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第七話
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翌日。
六時半に起き、身支度をしてクロと朝食を食べていると紫水が起きてきた。
「今日は結界の様子を見に行くんでしょ? だったらお守りも作って配ってきなよ。クロくんの挨拶も兼ねてさ。朝の巡回は環くん一人で行ってもらって」
「確かに、お守りもあったほうがよさそうですね」
そう言ってまだシリアルを食べているクロを置いて、隣の八畳間に行く。押し入れから箱を取り出して卓袱台の上に置いた。
箱の中には葉書サイズの和紙と筆、朱色の墨汁が入っている。
それらを取り出し、手に持った筆で和紙に五芒星を書く。最初は上手く書けずに下敷きが必要だったが、数えきれないほど書いていると嫌でも体が覚えるというものだ。さっと均整の取れた赤い星がきらきらと光り輝いている。
「それが魔除けか?」
いつに間にか皿を片付けたクロが手元を覗きこんでいた。
「き、機関の術師は元を辿れば陰陽師ですので。晴明桔梗です」
驚きに声が上擦ってしまった。距離が近い。動揺に気取られぬように一枚、二枚とお守りを量産していく。
「これはいい魔除けだ」
ほめられてどきりとする。てっきり食にしか興味がないと思っていたので、自分に関心を持たれているとわかると照れくさくなってしまった。
「自分で言うのもなんですが、私は法力A級なんです。全国に百人もいないんですよ。物に念を込めれば強力なお守りや武器を作れるんです」
「その力で戦わないのか?」
「それ、は……」
クロの自然な問いかけに手が止まる。筆を置いて視線を落とした。
「私の家族は……、怪魔に食べられたんです」
思い出すだけで寒気がし、体が震える。
「夏休みに、家族で母方の実家に帰省して……。車で人気のない道に入ったんです」
――助けて。
聞こえるはずのない声が聞こえる。
「運悪く怪魔に襲われました。魔物なら、車の中でじっとしていれば助かったかもしれません。でも、怪魔は簡単に車を引きちぎって……」
そこから先は思い出したくもない。
ぐちゃぐちゃと汚い音を立てながら、父も、母も、双子の兄さえ貪り食われた。
生きながらにして体を食われる悲鳴。
牙を立てるごとにびしゃりと吹き上がる真っ赤な血飛沫。
見ていられずに思わず目を閉じた。
肉がぶちぶちと千切れる音。
骨をごりごりと噛み砕く音。
腸をずるずると啜る音。
内臓の弾ける音。
びちゃびちゃと血が滴り落ちる音。
その全てが頭にこびりついて離れない。
自分が助かったのは、自分だけ人並み外れた法力を持っていたからだ。
「私は、魔物や怪魔を打ち倒したい……! クロさんは、どうして魔物相手に戦えるんですか。あんな、怖いものと……」
縋るようにクロを見つめると、彼は逃げるように目を伏せた。
「俺の纏う鎧は魔を誅するために作られた。だから戦う。怖いなどと言うことは許されない。お前たちが食事をするように、必要だからやっているだけだ」
クロは指輪を確かめるように触れながら言う。確かに彼は言っていた。魔物と戦うことが役目だと。
許されなくても、怖いと思うことはあるのか。
「……俺が戦うのは罪であり、罰だ」
その言葉の意味を知りたかった。だがクロの面持ちは暗く、それ以上追及することが憚られてしまう。
誰にだって触れられたくないことはある。それに触れてしまった気がして、自分の欲しい言葉を求めるあまりクロにそんな顔をさせたことがひどく情けなく思えた。
「すみません、クロさん。……護符を並べて乾かしていただけますか。沢山作りますので」
クロは黙って頷き、まだ乾いていない護符を冷房の風が当たるように畳の上に並べた。
静寂を埋めつくすように蝉の声が響く。普段はうるさいとしか思わないその音が、今は有難かった。
気を持ち直して護符を書くことに集中し、一袋百枚は作った。これだけあれば各家庭に配っても足りるだろう。
