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第一話
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「那恵真、任せましたよ」
そう言い相棒の環鈴彦は宵闇の中、魔物に向かって駆け出して行った。それをただ見ているのがいつもの自分だった。
自分は腰を抜かした被害者の男性の前に立ち、護符を掲げて簡易的な結界を張る。球状に光が広がり、怪物の出す瘴気を断ち切る。
「もしかして、鶯機関の方ですか……?」
「そうです。危ないので動かないように」
後ろからの問いかけに答えながら、前方に目をやる。
道路沿いの街灯はスポットライトのように環と魔物を照らしていた。
魔物。俗にキメラと呼ばれるような、いくつもの動植物や虫が継ぎ接ぎになった醜い怪物。
何度見ても悍ましい。安全圏にいるというのに冷や汗が肌を伝い、息が荒くなる。
環は魔物相手に臆せず立ち回り、短剣を投擲しながら詰将棋のように魔物を追い詰める。
アスファルトに縫いつけられた魔物は、やがて金色の閃光の刃を以て胸部の核を破壊され塵となった。
完全に魔物が消えたのを確認すると、結界を解いて被害者の男性に振り向く。
「大丈夫でした……か」
「すごい、本当に鶯機関の人って強いんですね! 写真撮らせてもらっていいですか!」
男性は自分を無視して環のほうに夢中だった。それはそうだ、先程の戦いでは自分は何もしていないのだから。
「撮影不可です。早く家に帰ってください。我々も暇ではないので。……っ!」
湯船の中にいるような不快感の強い暑さの中で、身を刺すような寒気を感じる。魔物の気配だ。
すぐ近くにいると辺りを見回したときにはもう遅かった。
音もなく忍び寄ったクモ型の魔物はもう数メートルの位置まで迫り、次の瞬間にはその毒牙が――。
「逃げろ!」
どこからか男の声が聞こえる。しかしこの距離ではどうしようもない。
環が男性に覆いかぶさるようにして守ろうとした。自分は。自分は恐怖に身が竦んで何もできない。動けない。ただ、見ていることしか。
するとレーザーのような真紅の光が迸り、魔物を真っ二つに両断した。
魔物の塵の向こうにいたのは、流線型の小札を何枚も重ねた黒鉄の鎧だった。
「よか、った……。無事、か……」
鎧はその強固な印象とは裏腹に、心許ない安堵の声を漏らした。
「あなたは……」
誰なのかと問いかけようとする前に、鎧は地面に片膝をつき、ついには倒れ伏してしまった。
赤い光がその身を包んだかと思うと、鎧は消えて黒髪の男が姿を現した。
先に動いた環が注意深く辺りを警戒し、安全を確保する。
「誰ですか、この人は――」
自分を助けてくれた男に歩み寄る。
うつ伏せになっていたのを起こして様子を窺う。
気を失っているようだが、脈は正常だし呼吸も静かなものだ。
ところどころ破れた黒いシャツにデニムパンツ。近所のコンビニにでも行くような気軽な服装だ。
「ん?」
見ると、首から紐で何か提げている。小さな木の札だ。
――名前:クロ。電話番号:×××-××××-×××× 綾乃まで。
「連絡先……?」
この男はクロという名前らしい。
とりあえず、言うことがある。
「ありがとうございます、クロさん。助けていただいて」
クロは返事もせずに静かに眠っているだけだった。
そう言い相棒の環鈴彦は宵闇の中、魔物に向かって駆け出して行った。それをただ見ているのがいつもの自分だった。
自分は腰を抜かした被害者の男性の前に立ち、護符を掲げて簡易的な結界を張る。球状に光が広がり、怪物の出す瘴気を断ち切る。
「もしかして、鶯機関の方ですか……?」
「そうです。危ないので動かないように」
後ろからの問いかけに答えながら、前方に目をやる。
道路沿いの街灯はスポットライトのように環と魔物を照らしていた。
魔物。俗にキメラと呼ばれるような、いくつもの動植物や虫が継ぎ接ぎになった醜い怪物。
何度見ても悍ましい。安全圏にいるというのに冷や汗が肌を伝い、息が荒くなる。
環は魔物相手に臆せず立ち回り、短剣を投擲しながら詰将棋のように魔物を追い詰める。
アスファルトに縫いつけられた魔物は、やがて金色の閃光の刃を以て胸部の核を破壊され塵となった。
完全に魔物が消えたのを確認すると、結界を解いて被害者の男性に振り向く。
「大丈夫でした……か」
「すごい、本当に鶯機関の人って強いんですね! 写真撮らせてもらっていいですか!」
男性は自分を無視して環のほうに夢中だった。それはそうだ、先程の戦いでは自分は何もしていないのだから。
「撮影不可です。早く家に帰ってください。我々も暇ではないので。……っ!」
湯船の中にいるような不快感の強い暑さの中で、身を刺すような寒気を感じる。魔物の気配だ。
すぐ近くにいると辺りを見回したときにはもう遅かった。
音もなく忍び寄ったクモ型の魔物はもう数メートルの位置まで迫り、次の瞬間にはその毒牙が――。
「逃げろ!」
どこからか男の声が聞こえる。しかしこの距離ではどうしようもない。
環が男性に覆いかぶさるようにして守ろうとした。自分は。自分は恐怖に身が竦んで何もできない。動けない。ただ、見ていることしか。
するとレーザーのような真紅の光が迸り、魔物を真っ二つに両断した。
魔物の塵の向こうにいたのは、流線型の小札を何枚も重ねた黒鉄の鎧だった。
「よか、った……。無事、か……」
鎧はその強固な印象とは裏腹に、心許ない安堵の声を漏らした。
「あなたは……」
誰なのかと問いかけようとする前に、鎧は地面に片膝をつき、ついには倒れ伏してしまった。
赤い光がその身を包んだかと思うと、鎧は消えて黒髪の男が姿を現した。
先に動いた環が注意深く辺りを警戒し、安全を確保する。
「誰ですか、この人は――」
自分を助けてくれた男に歩み寄る。
うつ伏せになっていたのを起こして様子を窺う。
気を失っているようだが、脈は正常だし呼吸も静かなものだ。
ところどころ破れた黒いシャツにデニムパンツ。近所のコンビニにでも行くような気軽な服装だ。
「ん?」
見ると、首から紐で何か提げている。小さな木の札だ。
――名前:クロ。電話番号:×××-××××-×××× 綾乃まで。
「連絡先……?」
この男はクロという名前らしい。
とりあえず、言うことがある。
「ありがとうございます、クロさん。助けていただいて」
クロは返事もせずに静かに眠っているだけだった。
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