囚われの姫はまだ自分の正体を知らない

織本紗綾(おりもとさや)

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1.姫の章

19.使うな

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「姫様!! 姫様!! 」

 呼ばれる声で目が覚めた。

 少しずつ、目を開けると薄い緑色の空と、心配そうに覗き込むラピスとスピネルの顔。

 ぼんやりと……まだ目が霞んでいる。

「姫様、大丈夫ですか。どこか痛む所は」

 ゆっくり首を横に振る。

「ま…ものは……」
「もういない、大丈夫だ」
「水を飲めますか? 」

 頷くと、ラピスが体を起こしてくれた。

 身体が近づくと血の匂い……ラピスの服は赤く染まっている。

「血……怪我を…したの…? 」
「このくらい何でもありません」

 水を飲ませてもらって、だんだんと意識も戻ってきた。お礼を言って自力で座る。

 どのくらい…意識を失っていたのだろう……気づけば、いつの間にか日は高く昇っていて、先ほどまで住宅街だった場所は、瓦礫がれきの山と化していた。

「まるで戦場だな……」

 辺りを見渡し、スピネルがつぶやく。

 (この世界にも戦争があるんだ……)

 当たり前、と言ってしまうのは簡単だけれど、残酷で哀しい現実。人間が生きている世界に必ず戦争があるなら、地球にとっていらないのは人間じゃないか……そんな虚しさに心を落とす。

「そういえばルチルは……」
「心配すんな。あいつなら生き残った人を避難させてる。そろそろ軍も動き始めるだろ、俺等も行くぞ」
「でもルチルが戻るまで待ってないと……」
「この先で落ち合う予定だ。ほら、おぶってやるよ」
「いや、姫様は俺が連れて行く。どうぞこちらに」
「ありがとう……でも大丈夫」

 何かあった時、私をおぶっていてはすぐに動けない。この先まだ魔物が現れるかもしれない事を考えて何とか立ち上がる。

「無理すんな」
「また魔物が現れたら大変だから」

 そうして、私はラピスとスピネルと共に先を急いだ。



「それで…魔物はどうなったの? 」

 歩きながら、魔物の行方を聞いてみる。

「覚えていらっしゃいませんか」
「うん……」
「姫様が放たれた紅い光でなぜか魔物が燃え始めまして……苦しみながら消えていきました」
「そう……だったの……」
「あれが石の力……なのですね」

 どうやら、石の力を使って私が倒したらしい。

 (そんな事ができるならもっと早くしてくれたらよかったのに……)

 そうしたら三人ともひどい怪我を負う事なく、街の被害ももう少しマシだったはずだと思う。亡くなった人だって、いるかも知れないのに。

「石の力って……どうしたらちゃんと使えるんだろう……」
「姫様? いまさら何を…姫様はちゃんと石の力を使って魔物を」
「ねぇな、操る方法なんて」

 何も言わず前を歩いていたスピネルが急に会話に入ってくる。

 それも、ぴしゃりと子供を叱りつけるみたいに。

「やたらめったら使うもんじゃねぇ。それに魔物退治は俺等の仕事だ。もう二度と無理に石の力を使うな」
「そんな……でも」
「刀も使えないで魔物退治なんて無理だっつってんだよ! あんたは隠れていればいい」
「でもあんなの刀だけじゃどうにも」
「とにかく二度と危ない真似すんじゃねぇ、わかったか」

 何も、言い返せなかった。

「お前な、心配なのはわかるがその言い方は」
「もう一体来るぞ。行くぞラピス!! 」
「あぁ……姫様はあちらの影に」
「でも……」
「お任せください。姫様を御守りするのが私たちの使命。必ず、倒してまいります」

 ラピスはそう言うと、魔物の元へ駆けていく。

 姿を現した魔物はやはり三つの頭と巨大な胴体を持っていて、ルチルが欠けた今の状態で勝てるかはわからない。

 それでも……あそこまで言われてしまった私はただ隠れているしかなく、二人が戦うのを見ている事しか出来なかった。



 その後、ラピスとスピネルは激闘の末、二人だけであの魔物を倒した。

 スピネルによると紅く光っていたあの眼が弱点らしく、両端から刀で眼を突いていき、六つの眼を全て突き刺した所で燃えるように消滅したという。

 そして、無事にルチルとも合流できた私達は道なき道を進み、再び森の中へ入って、その夜は野営する事になった。

 野営、というのは聞き慣れない言葉だけれど、つまりは野宿という事だとルチルが説明してくれる。

 ルチルが火を起こし、ラピスが食事を用意して、その間にスピネルは手際よく寝床を整えていく。

「これ……ハンモック……? 」
「おっ、知ってんのか。これなら地面に寝転がるよりかは心地良いからな。寝心地は俺のお墨付きだ」

 さっき石の力を使うなと言った時の、険しいスピネルはどこにもいない。ニッと歯を見せて笑う、いつものスピネル。

 パチパチと、炎が揺れるのを見つめながらラピスが獲ってきてくれた魚を焼いて夕食にする。

「姫様、いかがですか? 」
「おいしいよ、ありがとう」

「おいラピス。こんな時は魚より肉だろ、肉。腹減ってんだよ、ボリュームが足りねぇじゃねぇか」
「無茶を言うな。魔物のせいか動物がいなかったんだ。小川で魚を釣ってくるのが精一杯だったんだぞ」

 相変わらず言い合う二人を眺めながら、不安が黒い雲のように湧き始めていた。
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