気が付けば時計は九時を示していた。
六時半に起き、身支度をしてクロと朝食を食べていると紫水が起きてきた。
「今日は結界の様子を見に行くんでしょ? だったらお守りも作って配ってきなよ。クロくんの挨拶も兼ねてさ。朝の巡回は環くん一人で行ってもらって」
「確かに、お守りもあったほうがよさそうですね」
そう言ってまだシリアルを食べているクロを置いて、隣の八畳間に行く。押し入れから箱を取り出して卓袱台の上に置いた。
箱の中には葉書サイズの和紙と筆、朱色の墨汁が入っている。
それらを取り出し、手に持った筆で和紙に五芒星を書く。最初は上手く書けずに下敷きが必要だったが、数えきれないほど書いていると嫌でも体が覚えるというものだ。さっと均整の取れた赤い星がきらきらと光り輝いている。
「それが魔除けか?」
いつに間にか皿を片付けたクロが手元を覗きこんでいた。
「き、機関の術師は元を辿れば陰陽師ですので。晴明桔梗です」
驚きに声が上擦ってしまった。距離が近い。動揺に気取られぬように一枚、二枚とお守りを量産していく。
「これはいい魔除けだ」
ほめられてどきりとする。てっきり食にしか興味がないと思っていたので、自分に関心を持たれているとわかると照れくさくなってしまった。
「自分で言うのもなんですが、私は法力A級なんです。全国に百人もいないんですよ。物に念を込めれば強力なお守りや武器を作れるんです」
「その力で戦わないのか?」
「それ、は……」
クロの自然な問いかけに手が止まる。筆を置いて視線を落とした。
「私の家族は……、怪魔に食べられたんです」
思い出すだけで寒気がし、体が震える。
「夏休みに、家族で母方の実家に帰省して……。車で人気のない道に入ったんです」
――助けて。
聞こえるはずのない声が聞こえる。
「運悪く怪魔に襲われました。魔物なら、車の中でじっとしていれば助かったかもしれません。でも、怪魔は簡単に車を引きちぎって……」
そこから先は思い出したくもない。
ぐちゃぐちゃと汚い音を立てながら、父も、母も、双子の兄さえ貪り食われた。
生きながらにして体を食われる悲鳴。
牙を立てるごとにびしゃりと吹き上がる真っ赤な血飛沫。
見ていられずに思わず目を閉じた。
肉がぶちぶちと千切れる音。
骨をごりごりと噛み砕く音。
腸をずるずると啜る音。
内臓の弾ける音。
びちゃびちゃと血が滴り落ちる音。
その全てが頭にこびりついて離れない。
自分が助かったのは、自分だけ人並み外れた法力を持っていたからだ。
「私は、魔物や怪魔を打ち倒したい……! クロさんは、どうして魔物相手に戦えるんですか。あんな、怖いものと……」
縋るようにクロを見つめると、彼は逃げるように目を伏せた。
「俺の纏う鎧は魔を誅するために作られた。だから戦う。怖いなどと言うことは許されない。お前たちが食事をするように、必要だからやっているだけだ」
クロは指輪を確かめるように触れながら言う。確かに彼は言っていた。魔物と戦うことが役目だと。
許されなくても、怖いと思うことはあるのか。
「……俺が戦うのは罪であり、罰だ」
その言葉の意味を知りたかった。だがクロの面持ちは暗く、それ以上追及することが憚られてしまう。
誰にだって触れられたくないことはある。それに触れてしまった気がして、自分の欲しい言葉を求めるあまりクロにそんな顔をさせたことがひどく情けなく思えた。
「すみません、クロさん。……護符を並べて乾かしていただけますか。沢山作りますので」
クロは黙って頷き、まだ乾いていない護符を冷房の風が当たるように畳の上に並べた。
静寂を埋めつくすように蝉の声が響く。普段はうるさいとしか思わないその音が、今は有難かった。
気を持ち直して護符を書くことに集中し、一袋百枚は作った。これだけあれば各家庭に配っても足りるだろう。
気が付けば時計は九時を示していた。
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