抜く鬼島。
その一撃は槍のように鋭く、誰もが「入った!」と確信する一撃であった。
が、そこにはもう既に士狼の顔はなく、ブォンッ! と、鬼島の拳だけが盛大に空を切るだけ。
全身を躍動させた一撃が空を切り、一瞬だけ身体が硬直する鬼島。
それでも瞳だけは燦々と輝きを放ちながら、消えた士狼の行方を追っていた。
(どこや!? どこへ消えたべ!?)
ギョロギョロと忙しなく瞳を動かし……居た。
見つけた。
そして後悔した。
見つけなければ良かった、と
士狼はその場で落下するように身を落としながら、器用に空中で身体を捻り、大鎌のように右足を回転させ、鬼島のコメカミめがけて空中後ろ回し蹴りを放とうとしていた。
それはさながら、大きく口を開いた狼が獲物を捕食するかのような、鋭い一撃。
まるで「今宵の獲物はおまえだ」と言われているような気がして、鬼島はゾクリッ!? と背筋を震わせた。
迫りくる牙と化した士狼の後ろ回し蹴りを前に、鬼島は僅かに残った理性で、自嘲気味に笑った。
(何が『底が見えた』ばい……。底、どこにあるねん、コイツ?)
思わず過去に士狼に向かって得意げに言い放った言葉が脳裏を蘇り、吹き出しそうになる。
昨日の駅前での攻防は、全力ではなかったのだ。
それを自分は「底が見えた」と勘違いして……なんとも滑稽ではないか。
ワテはピエロか? と自分自身でツッコミを入れる隙間に、士狼の空中後ろ回し蹴りが、鬼島のコメカミに炸裂した。
そこから先は、スローモーションでも見ているかのように、時間がゆっくりと進んだ。
投げ捨てられた人形のように、彼方へ吹き飛ばされていく鬼島。
そのままロープに背を預け、ギリギリの所でダウンを免れる。
肺に入っていた空気は、ほぼ強制的に外へ吐き出され、息が苦しい。
「なるほどなぁ。『正しい狼の倒し方』ねぇ……勉強になったわ。それじゃ、お礼に俺からも1つだけ豆知識を。……その罠に掛かった狼が助かる為には、どうすればいいか知ってるか?」
鬼島は滲む視界をそのままに、慌てて酸素を体に送り込もうと顔を上げ……絶望した。
そこには、紅い弾丸と化した1匹の獣が……狼が大きく右足を振りかぶって、自分に向かって上段回し蹴りを放つ体勢に入っていた。
「――罠を仕掛けたヤツを喰い殺すんだよ」
「~~~~っ!?」
もはや防衛本能のみで、ありったけの力をこめて顔を守るように腕を上げるが、
――ズガンッ!
という炸裂音と共に、再び数メートルほど吹き飛ばされてしまう。
確かにガードした。
ガードしたハズなのに、
「な、なんや、この威力は……? もうガード『する』『しない』の次元や無いやんけ……」
ダランッ! と完全に力が入らず、使いモノにならなくなった自分の腕をそのままに、泣きそうな声を上げてしまう鬼島。
その瞬間、鬼島の脳裏に『悪魔の右足』という言葉が踊り狂った。
なるほど、言い得て妙な噂である。
こんなモノ、人間の放つ蹴りじゃない。
「あぁ~、なるほどな。どおりで【猫脚】と【悪童】が負けるワケや」
こりゃ勝てんわ。
銀色の髪を風に靡かせながら、再び迫りくる獣の一撃を前に、覚悟を決める。
今度からは、もう少し利口に生きよう。
そう自分に言い聞かせながら、鬼島はスッ! と瞳を閉じた。
瞬間、狼の牙が神の身体を貫いた。
今夜、長年の悲願である鷹野との再戦を叶えることが出来ることに。
彼の細胞という細胞が、自分でもハッキリ分かるくらい興奮していることに。
これから大神士狼とバチバチに戦り合うというのに、彼の意識はもう次の、鷹野との再戦にのみ向いていた。
ソレを肌で感じ取ったのだろう。
リングの中へ足を踏み入れた士狼は、不愉快そうな顔を隠すことなく、
「ん~? 意識されたらされたでメンドくせーけど、されないならされないで凄ぇムカつくな。なんだよ? さっきから鷹野の方ばかりに気を向けて? もう俺に勝ったつもりかよ、キジマーライオンさんよぉ?」
「おっとぉ。スマン、スマン」
いつもの剽軽な笑みを浮かべながら、謝罪の言葉を口にする鬼島。
