囚われの姫はまだ自分の正体を知らない

織本紗綾(おりもとさや)

文字の大きさ
17 / 22
1.姫の章

16.知っていること

しおりを挟む

「知っている事を話してくれ、スピネル」

 ラピスは強い眼差しでスピネルを見ている。

 熊の胴体に狼の頭が三つもついているという魔物と石の力。それにこのピンクの子も……スピネルもルチルもこんな動物知らないと言うし、次から次へと…異世界は驚く事だらけで想像が追いつかない。

「魔物の事を知って伝説を調べていたんじゃないのか。お前と姫様だけで食い止めようとして」
「そんなんじゃねぇよ」

 鬼気迫る様子のラピスを、スピネルは一蹴。ラピスも負けじと言葉を返す。

「いまさら隠し事などしてる場合ではないだろう。どうせ」
「だからそんなんじゃねぇって言ってんだろ、このおたんこナスが」

 (おたんこナス……久しぶりに聞いた)

「人の話を聞け」

 私がおたんこナスに気を取られている間にスピネルはラピスを黙らせて、話し始める。

「成人を祝う舞踏会があったろ」

「あぁ、スピネルの帰ってきた日だね」

「そうだ。あの日、ロゼはイヤリングを落として深夜、一人で宝玉ほうぎょくの間に行ったらしい。暗い中、何とかイヤリングを見つけ帰ろうとすると、身に着けていたまもり石が壁の一部と反応を始め光りだして……引き寄せられるように近づいていって石をはめると、壁が裂けて地下に続く扉が出てきたそうだ」

「仕掛け扉だったのか……」

「あぁ……そこで兵士が現れて、その日はそれ以上先に進めなかったらしいが、ロゼの指示通りにしたら、確かにその通りの仕掛けで地下に通じる階段が出てきたからな。あれには驚いちまった」

「なるほどね。どうりであの忍びのスピネルが捕まった理由がわかったよ」

「でもなぜだ……まもり石の秘密なら継いだ者は聞かされているはずだ。本来、国王様から姫様に伝えられるべきで、隠したり、ましてやあばいて罰せられるような事ではないだろう」
「そうだな。あいつ……絶対誰にも見つかるなって言ってたけど、その理由は俺にもわからずじまいだ。囚えられるような事でもないし、お前らやロゼまでこんな事になるなんて……理由わけがわかんねぇよ」

「それだけ、何か重大な事が隠されてるんだ。五人の騎士と姫様を引き離し、姫様の命まで狙うほどのね」

「姫様の命……まさか」
「うん、流刑先で密かに暗殺する計画だったようだよ。誰の差し金かわからないけど……姫様が居なくなって喜ぶやからがいるらしい」
「そんな奴いねぇだろ。ロゼはこの国で唯一の跡取り、座を争うようなきょうだいもいねぇし、伯父伯母おじおばだって全員死んじまったじゃねぇか」

 (全員、死………!? )

 スピネルが何気なく言った一言に血の気が引いていく。間違いなく陰謀の匂い。

「絶対王政のこの国で、仮に後継がいなくても貴族が成り上がる事は不可能だ。石の力を持ち、尚且つ貴族としても有力で強権をふるえる者でないと……一人、思い当たるけど、それだって姫様と婚姻を結ぶ必要が………」

 うなるルチルはなぜかスピネルを見ていて。

「そんなわけないだろ。いくらスピネルがあの名門カーディー家の子息でも……それに姫様にはお立場がある。伯爵より低い階級の騎士と婚姻を結べるわけがない」
「まぁ、そうだよね。ごめんごめん、私ならともかく姫様がスピネルなんか選ぶはずないよね」
「なんかって何だよ。お前らケンカ売ってんのか」

 どこまでが本気の話で冗談なのか、私にわかるわけもなく、出発は明日にするから休むようにと部屋を出されてしまった。

 (まぁ……部外者だもんね……)

 湯人ゆのとのお姉さんに案内してもらってお風呂に入ることにした私は何となく込み上げる寂しさを、感じずにはいられない。

「おい、俺の仲間が魔物を見たんだが、よろいの軍人を丸呑みしちまったらしいぞ」
「あぁ、目を赤く光らせて魔物を探すんだってな」

 通り過ぎるたび聞こえてくる商人達の会話はどれも魔物の話ばかりで、皆の恐れが伝わってくる。

「あんなもんどうやって倒すんだい? 」
「大陸から爆弾でも買わねぇと無理だろうねえ」
「大丈夫さ、なんたってこの国には伝説の戦士達がいるんだからね。石持ちの中でも特に強いんだってさ」
「おまけにと~っても美しいんだろ? 」
「一度でいいから会ってみたいもんだねぇ~」

 脱衣所でも女性達が……さっきの男性達よりは楽しそうに話している。

「滑らないようにお気をつけください」
「ありがとうございます」
「ル~ルル~♪ 」

 魔物騒ぎのおかげで皆、腕に集まる視線がなくて気が楽だったけれど、言いようのないもやもやで、胸がいっぱいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』  学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。  その瞬間、私は全てを思い出した。  私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。  幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。  ーーなんて、ひとり納得していたら。  何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?  更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。  しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。  タイムリミットは1年間。  その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社畜系OLの主人公は、ある日終電を逃し、仕方なく徒歩で家に帰ることに。しかし、その際帰路を歩いていたはずが、謎の小道へと出てしまい、そのまま異世界へと迷い込んでしまう。  持ち前の適応力の高さからか、それとも社畜生活で思考能力が低下していたのか、いずれにせよあっという間に異世界生活へと慣れていた。そのうち家に帰れるかも、まあ帰れなかったら帰れなかったで、と楽観視しながらその日暮らしの冒険者生活を楽しむ彼女。  一番の楽しみは、おいしい異世界のご飯とお酒、それからイケメン冒険者仲間の話を聞くことだった。  年下のあざとい系先輩冒険者、頼れる兄貴分なエルフの剣士、口の悪いツンデレ薬師、女好きな元最強冒険者のギルド長、四人と恋愛フラグを立てたり折ったりしながら主人公は今日も異世界でご飯を食べる。 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】 【途中から各ルート・エンドに入ります。特に正解ルートはないので、自分の好みのキャラのルート・エンドを正規だと思ってもらって大丈夫です】

処理中です...