みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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真・最終部 みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

第20話 壊れてしまったディスタンス

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 とりあえず、臭くなっていた制服は洗濯機にブチ込み、代わりに夏服用の制服のズボンとお気に入りのスカジャンを代用して、家から飛び出す俺と大和田ちゃん。

 えっちらおっちら! と、森実高校を目指してクソ長い坂道を歩いていると、



「あっ! 遅いよ、2人とも! こっち、こっちぃ!」



 そう言って、森実高校の校門前で元気に手を振るのは、先日、俺がフッてしまった女の子、古羊洋子その人であった。

 今までと、いや今まで以上に同じ態度で接してくれる彼女の優しさに感謝しながら、俺は大和田ちゃんと一緒に駆け足で制服姿の彼女のもとへと歩み寄る。



「お~うっ。待たせたな、皆の衆ぅ~っ」
「ほんと待ったぞ、2号。キサマのせいで見たくもない現実を直視してしまったではないか!」



 そう言って、同じく制服に白衣というアンタッチャブルなで立ちをした、我らが正義のマッドサイエンティストこと宇佐美こころ氏が湿った視線を俺に寄越してきた。



「んだよパツキン、機嫌わりぃなぁ?」
「機嫌も悪くなるわい。キサマが遅れたせいで、ワガハイは延々とあの地獄をフラットに眺め続ける苦行を課せられたのじゃからな」



 パツキン改めウサミンは、俺たちから少し離れた場所でイチャコラ♪ 桃色空間を展開している1組のバカップルへと視線を移した。

 釣られて俺もソッチに意識を向けると、そこには我が偉大なる親友、猿野元気と、その彼女のである司馬葵ちゃんが、一目もはばからずイチャイチャイチャイチャ❤ しまくっていた。

 ……もうね、フラられたばかりの俺にあてつけてんのか? って逆ギレしたくなるくらい、あそこの空間だけアッチッチ!? なんだよね。

 ほんと、早くくたばんねぇかなぁ、元気アイツ

 あと寿命どれくらいだろ?



「はいはい、みなさん! お喋りはそこまでですよぉ!」
「ッ!?」



 パンパンッ! と、両手を叩きながら、透き通った声音で役員たちの鼓膜を優しく撫でると同時に、俺の身体がビクンッ! と反応する。

 今、1番聞きたい声のくせに、顔は合わせたくない……なんとも矛盾した気持ちが胸の奥から湧き上がってきて、身体が停止してしまう。

 それでも、この1年間の調教の成果か、自然とこの場に居た全員の視線が、声の主に……我らが女神さまの方へと注がれた。



「さてっ! 全員揃ったことですし、生徒会恒例、今年度最初の地域清掃ボランティアを始めましょうか」



 亜麻色の長い髪を風になびかせながら、軍手とビニール袋をスタンバイした芽衣が、全員に向かってニッコリ♪ と微笑んだ。

 その途端、風俗で童貞を捨てようとしている男子大学生並みに心臓が大きく跳ねた。

 芽衣はそんな俺を一瞬だけ視界に納める。

 ……が、すぐさま『いつも通り』の笑みを顔に張り付け、何事もなかったかのように喋り始める。

 それが、俺の心を強く締めつけた。

 気がつくと、アレだけたけっていた心臓の音が、一切聞こえなくなっていた。



「まずは今から全員分の軍手とゴミ袋を渡しますから、1列に並んでください」



 言われた通り横1列に並ぶ俺たち

 そんな俺たちに、芽衣は満足気に頷きながら、持って来ていた紙袋の中から1人1人に軍手とゴミ袋を手渡していく。



「はい、コレが大神くんの分ですよ。今日は頑張ってくださいね?」
「お、おう。ありがとう……」



 必要以上に猫を被った芽衣から、軍手とゴミ袋を渡される。

 今までと違って、余計な会話は何もしない。

 ただただ、業務連絡を淡々と行うだけ。

 それだけで「あぁ……もう元の関係には戻れないんだな」と俺に実感させるには充分で……余計に気分が落ち込んでくる。



「えっ? お、『大神くん』?」
「…………」



 芽衣の物言いに驚き、何度も俺と芽衣の顔を見返す、マイ☆エンジェル。

 その横で、ただ真っ直ぐ、俺の顔を覗き見る大和田ちゃん。

 正直2人にフォローを入れる気力を根こそぎ奪われた俺は、らしくもなく困ったような苦笑を浮かべるだけだった。

 なんとも情けない……。

 生まれてきて初めて自分の事が嫌いになりそうだ。



「全員軍手とゴミ袋はいき渡りましたね? では、今から今日の担当地域を発表していきますよぉ?」



 芽衣は少しおどけた様子で、俺たちを見据えながら、



「猿野くんと司馬さん、そして宇佐美さんは駅前周辺を。大神くんと大和田さんは、森実高校周辺を。わたしと洋子は、森実川の土手沿いを掃除していきます。時間はそうですねぇ……大体お昼前まで。12時前くらいには、再び校門前ココに集まってください。いいですか?」



 はぁ~いっ! と、俺以外の役員たちが元気よく返事をかえした。
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