だが心はすでココにはなく、その向こう側……鷹野との再戦に意識が割かれていた。
確かに喧嘩狼と駅前で手合せしたときは「強い」と感じた。
が、それだけだ。
大和田信愛のように不気味な『何か』を感じる事もなければ、鷹野翼のように『圧倒的』に強いと感じる事もない。
ぶっちゃけ、今の自分の脅威ではない。
(まぁ蹴り技には警戒せにゃならんが、ソレだけばい)
噂に聞いた『悪魔の右足』は、確かに人並み以上の威力はあった。
だが『人外』という程ではない。
所詮は噂、誇張されて伝わったに過ぎない。
これなら【猫脚】の方が、はるかに実力が上だろう。
おそらく【猫脚】と【悪童】が負けたのも、何か不運が重なったせいに違いない。
鬼島は1人そう納得しながら、再び喧嘩狼に視線を這わせる。
喧嘩狼、西日本最強の男……それもきっと誇張された表現に違いない。
鬼島には、どうも目の前の男が、あの鷹野翼より強いとは到底思えないのだ。
それは再びこうして相対したことで、さらに確信した。
なんせ目の前の男からは、強者の覇気のようなモノがまったく感じられない。
今も『気合さえあれば【領域】くらい展開できる!』と本気で信じていそうな純朴そうな顔つきを前に、なんだかコチラの戦闘意欲が削がれていく気さえしてくる。
とにもかくにも、さっさと終わらせて、次の鷹野との決闘のために体力を温存させておこう。
鬼島は拳をゆっくりと握りしめながら、脳内で簡単にシミュレーションしてみる。
まずは開始と同時に脚力を爆発させ、喧嘩狼に急接近。
その突進力のエネルギーと共に、最大火力のアッパー気味の拳を奴の腹部に叩きこむ。
そして膝が折れた所で顔面に蹴り抜いてやれば、全てが終わる。
(……よし、問題なか)
鬼島は脳内で、何度も開幕速攻の右アッパーを士狼の腹部へと叩きつけるイメージを確立させる。
その度に、鬼島の脳内で士狼が苦悶の表情を浮かべて、膝をつく。
喧嘩狼の底は、もう把握している。
把握したうえで、今の自分が奴に負ける可能性は、ほぼ無いと確信する。
「ほな、第5回戦を始めよか。喧嘩狼ぃ~? 準備は大丈夫だべ?」
「おう、問題ねぇよ。いつでもいいぞぉ」
「ほぉか、ほぉか! それは良かったっ! ……さて喧嘩狼よ、キサンは『正しい狼の倒し方』を知っとるばい?」
「正しい狼の倒し方? いや知らねぇけど、猟銃とかで1発みたいな?」
「いやいや、まさかぁ~っ!」
鬼島はケラケラ笑いながら、ニンマリと笑みを深めて、こう言った。
「正しい狼の倒し方……それはのぅ――ッ!」
鬼島は自分の言葉が言い終わる前に、身体を加速させる。
全身の筋肉を躍動させ、目にも止まらぬ速さで、あっさりと士狼の制空権を侵略する。
「し、シロパイッ!?」と、どこかの誰かが驚きに声を上げているのが聞こえたが、鬼島の身体は、拳はもう止まらない。
「お腹を裂いて、石を詰めるんや! そしたら、その重さで井戸にボッチャーンばい!」
完全に不意をついたその一撃は、まっすぐ士狼の腹部へと綺麗に伸びていき、
――瞬間、鬼島の世界が暗転した。
次に目を覚ました時には、天と地が入れ替わり、背後には何故かリングを囲っているロープがギシギシと音を立てていた。
「……はっ?」
自分の身に何が起きたのか分からず、間の抜けた声を上げてしまう鬼島。
な、なんだ?
何が起きた?
なんでワテは、こんな所でロープを背負っとるんや?
なんで喧嘩狼があんな遠くで佇んでいるんや?
なんで? なんで? なんで?
鬼島の頭に一杯の疑問符が浮かぶ。
そんなとき、リングの脇で観戦していた鬼人會の1人が、困惑したように小さく呟いた。
「な、なんだよ、今の蹴り……。全然見えなかったぞ?」
蹴り?
つまりワテは蹴り飛ばされたんか?
いつ?
ついさっきか?
自分が蹴り飛ばされたと認識した瞬間、
――ズキンッ!
「~~~ッ!? 痛ぅっ!?」
遅れて鬼島の顔面に鈍痛が走った。
「ブハッ!? い、イテェ……っ!? な、何が起きたんや一体!?」
とにかく立たなければ!
鬼島は残っていた闘争本能を刺激し、なんとか気合で立ち上がってみせる。
が、誰もがソレが虚勢であることに気がついた。
鬼島の足は、見ているコチラが心配になってくるほど、小刻みに痙攣しており、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「おぉ~っ! あの蹴りを喰らって、まだ立っていられるとは! 伊達に【鬼人會】とやらの頭は張ってないようやのぅ」
感心したように鷹野が呟くが、今の鬼島はそれどころではない。
鷹野との再戦?
バカか!?
鬼島はつい数秒前まで浮かれていた自分を、ぶん殴ってやりたい衝動に駆られた。
全身の細胞が粟立つ。
本能が理解する。
――目の前に居る男は、紛れもなく『最強』の生き物だ、と。
出し惜しみしていたら、こちらが喰われる!?
ヤラれる前にヤラなきゃ……殺される!?
そう理解した瞬間、鬼島は雄叫びを上げながら、再び士狼の方へと駆けだしていた。
「~~~~~~っ!」
もはや声にはならない声を上げながら、再び拳を士狼の顔へと振り抜く鬼島。
その一撃は槍のように鋭く、誰もが「入った!」と確信する一撃であった。
が、そこにはもう既に士狼の顔はなく、ブォンッ! と、鬼島の拳だけが盛大に空を切るだけ。
全身を躍動させた一撃が空を切り、一瞬だけ身体が硬直する鬼島。
それでも瞳だけは燦々と輝きを放ちながら、消えた士狼の行方を追っていた。
(どこや!? どこへ消えたべ!?)
ギョロギョロと忙しなく瞳を動かし……居た。
見つけた。
そして後悔した。
見つけなければ良かった、と
士狼はその場で落下するように身を落としながら、器用に空中で身体を捻り、大鎌のように右足を回転させ、鬼島のコメカミめがけて空中後ろ回し蹴りを放とうとしていた。
それはさながら、大きく口を開いた狼が獲物を捕食するかのような、鋭い一撃。
まるで「今宵の獲物はおまえだ」と言われているような気がして、鬼島はゾクリッ!? と背筋を震わせた。
迫りくる牙と化した士狼の後ろ回し蹴りを前に、鬼島は僅かに残った理性で、自嘲気味に笑った。
(何が『底が見えた』ばい……。底、どこにあるねん、コイツ?)
思わず過去に士狼に向かって得意げに言い放った言葉が脳裏を蘇り、吹き出しそうになる。
昨日の駅前での攻防は、全力ではなかったのだ。
それを自分は「底が見えた」と勘違いして……なんとも滑稽ではないか。
ワテはピエロか? と自分自身でツッコミを入れる隙間に、士狼の空中後ろ回し蹴りが、鬼島のコメカミに炸裂した。
そこから先は、スローモーションでも見ているかのように、時間がゆっくりと進んだ。
投げ捨てられた人形のように、彼方へ吹き飛ばされていく鬼島。
そのままロープに背を預け、ギリギリの所でダウンを免れる。
肺に入っていた空気は、ほぼ強制的に外へ吐き出され、息が苦しい。
「なるほどなぁ。『正しい狼の倒し方』ねぇ……勉強になったわ。それじゃ、お礼に俺からも1つだけ豆知識を。……その罠に掛かった狼が助かる為には、どうすればいいか知ってるか?」
鬼島は滲む視界をそのままに、慌てて酸素を体に送り込もうと顔を上げ……絶望した。
そこには、紅い弾丸と化した1匹の獣が……狼が大きく右足を振りかぶって、自分に向かって上段回し蹴りを放つ体勢に入っていた。
「――罠を仕掛けたヤツを喰い殺すんだよ」
「~~~~っ!?」
もはや防衛本能のみで、ありったけの力をこめて顔を守るように腕を上げるが、
――ズガンッ!
という炸裂音と共に、再び数メートルほど吹き飛ばされてしまう。
確かにガードした。
ガードしたハズなのに、
「な、なんや、この威力は……? もうガード『する』『しない』の次元や無いやんけ……」
ダランッ! と完全に力が入らず、使いモノにならなくなった自分の腕をそのままに、泣きそうな声を上げてしまう鬼島。
その瞬間、鬼島の脳裏に『悪魔の右足』という言葉が踊り狂った。
なるほど、言い得て妙な噂である。
こんなモノ、人間の放つ蹴りじゃない。
「あぁ~、なるほどな。どおりで【猫脚】と【悪童】が負けるワケや」
こりゃ勝てんわ。
銀色の髪を風に靡かせながら、再び迫りくる獣の一撃を前に、覚悟を決める。
今度からは、もう少し利口に生きよう。
そう自分に言い聞かせながら、鬼島はスッ! と瞳を閉じた。
瞬間、狼の牙が神の身体を貫いた。
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